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16年目の片想い  作者: 雪本はすみ
第4章 もう二度と会えない
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 * * *



「おい、郁」


 肩をつかまれて、ふり返ると健吾が立っていた。


「何やってんだよ。スライドショー始めるぞ」


 それからようやく俺の前にいる浜野に気づいたように、「あれ、浜野じゃん」という。


「誰かと思ったよ。おまえ、ちょっと老けた? あ、悪いけど俺たち、今とりこみ中なんだよ。またあとでゆっくり話そうぜ」

「あ、ああ……」


 言い返す機会も与えられず、茫然と俺たちを見送っている浜野のそばを離れたあとで、俺は健吾を見ていった。


「おまえ、今のわざとだろ」

「やっぱりわかった?」

「演技が下手すぎるんだよ」


 健吾はむっとしたように押し黙る。


「まあ、助かったけど」


 俺が言うと、健吾は複雑そうな顔をした。

 浜野は、あの後すぐ──中学二年の二学期に、野球部を辞めた。ほかのクラブに入ったという噂も聞かなかった。高校でも目立たず、今日まで名前も思い出さなかった。


 健吾が俺の様子を窺うように、ちらちら見ている。

 ひょっとしたら、俺よりもこいつのほうが、気にしているのかもしれない。

 俺があえて無視していると、健吾は意を決したように、緊張した声で告げた。


「住友には連絡がつかなかった」


 俺は返事をしない。


「あいつ、結婚して海外にいるって聞いた」


 俺が黙っているので、健吾はそれ以上話すのをやめた。

 彼女に最後に会ったのは、高校の卒業式だった。あのとき、加島が待っているはずの教室に、住友がいたのだ。加島は、いなかった。


 思い出すと、今も心が苦しくなる。

 だが、俺が住友にしたことに比べれば──そんなのは、大したことじゃない。

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