1
閉会の時間が迫り、写真撮影をするために全員が会場の前方に集められた。
「あれ、紗月は?」
健吾と一緒にいた松川が、加島の姿を探してきょろきょろしている。
前方では、カメラマンが三脚にセットしたカメラを持ちこんで、位置を調整していた。ホテルのスタッフが準備したひな壇の上に、順番に同窓生を並ばせていく。
俺は端のほうへ回ってみた。案の定、加島がいた。みんなの中に入っていけずに、ひとりだけぽつんと壁際に立ってもじもじしている。
いつものことだが、本当に要領が悪い。
「加島」
俺が近づくと、加島はほっとしたような顔をした。
その顔を見たとたん、とっさに彼女の手首をつかんでいた。できあがりかけている列の中央に、無理やり引っ張っていく。有村の隣にいる松川の横に加島を立たせて、ついでに俺も隣に並ぶ。
有村と松川が物問いたげにこちらを見ているのがわかったが、気づかないふりをした。
「あのさ」
端っこの人間をフレームアウトさせないよう、カメラマンが全員の位置を調整している間に、隣にしか聞こえないような低い声でささやいた。
「あのとき、なんで帰ったの。俺、待っててって言ったよな?」
加島は前を向いたまま黙っている。
聞き返さないということは、卒業式の日のことを言っているのだと、わかっている証拠だ。
「はい。じゃあ撮りまーす」
中年のカメラマンが覇気のない事務的な声をかけ、全員のおしゃべりが止む。
二枚目を撮るまでのわずかな時間に、加島が「ちょっと、用事ができて」という台詞をすべりこませた。
ウソだな、とすぐにわかる。
そんなこと今の今まで忘れてました、みたいな空気を作り出そうとしているのがバレバレだ。声が緊張しすぎ。
たぶん、彼女もずっと忘れていなかったのだ。
七年も経って、今さら昔のことを蒸し返すなんて女々しすぎる。
そう思いつつ、聞いてしまった。聞く前から答えてもらえるとは思っていなかったので、俺はそれ以上追求しなかった。
加島が俺を待たずに帰ったと知ったとき、それが彼女の答えなんだと思った。
俺の気持ちに対する、加島の答え。あのときは、確かめる必要もないくらい、そう確信した。
だが、今は違うような気がする。
たとえそうだとしても。
加島紗月が、簡単に約束をすっぽかすような真似ができる性格ではないということに、なぜ気づかなかったのか。
あのとき、彼女にはそうしなければならない理由があった──あるいは、できたのではないだろうか。




