3
「受付にいた子、かわいくなかった?」
開宴十五分前になり、会場は同窓生たちであふれていた。
「右端のふたりだろ」
「誰だっけ」
「一組の加島と松川」
「おまえ、よく覚えてるなあ」
「ネームプレート、チェックしました」
すぐ後ろでそういう会話が聞こえ、淡い思い出の記憶はたちまちかき消された。
そうこうするうちに開宴時間の二時になり、同窓会が始まった。招待した先生たちが入場し、健吾が前に進み出て代表幹事として挨拶をする。
乾杯の頃には、受付にいた加島と松川たちも会場に入ってきた。遅刻者は各自でネームプレートを取って、会場内で会費を支払うシステムになっている。
会食が始まると、あっという間に会場内はにぎやかになった。加島は、松川と一緒にビュッフェテーブルに並んでいる料理を選んでいた。
やっぱり、ほかのやつから見てもきれいなんだろうな。
加島はもうあの頃のようにおどおどしていないし、男とも普通に話しているみたいだし、何よりよく笑うようになった。
「市之瀬くん」
華やかなピンク色のワンピースを着た厚化粧の女が、手を振りながら近づいてきた。一瞬、誰だかわからなかったが、すぐに諸見里美樹だと思い出す。
「うわー、びっくり。うわさで市之瀬くんが参加するらしいって聞いたんだけど、まさかほんとに会えるとは思わなかったよ」
長いまつげをバサバサさせて、諸見里はおおげさな表情を浮かべる。
「なつかしいねー。覚えてる? 小五のバレンタインデーに、私が手作りのチョコあげたの」
覚えているけれど、あんまり思い出したくない。
「私はけっこう勇気を出して渡したのに、市之瀬くんの態度があんまり冷たいから、がっくりきたんだよねー」
冷たくしたつもりはない。
ただ、みんながいる教室で堂々と渡されて死ぬほど恥ずかしかったし、あんなのもらって、何をどうすればいいかわからなかっただけで。
返答のしようがなくて黙っていると、諸見里はにこにこしながら俺の顔をのぞきこむ。
「でも、わかってたんだ。市之瀬くんに好きな子がいるってことは」
諸見里は小悪魔のような笑みを浮かべると、もう一度小声で「なつかしいね」と言い残して、俺のそばから離れた。




