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「市之瀬さんと加島さんって、仲がよかったんですか?」
いきなり、国枝が直球の質問を投げてきた。
そんな好奇心に満ちた目でじっと見られても、なんと答えていいかわからない。加島のことになると、昔も今も、俺は何も言えなくなる。
「そう言えば……雛高祭のときも、一緒にポスターを作っていませんでしたっけ?」
「あれは、おまえが勝手に決めたんだろ。俺はポスター係をやりたいなんてひと言も言ってない」
ついでに言うと、ポスターを作ったのも加島ひとりで、俺は何もしていない。
「それは市之瀬さんがホームルームを欠席されたからでしょう。ですが、私は加島さんを指名した覚えはありません」
「え?」
国枝はこめかみに指をあてたまましばらく黙っていたが、急に思い出したように「そうでした」と言った。
「あのとき、加島さんが自ら手を上げてくださったんですよ、ポスター係に。もう市之瀬さんに決まっていたので、一度はお断りしたんですけど、どうしてもやりたいって。いつもは控えめな方なのに、めずらしく自己主張なさったので、ちょっと驚きました」
俺は返す言葉をなくした。
初耳だ。最初からふたりだと思っていた。加島が嫌がっているようには見えなかったけれど、国枝に指名されてしかたなくやっているのだと。
向こうのテーブルにいる加島を見た。昔と変わらないやわらかな笑顔で、彼女は笑っていた。




