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16年目の片想い  作者: 雪本はすみ
第9章 卒業するまで
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「でもうちのガッコ、ほんとに山の上だったよねー」


 亜衣がコーヒーゼリーをスプーンですくいながら、ぼやく。


「あの坂、マジできつかった」

「ありえないくらい山の上だったからな」

「雪とか、よく降ったもんな。んで、下界に降りたら晴れてたりして」

「夕立とか雷とか、しょっちゅうだったよねー」


 私の意識は一直線に過去の場面に向かう。なんとか思い出さないよう思考の流れを阻止しようとしたけれど、無駄だった。


「そういえば停電! 雛高祭の準備してるとき、停電になったよね!」


 誰かが叫んだ。そのひとことで、私は闇の中に落ちる。


「えっ、そんなことあった?」

「おまえ、先に帰ったから知らないんだよ」

「あれはびびった。雷が落ちたんだっけ」


 亜衣がふと思いついたように私を見た。


「そういえば紗月、あのときどこにいたの?」


 とっさに答えることができなくて、妙な間があいた。亜衣が顔をしかめる。ほかのみんなも。


「社会科教室ではありませんでしたか? 確かあのとき、教室では落ち着いて絵を描けないからと、私が社会科教室をすすめたような記憶が……」


 国枝さんが過去の記憶をたぐりよせるように言う。そんなこと思い出さなくていいのに。


「それで、明るくなってから、ふたりでもどってこられましたよね。市之瀬さんと──」


 私は逃げ出したくなった。


「職員室にいたんだよ」


 こともなげに市之瀬くんが言った。


「教室の鍵を宇藤に返しにいったところで、真っ暗になった」

「あー、そうだったんだ」


 一応は、みんなそれで納得したようだった。

 私はなんでもないように笑顔を浮かべていた。心臓は大きな音をたてている。市之瀬くんの顔を見ることは、もちろんできなかった。

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