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「あれっ、市之瀬?」
スライドショーが始まる前に煙草を吸いにいこうとすると、誰かが俺の名前を呼んだ。ふりむくと、知っている顔だった。
誰だっけなあ、とさりげなくネームプレートを確認する。そうそう、浜野数樹。
「久しぶりだなあ。こっちにもどってきたのか?」
「いや、帰省中」
「ふーん。おまえがこういうイベントに参加するなんて、めずらしいじゃん。今何してんの?」
「普通のサラリーマン」
「東京で? いいなあ。俺、実家の電器屋ついだからさあ。東京って、かわいい子いっぱいいるんだろ?」
「さあ。どうかな」
普通に答えたつもりなのだが、浜野はしばらく間を置いてから、「おまえ……全然変わってないな」と、しみじみ言った。
「そうやってさ、いつも冷めたような、なんにも興味がなさそうな顔して、試合になると俺たちより活躍して、おいしいとこ全部持ってくんだよな。ほんと、ずるいよな」
本当に俺に言いたいことは、そんなこととは違うんじゃないか、と思ったが、黙っていた。
中二の夏。もとはといえば、こいつのせいだった。




