島の探索2
これから畑でいろいろ育てていき、果樹園もつくろうと夢が広がっていくけど、その為にも島の外と物のやり取りが必要だ。そんな交易にあたり、ライラ様がまた手動高速船をしてくれるのが一番早いとはいえ、毎回お願いするのはライラ様に負担がかかりすぎる。
そう悩んでいると、ライラ様からは月に一度私とデートで街に行き、そのついでに船ごと運んでデート中にマドル先輩が売買してくれればいいじゃん。とめっちゃナイスアイデアを出してくれたのだけど、いやそれ、私だけなんもしてないですね。と気づいてしまった。
「くくく。お前は疲れた私を癒す担当だろう?」
全力で突っ込みを入れてしまった私に、ライラ様は喉をならすように笑って私の頭をぽんぽんしていて、その笑い方どことなく色っぽくて優しくて素敵でうっとりしちゃうけど、でも、でもさすがに私甘やかされすぎでは?
そもそも私が言い出して無人島を探し出してもらって暮らせるようにしてもらったのに、毎月街にわざわざ行ってデートするのも当然みたいなのからして優しすぎるよね?
「ライラ様……う、嬉しいけど、でもさすがに甘やかされすぎな気も。私も役に立ちたいです」
「私はこの島での服作りや、畑仕事などにご意見を頂けるのが一番助かりますし、それが一番お金になることではないかと思います」
「うーん、それはそうかもしれませんけど」
ライラ様は優しく慰めてくれたし、マドル先輩もフォローしてくれた。二人とも本気で気にしてないんだろう。でも、 マドル先輩は私が島で働くんだから、ってフォローしてくれたけど、それはみんなそうだ。みんな島で働いてお互い助け合って生活をした上で、それとは別に外との交流のお仕事も必要と言う話だ。
「でもマドル先輩とライラ様だってこの島でも働きますよね?」
「エスト様がそのように気にされる意味がわかりません。私はその気になれば、街に行っていても島でイブやネル様と遊ぶこともできます。そもそもライラ様にお仕えすること自体私の喜びですから、そのように気遣われると、逆に困るのですが」
「う……そ、それはそうですよね。じゃあ、マドル先輩はいいとして。ライラ様はそれで本当にいいんですか?」
マドル先輩にはフォローとか慰めるとかそう言う配慮ではなく、真剣に不思議そうと言うか、若干迷惑そうと言うか、ちょっと困らせてしまった。うう。そう言われると、マドル先輩は世話好きで、それが趣味と言えなくもないわけだし。
それにマドル先輩にだけ負担が大きいなんて言うのは、今更と言えば今更だ。昨日からマドル先輩は十人に増えているし、手の数が違いすぎる。普通に家事を全部やってくれるのが当たり前になりすぎている。
じゃあ、マドル先輩はいいとしよう。でもライラ様は? ライラ様は別に世話焼きってタイプではない。今はあれこれしてくれるけど、初対面の時はそうでもなかったしね。
単に私が好きだからあれこれしてくれるだけだ。そんなライラ様に頼りすぎるのは、好意にあぐらをかくようなものだ。それでライラ様に少しでも嫌われたくない。
「構わん。というか私が言い出したんだぞ。それに大きい船を用意したほうが移動に気を遣うからな。今の船程度なら単純な重さも軽い。よっぽど効率的だろう。他に案があるなら言ってみろ」
「うぅ、そう言われると、私が我儘言ってるみたいじゃないですか。私はただ、二人の役に立ちたいだけなのに」
私なりに色々考えての発言だったのに。でも言われてみれば別に代案があるわけでもなく、もう決まったことに一人文句を言っている状態だ。どうしてこうなった? おかしい。最初にマドル先輩が言い出した時は全然決まってなかったはずなのに。
「ふ。拗ねるな。その気持ちは評価してやる」
もやもやした気持ちになって何も言えなくなってしまう私に、ライラ様は私の横にしゃがんで顔を見合わせて微笑んでから、すくいあげるようにして私を抱っこした。
「わっ、ら、ライラ様……」
ちょっと久しぶりのライラ様の腕に座る形の抱っこで、立ち上がられてバランスを崩してちょっと前かがみになってしまう。そんな私のおでこにライラ様は軽く額を合わせた。
ごつ、とぶつかった。まあまあ痛かったけど、ライラ様はにぃっと笑顔になったので、私は何も言えなくなる。
この後、私はライラ様が何を言っても納得しちゃうんだろうな。ライラ様の楽しそうな瞳を見つめながら、そう感じてた。
「だがな、じゃあお前は、船ごと運んでやった私を一人放置して行くつもりか? マドル一人でもできる仕事の補助をするために? 私よりマドルといたいと?」
「そっ、そう言う言い方はずるくないですか!?」
ライラ様はまっすぐにおでこをくっつけたまま、楽しそうな声でそう言った。最終的にはライラ様の言葉に頷いちゃうだろうと思ったものの、まさかそんな風に責められるとは思ってなくて慌ててしまう。
でも、ライラ様の癒し役なんて私が働かない言い訳と思っていたけど、言われたらその通りっていうか、頑張ったライラ様をいたわるのも立派な仕事なのでは?
「ずるくはない。私がお前に求めるのは、いつだってひとつだけだ」
「え、な、なんでしょうか」
納得しかけていたところに、ライラ様が真剣な目で答えるものだから、どきっと心臓が高鳴った。
こ、こんなキメ顔でそんな風に言われたら、もしかしなくても、なんか、すごい、愛の言葉を言われてしまうのでは? 自意識過剰かもだけど、だって流れ的に、私ライラ様に仕事よりデートしろっていわれてるわけだし?
「私の傍にいろ。お前を笑顔にするのも、泣かせるのも、拗ねさせるのも、私だ」
「きゃーっ、ライラ様好きっ!」
わくわくしながら促すと、想定以上のセリフを言ってもらえた私は、抱っこされた状態で至近距離すぎたので照れくささもあって私はそのままライラ様の首筋に腕を回して抱き着きながら、ときめきのまま歓声をあげた。
「……お前、その反応合ってるのか?」
「えー、えへへ。わかりませんけど、でも、そんな風に言ってもらえて嬉しいです。ライラ様大好きです。んふふ」
「まったく。本当に読めないやつだな。まあいい。とにかくそう言うことだ。お前の仕事はデートでいいな?」
「はーい!」
と、言うことになった。
そのまま私はライラ様に抱っこされたまま、マドル先輩が始めている畑を全部紹介してもらい、それぞれの世話も説明してもらい明日からのお手伝いの予定を決めた。
そうこうしているとお昼になったので、いったんお昼休憩した。朝が遅めだったので軽く食事をとった。
イブとネルさんはまだまだ元気に午後からも海に飛び出す予定みたいだ。二人とも元気だなぁ。ついでに漁もすると気合をいれている。
誘われたけど、私とライラ様は午後も引き続き探検に出ることにした。
おやつと水筒をリュックに入れて、いざ出発!
「ライラ様もまだ詳しく見てないんですよね? わくわくしますね。まだ見つけてないこの島の秘密が出てくるかもしれませんよ」
「マドルが一回りしているし、上からは私も見ているが、人がいた形跡はなかったんだぞ? 何があると思ってるんだ?」
「地下遺跡、とか? あ、実は大昔、この島は天空にあったんです。それが落ちてきて、そう、ここにはいまだ人知の及ばぬ天空石が埋まっているんです」
「それはすごいな」
「あ、はい」
全然響いてない。めっちゃスルー返事。いや、突拍子もなくてそんなわけないこと言った自覚はあるし、肯定的な相槌だっただけ優しいけども。
でもでも、それは無理でも、希望をもって探検したほうが楽しいし、大発見の可能性ゼロではないよね?
「まあそんな感じで、ライラ様も知らないすごい何かがあるかもしれないじゃないですか」
「前者はともかく、後者は見つけてもわからないだろう。ましてあっても原石だろう」
「ライラ様、夢がなさすぎじゃないですか?」
「エストが……いや、まあいいか。お前のそう言うところが可愛いからな」
「も、もう、ライラ様ったら」
のってくれないライラ様のつれなさにちょっとだけ唇を尖らせる私に、ライラ様は少し呆れたように何かを言いかけてから、気を取り直したように私の髪を軽くとかすように撫でてほほ笑んだ。
ちょろい私はそれだけで気持ちが浮ついてしまう。私の前向きで希望を抱くところが可愛くて好きだって。えへへ。
「あ、入る前に一応、手、つなぎましょうか」
「いや。森の中に入るなら足元が不安だからな」
「わっ」
裏口を出て畑ゾーンを超えてそろそろ森の入り口なので手をつなごうと手を出すと、ライラ様はそう言って軽やかに私をまた抱っこした。
「うーん、確かにこれなら安心だし、ライラ様に抱っこされるの好きですけど、これだとライラ様のお顔しか見えないと言いますか。冒険じゃなくてただの散歩になっちゃいますよ」
「エスト、前から思っていたが、お前は私の顔を見すぎじゃないか?」
「目の前にライラ様のお顔があって見ないっていう選択肢、あります?」
「ふふ。何をどや顔で言っているんだ。馬鹿め」
「あっ、え、えへへへへ」
さっきと違うお姫様抱っこになったので、これだとライラ様以外何も目に入らないし、島の何も記憶に残らないから、真面目にそう言ったのにめちゃくちゃ呆れられてしまった。
ライラ様は自分の顔だから自覚がないと思うけど、私だけじゃなくてこれは全人類共通の常識だ。
全くライラ様ったらわかってないんだから、とちょっと自覚のなさが幼い子みたいで可愛く思いながら常識を教えてあげた、ライラ様はご機嫌に笑いだしてから、私を罵倒しつつ軽くキスをした。
喜んでから、あ、いやこんなところで? と一瞬思ったけど、いや、今は二人きりだった。
午前は海側や畑には人目があったけど、今はマドル先輩はまだ畑に出ていないし、もちろん二人もいない。待って。今まではほとんど二人きりって寝室でしかなかったけど、もしかしてこの島だと逆にほとんど二人きりになるのでは。
と今更自覚してしまい、なんだか意識してしまって笑って誤魔化した。
「じゃあそうだな。仕方ない。肩車をしてやろう」
「あ、ありがとうございます。頭上はお任せください!」
えー、これからどうしよう。と思ったらライラ様はすんなり私がライラ様に見とれないし転ばない形態を提案してくれたので、私は童心に返ってライラ様との森の探検に出発した。




