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16年目の片想い  作者: 雪本はすみ
第2章 あの頃のまま
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「こんなところでさぼってたのか」


 喫煙室で煙草を吸っていると、五分もしないうちに有村健吾が呼びにきた。


「スライドショーの最終チェックをするってよ」

「それくらい、俺がいなくてもできるだろ」

「つべこべ言うな」


 健吾に睨まれて、俺は仕方なく煙草を灰皿に押しつけて喫煙室を出た。

 開宴時間が近づき、会場前の受付にもぱらぱらと同窓生たちが集まり始めている。松川と加島のほかにも女性の幹事メンバーが数人、受付に入って応対していた。


 加島紗月は、変わっていなかった。

 髪を染めて、化粧をして、黒のワンピースを自然に着こなして、見た目は大人っぽくなった。


 けれど、明るく澄んだ瞳も、やさしい静かな声も、笑うと右の頬にだけできるあどけない片えくぼも、あの頃のままだった。

 引っ込み思案だけれど素直で裏表のない性格も、まったく変わっていない。

 そのことに、何よりほっとしている。


 会場はすっかり準備が整っていた。ホテルスタッフとの打ち合わせも終わったらしく、テーブルの上には料理が並び、皿とグラスがそろっている。立食形式なので椅子は壁に沿って並べられている。


「なあ。マジでこれ、流すのか?」


 スライドショーを担当する幹事メンバーのひとり、元野球部キャプテンの富坂信太郎とみさかしんたろうが、太い眉をハの字にして、俺と健吾にうんざりした顔を向けた。


「俺、坊主だった頃の自分の写真なんて、見たくないんですけど……」


 富坂は悲しそうな目をして、懸命に俺たちに訴える。

 俺だって、心の底からやめてほしいと思っているのだ。


「苦労して作ったんだから流すに決まってんだろ! それに、絶対に盛り上がる!」


 健吾は自信満々で、やめる気はなさそうだった。

 たしかに、これだけの写真を集めるのには、苦労しただろうなと思う。思うが、やっぱり昔の写真なんか見たくない。


「郁はあちこちに写ってるよなー。目立ちすぎだろ」


 俺のせいじゃないし。


「さっきも加島さんと話してたんだけどさ。おまえってほんと断れないタイプだよな」


 加島が何を話したって?


 大いに気になることをさらっと言っておいて、健吾はあっさりとその場を離れる。

 卒業後、加島が美大に進んだことは知っていたが、デザイン事務所に就職して多忙を極めているらしいことは、健吾と松川経由でそれとなく聞いていた。


 健吾の話だと、とにかく仕事が忙しくて、恋人を作る暇もないらしい。

 それを聞いたときには心の中でガッツポーズを作り、出たくもない同窓会にこうして顔を出しているわけだが、このままでは──さっきみたいな会話を続けているだけでは、進展は望めそうにない。


 加島にとって俺は、いつまでたっても、幼なじみのままなのだろうか。

 初めて会ったのは小学校三年の春。

 現在の加島が俺のことをどう見ているのかはわからないが、あの頃は──あの頃の加島は、俺のことを誤解していた。

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