20オブザデッド
第三の星を離れ、銀河怪獣の魔の手を振り払い、にゃんにゃんにゃ~ご☆星の復讐者を返り討ちにして、幾度かのワープを繰り返し──。
ついに、宇宙船なろう号は、太陽系まで後少し、というところまでやってきた。
そこで艦橋に、死神が現れる。またなにか小言を言いにきたのかなと思って提督が顔を出すと、そこにいた死神はなんと十体。
十体の4メートルのワニに囲まれ、さすがの提督も震え上がった。
「えっ……な、なんですかね……?」
だが赤い眼の死神は提督をじろりと眺めたあと、順々に消えてゆく。やがて残ったのはいつもの死神と、それにもう一体の死神だけだ。
「な、なにか審査とかされた感じですか。人類の存亡にふさわしいかどうか、みたいな」
『遠からずと言ったところだ』
「えっ」
『なるほど』
もう一方の、初めて見る方の死神が、うなる。いつもの死神より、少しだけ硬質的な口調だった。本当に別人格の、別個体らしい。
「もしかして、死神さんってまだまだ大量にいらっしゃるんですか。人類の滅亡を常に狙っているんですか」
『いや、十だけだ』
「なるほど…………」
新顔の死神が、まるで歌うように言い放つ。
『では、私からもひとつ、贈り物をしよう。キミたちニンゲンにとっては、なによりも幸福なプレゼントだ。夢の中で、眠り続けるかどうか、それはキミたち次第だ』
そのとき、提督の眼前に視界が弾けた。
──それは、ある日の一幕の風景だった。
こたつに足を突っ込みながら昔なじみの仲間たちと、自分の部屋で一緒にスマブラをするような、そんな夢だ。
ハッ、として気づく。
周囲を見回すと、そこは死神のいる艦橋だった。
「い、今のは、いったい……?」
『おや、ずいぶんと打ち破るのが早い。この夢は、私たち高次元生命体からの干渉波だ。そうか、キミは彼と長く話を続けていたから、耐性ができているのかもしれないね』
「ええと……?」
『だが、もう二度と覚醒めないニンゲンも、多くいるだろう。醒めない夢の中で、永遠に生き続ける。それもまた“幸せ”だとは、思わんかね?』
提督はその言葉を聞いて、彼の思惑を悟った。彼ら死神はまだ人間を幸せにするつもりだったのだ。いいや彼らという表現は正しくない。新たに現れた『彼』はだ。
ひょっとしたら、と提督は思った。彼らは最初から死神などではなく、人類の監視者だったのだろうか。だがしかし、なんの縁があって? 提督は搭乗員たちの様子を見るために、艦橋を出た。
高次元生命体からの干渉波をはねのけるためには、人間的な魅力、あるいは幸運が必要となる。さて、この能力を浴びて夢を見続けることになった人物は──。
(久しぶりにサイコロを振るシーンをちゃんと描きました。いや、なんかもう、ここまで時間をぶっちしてたら、25日中に終わればいいかな、って……へへへ……)
──19人の搭乗員である。
売れないミュージシャンだったうすしおは、唐突に馬鹿売れする夢を見た。You Tubeの再生数は2兆回。公務員の仕事はすぐにでも辞め、飼っている猫もうすしおに「やるじゃん」と褒めてくれた。
「俺が、この世界の、ボヘミアン・ラプソディだぁーーーー!」
拳を天高く突き上げる彼の姿を、ファンたちはむせび泣きながら拍手で迎え入れた。うすしおの伝説はまだ始まったばかりだ。そう──彼はこの精神世界の中で、いつまでも幸せに、暮らし続けるのだった……。
エンドレスはゴリラだ。ジャングルの王者で、バナナを持っているゴリラだ。他に情報がない。情報がないのでパーソナリティが想像できないが……とりあえず、そう、ですね……。他のゴリラにモテモテの夢……とか? すごい発想が貧困なんですが、ゴリラの幸せってなんだろう……。ああ、たぶんVRMMOとかでも人気なんだと思います。
エンドレスは子孫繁栄、群れのボスとなり、幸せに暮らしましたとさ……。めでたしめでたし……。
真紅の宇宙服を着たくらりは、ジェイムズ・P・ホーガン著『星を継ぐもの』を放り投げ、なるほどね、とつぶやいた。
「これは、どうやら精神的な世界に閉じ込められた、のかな」
想像するだけの幸せが飛び込んでくる。それ以上の不幸はなにも起こらない。そこはそんな、絶対幸福の空間だった。くらりはわかってなお、そこにとどまり続けた。
「ん……、ま、いいさ。これもひとつの人生さ」
厭世的に笑って、くらりは再び本を拾い、タワーマンションの最上階にて、優雅な生活をエンジョイし始めた。
数多の雪は比較的ゴリラ寄りの姿をした、長者だ。わらしべを手に持っている。またゴリラかよ!! そのお金でバナナでも買ってればいいじゃん! でもお金をたんまり持っているがゆえに、お金じゃない幸せに飛びつくとかは、なんかエモいよね。
というわけで、数多の雪は囲炉裏のあるような民家で、静かに慎ましく暮らしていった。その生活は金はないが、誰にも脅かされることもない、なんにもない生活だった。しかしそれはきっと、この上なく幸せな生活だったのだろう……。
敗北者は半裸だ。職業は息子で、持っているものは命である。ギリギリすぎるでしょ!!! えっ、なに……。この人の幸せな夢って、なんだ……? えっ、わからないけど……ようするに、成功者になれる夢でしょう? それじゃあ、突然宝くじが当たって、50億が手に入りました。なにをするのも自由です。
敗北者は毎日遊んで暮らしました。いつしか持っているものは命だけではなく、ありとあらゆるものが手に入り、すべてを手に入れた彼はいつしか勝利者と呼ばれるようになりましたとさ──。
石之宮 葵はらんがくせいのお姉さん(六歳)である。らんがくせいであり、持ち物として地球をチョイスしている。彼女は将来的にすごく立派な蘭学生になり、世界的に有名な蘭学家になるのだろう。なんといっても魅力が9だ。光り輝く未来が待っている。
事実、大人になった石之宮 葵は優しい人と幸せな結婚をして、子どもがいるかいないかわからないけれどとにかく幸せな生活を送り(※現代日本の価値観を尊重した書き方です)、そうして幸せな夢の中で静かに息絶えたのだった。
赤井麦酒は、ギンガパトロール隊である。
"ギンガパトロール隊、地球支部隊長パトレッド、その正体は平和と酒をこよなく愛する若者、赤井 麦酒である!普段は冴えない彼も、一度地球に危機が迫れば、ギンガパトロール隊専用、高機動宇宙服を身につけ、本部から支給されるギンガアイテムの数々を駆使し、平和を脅かす悪と闘う戦士となる!
今回、彼に下された任務は、宇宙船なろう号に迫る危機を未然に防ぐこと。彼は宇宙船に潜入し、任務を遂行し……ようとするのだったが、乗船時係員に呼び止められてしまう。
なんと彼のギンガアイテムや、パトロール隊服は【地球から持ち込めるものは、1つだけ】というルールに抵触してしまったのだ!
平和と酒をこよなく愛する赤井 麦酒は、葛藤の末、1つだけ地球から持ち込むアイテムを
【缶ビール】
に決めた。
結果、彼は缶ビールの他には、ギンガアイテムも、高機動宇宙服も、衣服も何も持たず、
ただその身一つ(全裸)で
【全裸で】
【全裸に缶ビールを持って】
【ルールを厳密に守りアイテムを、1つだけ持って】
宇宙船なろう号に乗り込むのであった……。"(原文ママ)だ。
そんな彼は銀河パトロール隊の長官となり、なんだか適当なことばかり言っていれば褒めそやされて、そして日がな一日ビールを飲むことのできる退廃的な生活を送っている。出てくる悪党はちょうどよく弱い奴らばかり。世界は一歩一歩幸せに近づいてゆく。そんななにげない生活こそが、赤井 麦酒にとっては閉じこもるに値する夢の生活なのだった。
白衣眼鏡、眼鏡は逆光もないのになぜか光るという研究員、傘印さんはTウィルスをちゃぷちゃぷ言わせながら悦に浸っていた、アブない男だ。彼の夢はゾンビなどではなくTウィルスを注入したタイラントで地球を満たすことだ。そして、その夢はかなった。
今、タイラントたちはすべて、傘印さんの手足と化している。傘印さんが命令すればすべて、思うままに動くのだ。もはやこの世界の神は、傘印さんといっても過言ではない。傘印さんは高笑いをあげる。ああ、ああ、愉しい。逆光もなく、メガネが光って前途を明るく照らしていた。
おおがらすは大きいカラスだ。日本語!!! 鳥であり、髑髏を持っている。あっ、これドラクエに出てくるおおがらすだ。ということは将来の夢は決まっている。スカイドラゴンだ。あのかっこよくて強い姿に恋い焦がれるほど憧れたが、所詮はカラス。その夢はかなわなかった。
だが、ここでなら叶う。種族の夢も、乗り越えられる。おおがらすはスカイドラゴンとなって大空を泳ぐ。その威風堂々たる姿には、誰もが羨望の眼差しを向けた。最高だ。ああ、なんて素敵な世界なんだ……。
リア・ジューバッハは宇宙ゴミ清掃員だ。酸素生成機を持っていることから、用心深くて慎重な性格であることが知れる。小柄で華奢な女性。目深にかぶった帽子で表情が分かり辛い。 数年前に世間を騒がせた「恋人の聖地連続爆破事件」の被疑者。 である。
そんな彼女は今、恋人の聖地連続爆破組織『黒い恋人』の会の会長を務めている。彼女に付き従う部下は皆、リア・ジューバッハを心から敬愛している。そんなリア・ジューバッハの最近の悩みは、慕ってくれる部下たちがみんな性格のいいイケメン揃いのことだ。毎日毎日代わる代わる求婚されてしまい、このままでは黒い恋人の会にも支障をきたしてしまうかもしれない。まったくもう、困った困った。
極光のレイヤは多星間翻訳通訳ロボットである。内部に搭載された液体窒素は、場合によっては武器にもできる。129.3cmくらいの人型っぽいロボットだ。つるっつるの胸に当たった光が空に反射してオーロラを描くくらいの幼女体型からこの二つ名に。通訳の時はロリから渋いおっさん声も出せるのだ。
そんな極光のレイヤはプログラムにはない『緊張』という感情を覚えていた。これから惑星間同盟会議が始まるが、そこに抜擢された翻訳通訳ロボットが極光のレイヤだったのだ。極光のレイヤの言葉ひとつで戦争が起き、あるいは和平が締結するかもしれない。この大事を前に、極光のレイヤの胸は早鐘を打っていた。さあ、行こう。極光のレイヤの戦いに──。
まおはパンダだ。もっふもふ。人をダメにする天然毛皮を持っている。でもパンダに直接手で触りたがる人はいるんだろうか……。だってあれ、クマの仲間でしょ……。つやつやササの葉を持っている。そんなパンダは思った。普通に肉食いてぇ、と。
パンダといえばササというイメージがあるが、パンダは食肉目だ。魚や小型の哺乳類を食することができるし、実際に食べている。そこらへんにササが多いからササばっかり食べているのだ。ササを食べるために適した消化器官をもっているわけじゃないし。というわけで、まおは肉を貪り食った。兎やアライグマ、豚、人間の子ども、あらゆる肉を食いまくった。これがパンダの夢だ! お前らパンダを誤解している! パンダはクマなんだぞ! 目を覚ませ!!!
むらびとは大学教授(農耕系)だ。田舎の百姓のイメージそのままな姿であり、クワを持っている。そんなむらびとがある日目覚めると、どこか見知らぬ世界へ転移していた。ここは……異世界だ。「お前、それはなんだ?」と聞かれ答える。クワ。畑を耕すためのものだ。「ええっ!? そんなものがあるんですか!?」なんとこの世界の人間は皆、畑を耕すために手作業で行なっていたらしい!
一年後、むらびとの名を知らないものはもはやいなくなっていた。王女やエルフの娘、魔族の美少女からも求婚されて、大忙しの生活だ。そんなむらびとは、本日ビニールハウスの話をすると、村人たちはまたも目を回して卒倒した。むらびとは後頭部に手を当てて苦笑する。「また俺、なにかやっちゃいましたかね」
Mii ファイター(剣術タイプ)は、Mii ファイターの赤服の人だ。剣術道場の師範
であり、日本刀を持っている。そもそも、Miiファイターとはいったいなんなのか。それはスマブ……いや、わからない……。わたしにはなにもわからない……。
Mii ファイター(剣術タイプ)??? Miiがまずわからないのに、ファイターでさらにカッコの中に剣術タイプって書いてある……? すっかり意味不明だ。なんだろう、戦う人、なのかな? 今週のアナタの運勢は、剣術タイプです! みたいなことなのかな? よくわからないですねえ……。なんでもいいけど、スマブラをやっている間だけ時が止まる部屋がほしいです。
鉈蓋世迷は半裸の髪ボサボサの男だ。マタギで、鉈を持っている。野生動物を狩って生計を立てている、世俗から離れた暮らしをしている彼の夢とは? 実は、高校時代に付き合いかけた幼馴染の女の子がいたのだ。名前を真鉈ちゃんと言う。彼女は優しくて、愛らしくて、Fateの凛に似た顔をしていた。
あと一歩、踏み出すことができていたら……鉈蓋世迷はこの歳になってもときどき思い出すことがある。そんな彼は今高校生に戻り、目の前にはあの日の女の子がいる。「どうしたの? 私のことじーっとみて。なにかついてるのかな、よっくん」 鉈蓋世迷は恐る恐る口を開く。「実は俺、ずっとキミのことが──」
経験値は、両手でサイリウム8本振ってる。オタク気質のナニカだ。サイリウム
を持っており、職業は経験値である。人を応援し、人の経験値になるのが彼の至福の喜びと言っても過言ではない。
そんな経験値の夢とは、ちょうどレベルマックスになるキャラクターに、ちょうどの経験値を差し上げることだ。まるでパズルみたいにピタッと経験値メーターがハマるその瞬間に、経験値は昇天しそうになるほどの快感を味わうのだ。実際、それで夢の中とはいえ、経験値は消滅してしまったけれど……それも含めて、経験値の本懐であった。
マーロン・ナイスマッスルは、ボディビルダーだ。筋肉ムキムキのビルダーで、最高級プロテイン(給料3ヶ月分)をわざわざ宇宙に持ってくるほどの筋金入りである。そんなマーロンは筋肉になりたかった。
筋肉だ。あれほど美しいものはない。できることなら筋肉と一体化したい。内臓なんて不要だ。あんなものは体脂肪率をあげるだけの物体だ。骨もいらない。いや、骨に絡みつく筋肉美は理解できる。残してやってもいいが、しかしあくまでも主役は筋肉だ。当然、鍛え上げられている。マーロン・ナイスマッスルは自らを鍛え続け、ついにはただの筋肉に変わった。たぶんあれだ、人面疽みたいな感じの。きょうもキレてるキレてるぅー!
まいは銀髪碧眼の幼女(去年よりちょっと成長した)だ。軍人であり、大好物のらっきょうを持ち歩いている。パラメーターは2,2,3,3と、非常に平均的である。彼女は幼い頃から軍属であり、まるで平凡な学校というものに通ったことがない。
もし生まれ変われたら、なにをするか。そうだ、小さな鏡を一つ買って微笑む練習をしてみよう。もし、誰も傷つけずに生きていいっていわれたら、風にそよぐ髮を束ね、大きな一歩を踏みしめて、胸を張って会いに行こう。会いたかったすべての人たちに。今まで傷つけてしまった、多くの人たちに──。
まいは幸せな世界の中で今、小学校に通っている。ここは騒がしくて、喧嘩をすることもあるけれど、誰もが幸せそうだ。自分を拾ってくれた男の人も女の人も優しくて、今はまだパパ、ママと呼ぶ勇気は出ないけれど、しかし、いつかきっと。
地球が滅んだことなんて、ウソみたいだ。だってここはこんなにも幸せで、穏やかな時間が流れているのだから。
まいは宇宙船の自室で、眠るように目を閉じていた。そこには、生涯一度も浮かべることのなかった、満ち足りた幼子としての笑顔があったのだ、という──。
干渉に飲み込まれるもの、打ち破るもの、最初から意に介さぬもの、それぞれを乗せて、宇宙船なろう号は地球へと向かう。
そこに最後の関門、時空断層の揺れが襲いかかった──。




