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16年目の片想い  作者: 雪本はすみ
第14章 これから話そう
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 終電の時間が迫っていた。


 もう帰らないといけない。

 まだ、話したいことがたくさんあるのに。


 裏通りの人気のない暗い道を、駅に向かって歩いた。気のせいか、ふたりとも歩く速度がすごく遅い。

 市之瀬くんが私の手を握りしめた。

 冬の風にさらされて凍りついていた指先が、熱くて大きな手に包みこまれる。

 冷たい空に、まるい月が輝いている。


「ちょっと、ごめん」


 大通りに出る手前で、市之瀬くんが足を止めた。

 握っていた手を離して、私の体をたぐりよせる。

 市之瀬くんの腕の中におさまると、風が消えた。

 少し遠慮がちに私を抱きしめていた市之瀬くんが、我慢できなくなったように腕に力をこめて、私の耳もとで長い溜息を吐き出した。


「あー……長かった」


 切ない声音に胸が震えて、苦しくなる。

 私も我慢できなくなって、市之瀬くんの背中に両手をまわして、抱きしめた。

 体温と心臓の音が伝わる。


 なぜか急に泣きたくなった。

 ただ抱き合うだけで、どうしてこんなに切なくなるんだろう。

 ずっとそうしていたかったけど、市之瀬くんのほうが先に腕をほどいた。


「終電、間に合わなくなる」


 やっぱりすごく切ない声でそう言って、ふたたび私の手を握り、歩き出す。


「それに、これ以上は危険」


 市之瀬くんは前を向いたまま、無言で駅までの道を歩いた。

 駅のホームで電車が来るのを待っているとき、私はたまらなく不安になった。


 今度、いつ会えるんだろう。

 って言うか、会えるの?

 このまま、会えなくなったりしない?

 もしも、また何年も会えなかったら……?

 怖くなって、私は市之瀬くんの手をぎゅっと握りしめてしまう。


「また会える……?」


 聞かずにはいられなかった。私を見下ろした市之瀬くんの顔に戸惑いが浮かんで、消える。


「大丈夫だから」


 お守りのような言葉。

 そして、私の手を強く握り返す。


「これからは、いつでも会える」


 市之瀬くんの笑顔につられて、私も笑ってしまう。

 やっぱり、すごい。

 たったひと言で、私の不安を吹き飛ばしてしまった。


 市之瀬くんにとってはただの口癖なんだろうけど、私には最強で、天下無敵の言葉。

 今までも、これからも。


 ホームに電車が入ってきた。私が乗る電車だ。

 私は市之瀬くんと別れて電車に乗り、家に帰った。

 長くて短い──そして夢のような一日が、終わった。

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