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16年目の片想い  作者: 雪本はすみ
第9章 卒業するまで
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 話し声であふれる会場にもどると、ロビーの静けさが幻のように思える。

 私はぼんやりと、ついさっきロビーで市之瀬くんに言われたことを、何度も頭の中で反芻する。

 あれは現実? それとも夢?


「あっ、いたいた。加島さん!」


 名前を呼ばれてふり返ると、元一組の副委員長、玉利くんが立っていた。


「何してんの? みんな、向こうのテーブルに集まってるのに」


 それは、知っているけれど。

 私がためらっていると、玉利くんは情けない表情をして私の前で両手を合わせた。


「一緒に来てくれない? 国枝に呼んでこいって言われたんだよ」


 学級委員長の国枝さんとの上下関係は、未だに不動のままらしい。

 私はしかたなく、玉利くんと一緒に亜衣や有村くんたちのいるテーブルに移動する。三年一組のみんなが集まっているテーブルだ。もちろん、市之瀬くんもいる。

 市之瀬くんと目が合った。一瞬だけ秘密めいた視線を交わして、何気なくそらす。


「加島さんは、現在どんなお仕事をなさっているのですか?」


 相変わらずの丁寧な口調で、国枝さんが質問した。みんなが一斉に私に注目する。


「えーと……デザイン事務所で、働いています」

「やっぱり!」


 誰かが叫ぶ。


「絵、うまかったもんねー」

「雛高祭のポスター、きれいすぎて感動した」

「コースターの絵もかわいかったしね」

「でもあれ、けっこう大変だったよな」

「そうそう。国枝のひとことで急に決まったから」


 ひととおり雛高祭の話で盛り上がったあと、有村くんが「そういう仕事って、忙しいんじゃないの?」と聞いてくる。


「うん。すごく忙しい。でも今は、早く一人前になって、大きな仕事を任せてもらえるようになりたいって思ってる」

「そっか」


 有村くんの隣にいた亜衣が、「二次会どうする?」と聞いた。


「えっ、加島さん行かないの?」


 有村くんが残念そうに言う。亜衣が有村くんを見上げて、「明日には、東京にもどらないといけないんだって」と説明する。


「私は行くけど……紗月は帰る?」


 市之瀬くんの視線を感じる。

 私は亜衣に笑い返して、「私も行くよ」と答えた。

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