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16年目の片想い  作者: 雪本はすみ
第7章 大丈夫だから
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 思い出が氾濫して、止まらない。


「ね、紗月は二次会どうする? みんな行くって言ってるけど」


 亜衣に聞かれて、迷う。ちらりと向こうのテーブルに視線を移す。市之瀬くんはどうするんだろう。

 汐崎くんが「二次会って、どこでやるの?」と聞いた。


「うちのクラスは居酒屋みたい。私はカラオケに行きたいって言ったんだけどさ、市之瀬が居酒屋にするって強引に決めて」

「ふーん」


 汐崎くんが考えこむような顔をした。

 記憶がまたひとつ、よみがえる。

 もしかして。たぶん。きっと。


 みんなと一緒にいる市之瀬くんは、なんでもないように「居酒屋がいい」と言ったんだろう。あのときもそうだった。

 体育祭が終わった後。

 クラス対抗リレーで優勝した私たちは、異様に盛り上がって、打ち上げと称してカラオケに行った。


 亜衣に引っぱられて私もとりあえずついていったけど、歌う気なんかさらさらなかった。人前で歌ってはいけないほどの音痴なのだ、私は。

 聞いているだけですませようとしたのに、一度だけマイクが回ってきて、歌を催促された。

 断ったら場がしらけるし、歌ったら歌ったでみんなドン引きするだろうし、どうしようと焦っていたら、隣に座っていた市之瀬くんがさりげなく私からマイクを奪って、代わりに歌ってくれた。


 市之瀬くんがくれるやさしさで、私はいつも元気になれた。

 この気持ちは、感謝とか尊敬とかいう言葉をたやすく飛び越える。

 大きく翼を広げて、もっと自由で、もっとおおらかな場所に私を連れていってくれる。


 もしもあのとき、そのことを伝えていたら、市之瀬くんはどう思っただろう。私は今でも、そのことを伝えたいと思っているけれど、市之瀬くんは、昔のことなんてもうとっくに忘れてしまっているだろうか。


 そのとき、市之瀬くんが、ふいにこっちを見た。

 目が合った。

 その瞬間、何かが──通じ合ったような気がした。

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