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16年目の片想い  作者: 雪本はすみ
第6章 幼なじみなんだろ?
32/88

 * * *



「やっぱりここにいたか」


 目を開けると、健吾が木漏れ日を背負って俺を見下ろしていた。


「五時間目の授業、始まってんぞ」

「あー……やべ。寝過ごした」

「……だと思った」


 丘のように高く盛り上がったクスノキの大きな根は、横になるのにちょうどいい大きさと傾き具合だった。俺の絶好の昼寝場所。


「わざわざ起こしに来たわけ?」


 のろのろと起き上がり、俺は健吾に聞いた。健吾は呆れたように俺を見下ろす。


「おまえ、携帯の電源切ってンだろ。昼休みが終わる直前に住友がうちのクラスまで来てさ。探してくれって頼まれたんだよ。なんか、宇藤がカンカンに怒ってるらしいぞ」


 そうだった。先週も寝過ごして、気づいたら五時間目の世界史の授業が終わっていたんだった。

 制服の上着についているクスノキの白い小さな花──上から落ちてきたらしい──を払い落として、根から下りる。


「そういえば、加島さんがおまえのこと気にしてたけど」


 加島の名前を聞くと、無意識に反応してしまいそうになる。俺は健吾と目を合わせないまま、学校へもどる山の中の小道を歩きつつ、「ふーん」と言った。

 健吾が俺の後ろからついてくる。


「あれからちゃんと話せたか?」

「何を」


 どうでもいいように聞き返す。


「何って、その……。幼なじみなんだろ?」

「だから?」

「なんか、変じゃね?」


 めずらしく、健吾が核心をついてくる。それでも俺は、気づかないふりをして「何が」と軽く受け流した。


「おまえが、加島さんのことをわざと無視してるように見えるんだけど」


 加島のことは、誰とも話したくなかった。

 足を止めずに、無言で歩く。


 道の突きあたりは、学校の敷地を囲む緑の金網で遮られているのだが、下の部分にちょうど人ひとりくぐり抜けられるくらいの大きさの穴が空いていた。

 四年前に俺が見たときには穴は空いていなかったから、その後、生徒の誰かが空けたのかもしれない。俺と同じように、学校の敷地から抜け出して、あのクスノキのところへ行くために。


 広い裏庭に出ると、五月の明るい光が降りそそぎ、一瞬目がくらんだ。

 健吾は俺の前に立ちはだかって行く手を遮り「図星ってやつですか?」と、にやにやしながら言った。


「住友のこと、ちゃんと話しといたほうがいいぞ。誤解されるぞ、このままじゃ」

「別に、いいんじゃねえの?」


 俺は片手で健吾の肩をつかんで押しのけ、目を合わせずに歩き出す。いらいらした。健吾の脳天気さに腹が立ち、加島に近づけない自分自身にむしゃくしゃした。

 裏庭を突っ切って、体育館の陰に入る。

 俺の後ろで、健吾が吐き捨てるように言った。


「まあ、そうだよな。ホントのことなんか、話せねえよな。加島さん、純情そうだから。おまえと住友の関係を知ったら、ショック受けるかもな」


 俺は瞬時に健吾を見た。


「俺、代わりに話してやろうか? おまえと住友のこと、全部」


 考えるよりも先に手が伸びていた。健吾のシャツの胸元を右手でつかむと、力まかせに引きよせる。


「あいつに余計なこと言ったら、ぶっ殺す」


 黙っている健吾を突き飛ばして、俺は体育館の角を曲がり渡り廊下を突き進んだ。校舎にたどりついても、熱をもった体はなかなか冷めなかった。

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