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あの頃は、自分の中の衝動を持てあましていた。
加島と再会してから、消したはずの記憶が、感情が、再生ボタンを押したみたいに一気に鮮明に現れて、一瞬のうちに俺を支配した。
加島に向かう気持ちが日ごとに強くなって、何も手につかなくなるほどだった。それは同時に、住友に対する罪悪感を深めることにもなった。
「やっぱさー、なんつっても体育祭のリレーだよなー」
玉利がほのぼのとした調子で語っている。
玉利は、高三のときの体育祭でクラス対抗リレーの第一走者に選ばれている。
「やー、あれは圧巻だったよなー、うん」
「とても残念なことですが、玉利さんが走っていたところは、おそらく誰の記憶にも残っていないのではないかと思われます」
国枝が冷静な口調で指摘すると、その場にいた全員が笑った。
「ごめん。それは私のせいだ」
第二走者だった松川があわてて謝り、みんなが口をそろえて「全然」と言う。
「すごかったもんな、市之瀬のごぼう抜き」
「ありえないくらい速かったよね」
「しかも余裕っぽかった」
「同じ人間か? って思ったよ」
「見てたやつ、全員そう思ってたって」
「もはや伝説だよね」
俺が黙っていると、国枝がまた興味津々といった顔を向けてきた。
「それで、実際はどうだったのですか? あの走りは、やはり余裕だったのでしょうか?」
何やら記者がインタビューをするような質問内容である。全員の視線がこちらを向いた。
「余裕じゃねえよ。あれは、加島のおかげ」
断言する。あのとき、俺にバトンを渡したのが加島じゃなかったら、絶対に違っていた。俺の気持ちが。
「そうそう、加島さんも速かったんだよなー、意外と」
たった今思い出したように、玉利が言った。




