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15オブザデッド


「提督が!?」

「死神に喰われて!?」

「いなくなった!?」


 艦橋でうろたえる乗務員たちに、一喝が飛んできた。


『落ち着いて!!!!!!』


 一斉にみんなはそちらを見やる。宙に浮かんでいたのは身長130センチの金髪幼女、かわいいかわいい信頼できるかわいいF.E.H.Uだった。


 ああっ、信頼できる! とみんなはすがるような気持ちで超AIの言葉を待つ。超AIはその視線をたっぷりと集めてから、間を取って、かわいらしいCVのついたボイスで語りかけた。


『みんな! 提督がいなくなったからって言っても、この船にはあと100人以上の人が乗っているんだよ! これだけ人がいるんだから、大丈夫! 提督がいなくなっちゃったのは悲しいけど、あはっ、諸行無常だよね! でもでも、みんなにはこのスーパーAIのフェフさんがついているんだから! 任せて!』


 乗務員たちはどよめいた。そうだ、確かに。提督はいなくなってしまったが、ここにはこんなにもかわいくて信頼のできるF.E.H.Uがついているじゃないか。そうだ、この先の航海には一ミリの不安もない。安心しよう。安心した!


「……ということは、ワシらはこれから?」


 豊臣秀吉の外見をした豊臣秀吉が問う。いや、秀吉ならお前が提督やってもいいのでは……? という気分があふれてくるけど、それはともかく、F.E.H.Uはにこぱっと笑った。


『もちろん、第三の星を目指すんだよ! だって、それが提督の遺志だし、みんなの願いでしょう? 大丈夫、航海航路は僕に任せて! 安全安心、最短距離を突っ走っちゃうよっ!』


 ついに乗務員たちは拳を突き上げた。ワァッという歓声が巻き起こる。そうだ。なんの心配もなかった。だいたい提督ってなにかしてたっけ? この企画がどういう趣旨なのかを説明するだけのチュートリアル係でしょあれ。いてもいなくても同じ賑やかしじゃないか。そうだそうだ!


 こうして人々は新たに超AIの元、ひとつになった。ひとつになって一致団結した宇宙船なろう号には、もはやこわいものはなにもない。そう、人間が人間を導くなんて時代遅れだ。時代はかわいくて信頼できるコンピューターさまだ。幸福です。我々は幸福です。


『さあみんなで一緒にー!』


『幸福です! 我々は幸福です!』


 それはまるでアイドルライブのような熱狂だったのだ。





 さて、提督は死んでもわたしの仕事は終わらないので、第三の星へ向かっていきます。でもこの話を含めてついに残り9話! 今回もたくさん生き残っているなあ! 前回みたいなエピロード六話連続更新はね、ほら、生き残ることにレア感がなくなっちゃうから、できればやりたくないんだよねえ!


 ワープ後は、目の前に青々としたかつての地球を思わせる星が浮かんでいた。それを目撃した夜騎士のなまごめが思わず「地球だ……」とつぶやいてしまうほどだ。


 しかし、そこは地球とは違うことは明らか。なぜなら、土星のような輪がくっついているからだ。いよいよ最後の星ということで、銀河連邦星間巡視隊事務係の足の生えたじゃがたらいもが、三番目の惑星探査船を起動させる。


 その惑星探査船は、ミンナアッサリスグシーヌという名だ。よくわからないが、死の描写すらもほとんどなく、あっさりと何十人もまとめて虐殺されそうな気配がする。


 では、この探査船に乗る40人を選ぼう……というところで。


 F.E.H.Uが、はいはーいとぴょんぴょんと伸びをしながらちっちゃなお手てをあげる。


『どうせ最後の星なんだし、ここはみんなで行ったらいいんじゃないかな? だって、この星が駄目だったらそのときは……ね?』


 シュンとしたあとの上目遣いに、みんなは『確かに…………』と大きくうなずいた。よし、それじゃあみんなで行こう。だいたいなんだよ、ミンナアッサリスグシーヌって名前。今までの宇宙船もひどい名前だよ。そんな船でよく乗務員を送り込めたな、あの提督は! あいつのほうがよっぽど信頼できないやつじゃないか! ぷんぷん!


 というわけで、残る乗務員は全員まとめて、宇宙船なろう号ごと第三の惑星に到着させることにした。帰りの第二宇宙速度を出すためのエネルギーは、すでに確保している。もうなにも怖くない!



 大気圏突入時に多少グラグラ揺れたものの、それ以外に大したアクシデントはなく、宇宙船なろう号は見事、優秀なF.E.H.Uの精確な計算通り、大陸すぐ近くの海面に着水した。ざっぱーんと水しぶきをあげて、そのまま宇宙船なろう号は飛空艇のように大陸に接岸する。


 ハッチが開き、探索隊が結成された。40人だ。今までの悲劇を思い出すと、それは決死隊の様相を呈していた。


 しかし彼らは周辺をぐるりと回ってきて、危険がなにもないことを確認すると、両手いっぱいにたくさんのフルーツを抱えて戻ってきたのだ。


 毒味係である黄色いレアの彷徨える怪しい鳥がまず匂いを嗅ぎ、肌に乗せ、舌に乗せ、さらにひとくち食べて、それでもなんの異常もなかったため、いよいよまるごと口にした。ザクロに似たその果物は甘く、瑞々しく、この上ない濃厚な味がした。半日経って容態に変化はなかったため、いよいよ一同はそのフルーツを口にした。


 久しぶりに味わう宇宙食ではない食べ物に、一同は舌鼓を打つ。しかもそれは100人以上が腹一杯になっても、まだまだ大量に成っているのだ。ヒュー! 最高ー!


 もちろん水はあり、食料もこうして潤沢だ。ともなれば、あとは外敵の探索だ。再び40人の捜索チームが組まれ、順々に浜辺から出発していった。残る乗務員は浜辺に接岸された宇宙船なろう号の中で、チームの帰りを待っていた。


 翌日、捜索チームは大量の獲物を手に戻ってきた。凱旋であった。



「たくさんの原生生物はいたが、どいつもこいつも動きがノロくて、仕留めるのはたやすいモンだ。まるでキーウィ鳥だな。きっと天敵らしい天敵がいねえんだ。まったく、いつまでもこの星にいたんじゃ、腕がナマっちまうだろうよ」


 鉈蓋世迷(なたふたよまい)はそう言って笑う。マタギで鉈持った彼は、そのゴツゴツしたふしくれだらけの手で、器用に獲物を解体し始めた。


 水、食料、栄養価の高いフルーツ、それに天敵はおらず、平和な環境。この星にはなにもかもがあった。まるで理想の星だ。確かに今から新たな文明を築き上げるのは大変だろう。人類は一時的に退化し、スマブラへの道は遠いものとなるかもしれない。だが、それでもやり直せるのだ。そう、きっとこの星ならね!


 というわけで、乗務員は浜辺にキャンプを立てて、この星で長期間住めるかどうかの実地キャンプを始めた。様々な調査や実験も並行して、だ。



 当然、アクシデントは起こった。具体的にどんなアクシデントかというと、腕力、知力のどちらかの判定で7以上の数値の判定失敗したもの、あるいはファンブルを出してしまったものへのアクシデントだ!



 思った以上の強い雨に、せっかく立てたテントがいくつか流されてしまい、せっかく地球から一緒についてきた参加者であるたんぽぽ(職業は雑草だ)が、海に消えていったり。


 外見はホルスタインの肉牛、牛殺しさんがテンションのあがった乗務員によって焼肉パーティーをするために屠殺されてしまったり。


 あとは宇宙船なろう号から引っ張ってきたもみの木──職業クリスマスツリー、外見クリスマスツリー、持ち物は星の飾り──のもみの木を、この星に植えてみようぜ、という計画によって、潮風でもみの木が見事枯れる結果になったり。


 正体はカニの、名前はウニ、そして職業はtakoで、持ち物はカニミソという某AAのようななにかが、この星の環境に適応できなくて、腐って投げ捨てられたり。


 空飛ぶケモノであるエゾモモンガが、風に乗って「俺はこの星のすべてを見たい。隅々までな」と言い残し、コンビニでカップ麺を買ったのに渡されたスプーンを咥えたまま、どこかへ消えていったり……。


 ゾンビAという名前のゾンビの大群をもったゾンビが紛れていて、「うわ、この星にもゾンビいんの!?」という驚きとともに撲殺されたり。大丈夫です。ゾンビがいたのはずっと、宇宙船なろう号の船内でした。なんだ参加者かー、ふーあぶなかったー。


 同じように、浜辺をウロウロしていたヒグマの古宮が、あっ、あいつヒグマだ! こわい! 鮭咥えてるし! とビビった狩人によって撃ち殺されたり、とかだ。確かに星でのっしのっしとクマが歩いていたら超怖いよね……。ただのヒグマだし……。


 緑髪ポニテJKで、絵本作家になりたかった自宅警備員のえびみそが、スマブラのパッケージだけを撫で回しながら「もう少し、もう少しでスマブラが……」とうめいていたら、岩場の崖から足を滑らして海に落ちてしまい、その瞬間に脳裏にVICTORY!!!!の文字が踊り、死後の世界で永遠にスマブラを遊び尽くす時間が与えられたり。


 去年死んだ松永久秀みたいな顔をしている(去年ってなんだ……? なんのことだ……?)松永久通が「せっかく砂浜があるんだからビーチバレーやろうぜ!」と爆薬がメチャクチャ入った壺をレシーブして跡形もなく消え去ったり。(これがきっと旅先の開放感なのだろう、知らないけれど……)



 そんなアクシデントはあったものの、星での生活は、おおむね良好だった。ここが理想の星だ。ここ以上の環境は他にはありえない。よし、ここに地球人類を全員呼んでこよう!


 ので、いよいよ地球へと向かおうか! と一同が腰をあげたその日に、事件は起きた。




 宇宙船なろう号が、なにものかの手によって、爆破されたのだ──。



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