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加島がひとりでテーブルを離れ、会場を出ていくのが見えた。
五分後、俺は会場を出た。加島は誰もいないロビーのソファに深く腰掛けて、ぼうっとしていた。俺の顔を見ると、はっとして姿勢を正す。
「休憩?」
声をかけると、加島は戸惑いを笑顔で覆い隠すように「うん」と答える。
俺は加島の隣に腰掛けた。
「二次会、行く?」
「えっ」
俺が聞いたのがよほど意外だったのか、加島は目を丸くしている。
「い……市之瀬くんは? 行くの?」
「加島が行くなら」
さらに驚いた顔をしている。
今日、ここに来る前から決めていたことだ。加島をひとりで帰すつもりはないし、このまま──幼なじみで元クラスメイトのまま、別れるつもりもない。
「東京にもどるのはいつ?」
「明日……だけど……」
「仕事はいつから?」
「……四日」そう答えた後、「市之瀬くんは、六日だよね」と言う。
なぜそのことを知っているんだろう。
加島の顔はまだ戸惑っている。俺の矢継ぎ早な質問の意図がわからず、困っている。
「あのさ」
七年前と同じことを、くり返すつもりはない。
「携帯の番号、教えて」
加島は目を大きく見開いたまま、俺の顔を見つめる。必死に、言葉の真意を探ろうとしているみたいだった。と言っても、そのままの意味なのだが。
「……あの」
加島が何か言いかけたとき、会場の扉が開いて数人の幹事メンバーがロビーに出てきた。俺たちを見ると、「ふたりとも何してんの? もうすぐお開きだよ」と声をかける。
俺は加島に「後で」と小声でささやき、ソファから立ち上がった。加島が焦ったように立ち上がり、「二次会、私も行くから」と急いで言う。
俺は思わず笑顔になった。
「じゃあ、そのときに教えて」
加島にそう言って、会場にもどった。




