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スライドショーの時間が迫ってきたので様子を見にいこうとしたとき、知った顔の男とすれ違った。向こうも気づいたらしい。同時にふり向く。
「市之瀬も来てたのか」
汐崎は、目を細めて意外そうな顔をした。
「さっき諸見里が探してたけど……会ったか?」
「会った」
「あいつ、ますます派手になってたなあ」
細い目をさらに細めて、汐崎はにこにこ笑った。
「おまえ、今何してんの? 東京だったよな?」
汐崎が聞く。
「何って、サラリーマンだけど」
「そうか。俺、市役所に勤めてるんだけどさ。ゴールデンウィークのイベントで親子写生会を企画してるんだ。もしこっちに帰ってきたら、連絡くれよ」
意味がわからない。親子写生会と俺の帰省とどういう関係があると言うのだ。
「いや、スタッフが足りなくてさ。よかったら、手伝ってくれないかなーと」
「おまえさ」
俺はしみじみと目の前の生真面目そうな男を眺めて、溜息をついた。
「俺が親子写生会を手伝いたがると思うか?」
「思わない。一応、言ってみただけ。知ってるやつには、全員声をかけてるんだよ」
あっさり答えて、汐崎は「まあ、気が向いたら」と言い残して立ち去った。
地元のこととなると見境がないところは、子供の頃から変わっていないらしい。
市役所の職員か。
天職だな、と俺は思った。




