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保健室を出ると、住友が廊下の壁にもたれてこっちを見ていた。鋭い視線で「誰?」と聞く。
俺は保健室の前から離れた。住友がすぐに後ろから追ってきて、横に並ぶ。
「知ってる子?」
関係ない、と言おうとして、やめた。
俺を見上げる住友の目からは、さっきの鋭い視線が消えていた。必死で不安を隠そうとするみたいに、まばたきもせず俺を見ている。
「小学校のときに同じクラスだったんだよ」
「それだけ?」
それだけ。事実なのに否定したくなる言葉。住友の視線が俺の顔から離れない。「それだけ」と俺は答えた。
住友はほっとしたように「そう」といって、俺の手を握る。指がからまる。冷たくて細い、折れそうな指。
「まだ、そばにいてくれるよね?」
手を握り、目を伏せて、住友は小さな声でささやく。
加島の泣き顔が浮かんだ。何度も夢に出てきた、やせっぽちの小さな女の子は消えていた。
背が伸びて、体の線は丸みを帯びて、唇とか頬とか胸とか太股とか、どこもかしこも白くてやわらかそうで……。
どうして今になって現れるんだ、と心が叫んでいる。
「市之瀬くん……?」
住友の声が消え入りそうだった。強く握りしめてくる手が冷たくて、俺はその手を握り返した。加島に向かう気持ちをなんとか押さえこむ。あふれ出す前に。
握り返した手に力をこめると、住友が安心したようにほほえんだ。
自分のしていることが正しいのか間違っているのか、わからない。だけど、それでも俺はまだ、住友の手を離すことができない。




