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「スライドショー、始まるみたいだよ」
汐崎くんとの会話が途切れたのを見計らったように、亜衣が小声でささやいた。
会場内の灯りが落ちる。
正面のスクリーンに、豊かな山の緑に囲まれた校舎が映し出された。
桜並木の坂道を、生徒たちが校門に向かって歩いている。
入学したばかりの頃の写真だ。みんな、まだ制服が真新しくて、初々しい。
「あ、写ってるよ紗月」
亜衣が指をさす。体育館に集まっている新入生の中に、私がいた。入学式のときだ。緊張した顔で、まっすぐ前を見ている。本当はあのとき、市之瀬くんの姿ばかり探していた。
入学式の写真が終わって、部活のようすを撮った写真に切り替わる。
野球部の練習風景の中に、マネージャーだった亜衣もちゃんと写っていた。まだ小さくて真っ黒で男の子みたいで、有村くんに“松ぼっくり”と呼ばれて、むくれていた頃の。
「もーやだ。省いてって言ったのに!」
亜衣が不機嫌な声でささやく。
スライドショーはどんどん先に進んでいく。校外学習、体育祭、中間試験、雛高祭。
四組の写真の中に、住友さんがいた。
教室の黒板の前で、何人かのクラスメイトたちと一緒に写っている。同じ制服を着ていても、なんとなく色っぽい。
体育用具室で市之瀬くんとキスをしていたのは、住友さんだった。
メイクをしたきれいな顔と、うらやましいくらい抜群のスタイル。私服で上滝の繁華街を歩いていたら、絶対に高校生には見えないだろう。
住友さんは、校内で見かけてもまわりから浮いて見えるほど、特別な雰囲気を持っている女の子だった。すごく、大人びているのだ。
そして、いつも市之瀬くんの隣にいた。
中学のときのクラスメイトだと、有村くんからそれとなく聞いたけれど、それ以上は聞けなかった。
「なつかしいなあ」
亜衣がつぶやく。
スクリーンに映し出される、季節ごとの校内の風景。私の後悔や未練なんて知ったことかと、スライドショーはどんどん進む。
二年に進級して、また春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て。
あの頃は、今よりもずっと、季節はゆるやかに変わっていった。
今よりも、時計の針はゆっくり刻まれていた。
でも、結局私は、その大切な時間を無駄にした。
市之瀬くんが近くにいることがあたりまえで、なんの努力も必要とせずに毎日会うことができる、大切な三年間を。




