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16年目の片想い  作者: 雪本はすみ
第1章 お久しぶりです
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 あのときのりっちゃんは、本当に悔しそうだったな。

 思い出し笑いを浮かべそうになって、私はあわてて表情をとり繕う。


 出席者名簿とネームプレートとを照らし合わせて最終チェックを済ませると、後は同窓生たちが来るのを待つだけとなった。


「ねえ。私、ちょっとだけ中の様子、見てきてもいいかな」


 亜衣がそわそわしながら言う。やっぱり有村くんの幹事ぶりが気になるらしい。私が「いいよ」というのと同時に、市之瀬くんがふらりと会場から出てきた。


「市之瀬、少しだけ受付替わってよ」


 ちょうどよかったとばかりに、亜衣が声をかける。


「いや、俺、ちょっと休憩……」

「五分でもどるから!」


 亜衣は市之瀬くんの言葉を無視して、会場の中に入っていってしまう。市之瀬くんは途方にくれたような目をして、しぶしぶ私の隣に立つ。

 私は、テーブルの上に置かれた市之瀬くんの左手を、ひそかに盗み見た。何もはめていない薬指を確認すると、ほっとして心がゆるむ。


「市之瀬くん、こういうの苦手だよね」


 私が笑うと、市之瀬くんは観念したように「よくご存じで」と言う。


「加島は、俺の苦手なこと全部知ってるよなー」

「何それ。市之瀬くんが苦手なことなんて、ほとんどないじゃん。私と違って」

「あるっつーの」


 市之瀬くんが不機嫌そうに言い、ふいに、私はそのことを思い出した。


「……あるね」


 そのときのことを思い出すと、こらえきれなくなって、私は笑い出した。


「おまえ……失礼なやつだな」

「ごめん」


 私はあわてて笑いをごまかそうとする。


「……まあ、でも、加島は、俺が苦手なことを仕事にしたんだもんな」


 市之瀬くんが、まっすぐ前を向いたまま言った。私はすぐに言葉を返せなかった。

 どうして、私の仕事のこと、知っているんだろう? 亜衣にしか話していないのに。


「すごいな」


 ふいに、市之瀬くんの横顔がこちらを向く。

 私に笑いかける顔は、たちまち、なつかしい気持ちを呼び起こした。


 いつも、そうだった。

 市之瀬くんの何気ない言葉や仕草が、私に勇気をくれる。


 亜衣が会場からもどってきた。市之瀬くんは助かったとばかりに、さっさと受付を離れる。そのまま喫煙室のほうへ向かったから、煙草を吸いにいくんだろう。


「やっぱり、幼なじみだね」


 亜衣が小声でいう。


「あの市之瀬と楽しそうにしゃべるなんて、信じられない」


 私がとまどいながら「そうかな」というと、亜衣が「そうだよ」という。


「市之瀬ってモテるくせに、女子には冷たかったじゃん」


 そんなことない、と私は心の中で反論した。

 市之瀬くんは、本当に嫌になるくらい、誰にでもやさしい。

 だから、勘違いしてはいけない。

 自分だけ特別だなんて……思っちゃいけない。


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