13オブザデッド
突然だが、鳳凰院 沙耶華という女の子がいた。"黒髪黒目巨乳の高校生(中退)由緒正しき家に生まれた本物のお嬢様。だが、突如占星術師になるため学校を辞め家を飛び出したアホの子!現在はホームレス生活を送りながらほぼ当たらない占い師をやっている。見た目は知的なせいで騙される人が続出。ホームレス生活で地味に体力がついている。占星術を極める為なろう号に乗り込んだ。"(原文ママ)だ。個人的にこの設定、好きです。でもこのお話、全キャラ使い捨てにしなきゃいけないから……。今度、30人ぐらいの数での更新もやってみたいよね。余談でした。
高級カメラを持ったまま、鳳凰院 沙耶華はワープ装置の近くへとやってきていた。
「占星術師では~、こちらに吉があるっていうことらしいんですけど~」
ふわふわと浮くような足取りでやってきた彼女は、立ち止まる。目の前に黒い影が立っていた。ほえ? と首を傾げた直後、彼女の身体はなにものかに飲み込まれた。ばぐばぐばぐばぎばぎばぎばぎぼぎぼぎぼぎぼぎごっくん…………と、闇の中に何者かは消え去ってゆく…………。
「え、怪物が?」
「はい、船内で見たって」
きりんがそう言ってきた。きりんはきりんのきりんである。待ってください。ついに寝ないでみかみてれんさんの頭がおかしくなったと思わないで。そう書いてあるんだから! しかも持ち物はみりんって!! なんだよそれ!! 語呂だけだろ!!!
取り乱した。提督はしかしわたしではないので、ふーむ、と非常に冷静に腕組みをする。
「怪物かぁ……」
「実際に死者が出てるらしいですよ。しかもワープ装置の近くなので、怪物をなんとかしないと、次のワープができません。第三惑星に行けません」
「え、マジで。やばいじゃん。倒そう」
「あ、はい。そうしましょう」
そういうことになった。討伐隊が結成される。
この時点では、提督もまだ気楽に構えていた。だって先ほど、SSRデスバハムートを倒したばかりなのだ。どんな怪物であろうと、あれ以上のことはない、と……。
そうして派遣された討伐隊が出くわしたのは、闇の中、光る眼だ。
討伐隊のひとり、山鳥はむはライトで前方を照らす。さらに片手には、愛用のチタン合金製モンキーレンチを握っている。腕利きの機械技師なのだ。
「なんだぁ……?」
ふむ、と五十嵐博士が天体望遠鏡を覗き込みながら、医学的見地に基づいた言葉を発しようとする。だが、その動きがぴたりと止まった。
現れたのだ、怪物が。それは四足で、身の丈は4メートル。尾まで含めると、7メートルに至るほどのワニに似たバケモノだった。割とリアルめに怖いやつである。しかし、全長20キロの量産型デスバハムートをわんさか倒した一同にとっては、チワワのようなものだ。いや、チワワは人喰わないけど。
一同は光線銃を構え、突き出す。その引き金を引こうとしたそのとき、怪物が声を発した。
『──オロカナ、ニンゲンドモガ──』
それは頭の中に直接響く声だった。愚かだとは言うが、いったいなにが愚かなんだ! 具体的に言え! クリスマスに一円にもならないのに24時間連続更新していることが愚かなのか!? そうか! まあそうだよね!!
違った。怪物はさらにぬちゃりと粘質的な足音を立てて、近づいてくる。
『──ホロビヲ、ウケイレロ──サモナクバ、ワレガ、アタエル──』
怪物に一斉に銃撃が放たれた。光りに包まれるが、怪物はびくともしない。そこになにもないような顔で、ぬちょり、ぬちょり、と近づいてくる。
「まさか………………」
「知っているの!? 社畜おじさん!」
社畜おじさんは企業戦士だ。くたびれた社畜のおじさんで、栄養ドリンクが手放せない。知っているわけがないとは思うのだが、この中では一番知力が高いので、知っていることにした。
「ああ、うちの会社でもよく話題になっていた……。あれは、死神だ……。神様だよ。寿命が近づいた人の前に現れて、その魂を喰らうっていう……うちの会社でも、何十人かやられていた……」
「何十人も!? ていうかあんな物理的な手段で!?」
スイミングインストラクターの空き箱が悲鳴を上げる。社畜おじさんはぐいっと栄養ドリンクを一気に飲み干した。
「あたしたちが、どうして、ほろぶの?」
お父さんのぶかぶかの宇宙服を着た幼女のティーが、隣にいた地質学者、草津 泉の袖を引く。泉は温泉に入らないようにショートヘアにした髪を撫で、そうね、と前置いてからつぶやく。
「どうして、っていう意味では……もしかしたら、地球人類は皆すべて、2018年に滅ぶはずだったのかも、しれないわね……」
なるほど、とうなずいたのは雪だるまのハッコーダさんだ。こたつに入っているので、身体がみるみるうちに溶けていっている。
「確かに、滅びを受け入れるのも、ひとつの手だったのかもしれませんね。まあ、わたしはこうして今まさに滅んでいっているわけですが。ハッハッハ」
笑い声を上げながら、ハッコーダさんは溶けて消えた。滅んだ。
「さて、しかし滅びろと言われて、素直に滅びるわけでもないのが、人間のいいところ。そして、僕の好きなところですよ。ねえ、奥さん」
エリートサラリーマンの西条太一は、奥さんと名付けた右手に話しかけた。眉間のシワとメガネがトレードマークの青年だが、右手に話しかけている姿は正直、目の前の死神と変わらずに怖かった。
「そうっすよ、夢を見るのが人間のいいところ、ってね」
デイドリームビリーバー(無職)の哲理が口笛を吹く。そこには悲観的な色はひとつもなかった。なぜなら無職だから。仕事のストレスとかがないから、内臓もきっと健康だ。
一同を代表し、改めて五十嵐先生が理知的に口を開く。
「つまり、こういうことですね。私達は滅びません。あなたの言うことは聞きません。次の星へと向かいます。なので、そこを立ち退いてください。ワープ装置を起動させなければいけないんです」
死神は嗤ったような気がした。
『──ニンゲンドモヨ、ウンメイヲウケイレロ──』
山鳥はむが、肩をすくめる。
「ンな殊勝な種族だったら、こんな宇宙の僻地まで来ちゃいねえよ。しぶとくて、鬱陶しくて、賑やかで、どうしようもなくて、でも生きることだけはやめらんねえ。それが人間ってもんなのさ」
死神が、牙を剥く。
その場には、十人の死体が転がった。しかしそのどれもが前のめりに倒れ、決して背中には傷がついていなかったという──。




