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会場隅のパソコンを設置しているところへ行くと、富坂が「本当に流すのか、これを」とかなんとか、悲痛な声でひとりごとを言いながらチェックをしていた。
「ああ、市之瀬か」
俺に気づくと、富坂はほっとしたような顔をする。それから「健吾は?」と聞く。
俺とあいつがいつも一緒にいると思われているらしいのが、なんとなく気に入らない。探してみたが姿が見当たらないので、おそらく喫煙室だろう。
「おまえってさあ」
突然、富坂が思い出したように話しかける。
「中学でも高校でも部活やらなかったけど、何か理由があったわけ?」
無遠慮にまっすぐな視線を送った後で、富坂はころっと笑う。
「いや、ちょっと気になっただけ。今さら聞くことじゃないよな。ただ」
パソコンの画面に視線をもどすと、富坂の声のトーンが微妙に落ちた。
「つい、考えちまうんだよ。最後の試合におまえが出てたら……もしかして勝てたかもって、今でも」
「勝利の女神のエコヒイキで?」
「そうそう」
富坂は画面を見たまま、なつかしそうに笑っている。
「俺的には、市之瀬と健吾、だけどな」
「なにが」
「女神サマがエコヒイキしてくださる条件」
高三の夏、富坂と有村が率いた野球部は、地区予選三回戦で延長十四回を戦って敗れた。その試合に勝てば、準々決勝だった。
「ま、上を見たらきりがない。俺たちには、あのあたりが妥当だったんだろうな」
「なんの話?」
突然、俺の背後から健吾が首を突っこむ。
「おまえが勝利の女神に嫌われてるって話だよ」
俺が言うと、富坂がわはは、と豪快に笑った。




