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16年目の片想い  作者: 雪本はすみ
第6章 幼なじみなんだろ?
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 スライドショーが終わると、富坂は拷問から解放されたみたいな顔をして、「やれやれ」と言った。健吾のほうは、満足そうに腕組みをして俺の隣に立っている。


「おーい、みんな集まってンぞー」


 会場に明るさがもどったとたん、玉利雅斗たまりまさとが来て俺と健吾に向かって言った。玉利が視線で示したテーブルを見ると、元三年一組の同窓生が集まっている。


「あー、富坂。こいつら連れてっていい?」


 玉利は昔と同じ、のほほんとした顔をして、のんびりした口調で、富坂に聞く。


「いいよ。スライドショーが終わったから、もうやることないし。パソコンは俺が片づけとく」


 富坂の言葉に甘えて、俺と健吾はその場を離れ、玉利と一緒にテーブルに向かった。


「国枝にさ、早くおまえら連れてこいって言われてさー」


 玉利がぼやく。


「おまえ、卒業してもまだ国枝に頭が上がんねえの?」


 哀れみのこもった口調で健吾が聞くと、玉利は複雑そうな顔をして「そうなんだよなー」と間延びした声で答える。


「久しぶりに会ったのに、あいつの顔見るとなーんか遠慮してしまうというか、一歩下がるというか、おかしな気分になっちゃうんだよなー」


 玉利は俺たち三年一組の副委員長で、委員長は国枝芽久美くにえだめぐみである。


「でも感覚的には、社長と平社員くらいの格差がある気がするなー」

「なんだそれ」

「俺にもわかんない」

「いっそ付き合っちゃえばいいのに」


 健吾の無責任なひと言に、玉利が冗談じゃないとばかりに目を剥いた。

 テーブルの周りには、懐かしい顔がそろっていた。俺と健吾が加わって、十数人の輪ができる。

 お互い顔を見合わせて「久しぶり」なんて言葉を交わしながら、なんとなく、気はずかしくてぎこちない雰囲気になる。


「スライドショー、とてもよかったです」


 国枝が、すっと背筋を伸ばした完璧な立ち姿で目に前に立っていた。

 ノーメイクに縁なし眼鏡。ボブと言うよりおかっぱと言ったほうがしっくりくる髪型。黒いスーツのスカート丈は膝下。本当に卒業から七年たってるのかと確かめたくなるほど、彼女の外見は昔のままだった。


「そう? やっぱり? けっこう自信作だったんだよ、あれ」


 健吾は国枝の言葉に顔を明るくしたが、それは一瞬だった。


「ですが、一部内容に偏りが見られましたし、写真にそぐわないBGMが使われているところも見受けられました。もう少し、編集に時間をかけるとよかったかもしれませんね」

「あ、そう……」


 国枝の丁寧かつ手厳しい指摘も昔のままで、みんな懐かしさと健吾のしょぼくれた様子に笑い出した。

 スライドショーの効果もあって、俺たちはそのまま一気に当時の雰囲気を取り戻し、思い出話に花が咲く。


 加島と松川の姿は見当たらない。

 さりげなく会場を見渡してみると、少し離れたテーブルで、汐崎と一緒にいた。三人で笑いながら話している。とても楽しそうで、こちらに気づく気配はない。

 加島が汐崎と一緒にいるところを見ると、無意識に焦ってしまう。


 汐崎は、たぶん、昔から加島のことが好きだ。

 加島に対するあいつの態度を見ていると、なんとなくわかる。

 今は、どうなんだろう。

 溜息が出た。

 もう、あの頃のように、加島とひそかに目が合うようなことはない。さんざん無視してきたくせに、なにを今さらと自分でも思う。


 卒業して七年が経った。

 お互いに知らない場所で、それぞれが出会った人間と、たくさんの時間を過ごしてきたのだ。簡単に、あの頃にもどれるはずがない。

 だけど──と、それでも思う。


 折り重なっていく時間の中で、忙しくて昔を思い出すことなんてほとんどなくても、たとえば日が沈んだ直後の西の空の色を見たとき、夏の午後の風にかすかな川の匂いを感じたとき、木枯らしが落ち葉をさらっていく音を聞いたとき、俺は加島の存在をすぐ近くに感じることができた。


 思い上がり、かもしれない。でも。

 彼女もそうであってくれたらいいのに、と思う。

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