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「おい、郁」
肩をつかまれて、ふり返ると健吾が立っていた。
「何やってんだよ。スライドショー始めるぞ」
それからようやく俺の前にいる浜野に気づいたように、「あれ、浜野じゃん」という。
「誰かと思ったよ。おまえ、ちょっと老けた? あ、悪いけど俺たち、今とりこみ中なんだよ。またあとでゆっくり話そうぜ」
「あ、ああ……」
言い返す機会も与えられず、茫然と俺たちを見送っている浜野のそばを離れたあとで、俺は健吾を見ていった。
「おまえ、今のわざとだろ」
「やっぱりわかった?」
「演技が下手すぎるんだよ」
健吾はむっとしたように押し黙る。
「まあ、助かったけど」
俺が言うと、健吾は複雑そうな顔をした。
浜野は、あの後すぐ──中学二年の二学期に、野球部を辞めた。ほかのクラブに入ったという噂も聞かなかった。高校でも目立たず、今日まで名前も思い出さなかった。
健吾が俺の様子を窺うように、ちらちら見ている。
ひょっとしたら、俺よりもこいつのほうが、気にしているのかもしれない。
俺があえて無視していると、健吾は意を決したように、緊張した声で告げた。
「住友には連絡がつかなかった」
俺は返事をしない。
「あいつ、結婚して海外にいるって聞いた」
俺が黙っているので、健吾はそれ以上話すのをやめた。
彼女に最後に会ったのは、高校の卒業式だった。あのとき、加島が待っているはずの教室に、住友がいたのだ。加島は、いなかった。
思い出すと、今も心が苦しくなる。
だが、俺が住友にしたことに比べれば──そんなのは、大したことじゃない。




