表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16年目の片想い  作者: 雪本はすみ
第5章 変わったね
28/88

「スライドショー、始まるみたいだよ」


 汐崎くんとの会話が途切れたのを見計らったように、亜衣が小声でささやいた。

 会場内の灯りが落ちる。


 正面のスクリーンに、豊かな山の緑に囲まれた校舎が映し出された。

 桜並木の坂道を、生徒たちが校門に向かって歩いている。

 入学したばかりの頃の写真だ。みんな、まだ制服が真新しくて、初々しい。


「あ、写ってるよ紗月」


 亜衣が指をさす。体育館に集まっている新入生の中に、私がいた。入学式のときだ。緊張した顔で、まっすぐ前を見ている。本当はあのとき、市之瀬くんの姿ばかり探していた。


 入学式の写真が終わって、部活のようすを撮った写真に切り替わる。

 野球部の練習風景の中に、マネージャーだった亜衣もちゃんと写っていた。まだ小さくて真っ黒で男の子みたいで、有村くんに“松ぼっくり”と呼ばれて、むくれていた頃の。


「もーやだ。省いてって言ったのに!」


 亜衣が不機嫌な声でささやく。

 スライドショーはどんどん先に進んでいく。校外学習、体育祭、中間試験、雛高祭。

 四組の写真の中に、住友さんがいた。

 教室の黒板の前で、何人かのクラスメイトたちと一緒に写っている。同じ制服を着ていても、なんとなく色っぽい。


 体育用具室で市之瀬くんとキスをしていたのは、住友さんだった。

 メイクをしたきれいな顔と、うらやましいくらい抜群のスタイル。私服で上滝の繁華街を歩いていたら、絶対に高校生には見えないだろう。

 住友さんは、校内で見かけてもまわりから浮いて見えるほど、特別な雰囲気を持っている女の子だった。すごく、大人びているのだ。


 そして、いつも市之瀬くんの隣にいた。

 中学のときのクラスメイトだと、有村くんからそれとなく聞いたけれど、それ以上は聞けなかった。


「なつかしいなあ」


 亜衣がつぶやく。

 スクリーンに映し出される、季節ごとの校内の風景。私の後悔や未練なんて知ったことかと、スライドショーはどんどん進む。

 二年に進級して、また春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て。


 あの頃は、今よりもずっと、季節はゆるやかに変わっていった。

 今よりも、時計の針はゆっくり刻まれていた。


 でも、結局私は、その大切な時間を無駄にした。

 市之瀬くんが近くにいることがあたりまえで、なんの努力も必要とせずに毎日会うことができる、大切な三年間を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ