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「あの三人、今でも仲がいいんだな」
いつのまにか、汐崎くんが隣に立っていた。視線は、パソコン前の三人に固定されている。
雛高に入学してすぐ郷土史研究会を作った汐崎くんは、今は雛条市の職員として市役所の観光課で働いているという。受付で会ったとき、ちらっと聞いた。
「あいつら、中学のときから目立ってたんだよな。特に市之瀬と有村は、でこぼこコンビなんて呼ばれてさ。市之瀬がでかくなってからは、なんて呼ばれてたと思う?」
わざと意味深な顔つきをしてみせながら、汐崎くんが聞く。
雛条西小の生徒は、私立を受験する子を除けば、全員が雛条第一中学に進む。汐崎くんも、市之瀬くんたちと同じ一中だったはずだから、あの三人の中学時代のことも知っている。
「え……なんだろ。わかんない」
「電柱コンビ」
私が笑うと、汐崎くんも目を細くして楽しそうに笑った。
「そういえば、汐崎くんは部活何やってたの? 中学のとき」
「中学では部活はやってない。入りたい部がなかったから」
昔をなつかしむような顔をしたあと、「だから、高校では自分で作ろうと思ったんだ」と言った。
汐崎くんが作った郷土史研究会は、その後四人まで部員を増やしたものの、五人以上集まらないと部として認めないという学校の決まりで、結局卒業するまで部への昇格は果たせなかった。
「あのときはごめんね。せっかく誘ってくれたのに、力になれなくて」
「いや、こちらこそ。後から考えてみれば、いきなり入れって言われても困るよね」
汐崎くんは恥ずかしい思い出にふれたみたいに、苦笑いしながら言った。
だけど、自分がやりたいことをやるために新しいクラブを作るなんて、私だったら考えもしなかったと思う。しかもたったひとりで。
本当に、汐崎くんは雛条が好きなんだ。
「私はもう市民じゃないけど、でも雛条のことはいつも気にかけてるからね」
「ありがとう」
照れたように笑って、汐崎くんは目をそらす。また、あの三人を見ている。
「加島さんてさ……」
ぽつりと言ったまま、黙りこむ。
私が顔をのぞきこむと、汐崎くんはあわてた様子で「あ、いや。なんでもない」と言って、引きつったような笑みを浮かべた。




