番外編 断章10話
ニューヨーク解放の祝祭が一段落し、マンハッタン島に新たな復興の槌音が響き始めた頃。
KAMIとミラーを乗せた魔導装甲列車『ノアズ・ライン・エクスプレス』は、早くも次なる目的地へと向けて発車していた。
進路は北。
目指すは、かつての世界覇権の中枢、アメリカ合衆国首都ワシントンD.C.である。
「……ふあぁ。退屈ね」
最後尾の展望車。
KAMIは、最高級のペルシャ絨毯の上に寝転がりながら、大きなあくびをした。
窓の外を流れるのは、ニュージャージー州からデラウェア州、そしてメリーランド州へと続く、荒涼とした風景だけだ。
かつては州間高速道路(I-95)が大動脈として走り、無数の車が行き交っていた場所も、今ではひび割れたアスファルトと錆びついた車の残骸が延々と続く墓場と化している。
「贅沢な悩みだな、ボス」
向かいの席でミラーが、地図とタブレットを照らし合わせながら苦笑した。
「かつては、この距離を移動するだけで数日はかかった。それも命がけでな。
冷暖房完備、食事付き、しかも時速200キロで安全に移動できるなんて、今の世界じゃ魔法以外の何物でもないぞ」
「魔法だもの」
KAMIは、身も蓋もないことを言って起き上がった。
「でも張り合いがないのよ。
ニューヨークでの戦いが派手すぎたせいかしら。
道中に出てくるゾンビも野犬の群れも、列車の自動迎撃システムが勝手に掃除しちゃうし。
私の出番がないじゃない」
確かに、この魔導列車の防衛能力は過剰なほどだった。
車両の側面に設置された魔導機銃は、動体センサーに反応して正確無比な射撃を行い、接近するあらゆる脅威を粉砕する。
先頭車両の衝角は、線路を塞ぐ瓦礫の山や廃棄された貨物列車さえも、速度を落とすことなく物理的に粉砕して突き進む。
それは移動する要塞というよりは、地上を走る災害そのものだった。
「……そろそろメリーランド州に入る。ワシントンD.C.までは目と鼻の先だ」
ミラーの表情が引き締まる。
「ここから先は、かつての首都防衛圏だ。
軍事施設も多い。何が残っているか、あるいは何が待ち構えているか……」
「何か出るといいわねぇ」
KAMIは窓の外を凝視した。
「強力なミュータントか、暴走した殺人ロボットか。
あるいは……」
その時だった。
列車の緊急ブレーキが作動し、金属がきしむ不快な音が響き渡った。
慣性制御の魔法が働いているため、車内のコーヒーカップ一つ倒れはしないが、列車は急激に減速し、やがて停止した。
「何事だ!?」
ミラーがインカムに怒鳴る。
「敵襲か!?」
『――いいえ! 前方線路上に障害物あり!
ですが瓦礫ではありません!
ここれは……戦車です!』
「戦車だと?」
『はい! M1A2エイブラムスが二両! それにストライカー装甲車!
線路を完全に封鎖しています!
……み味方識別信号(IFF)を確認! 米軍の正規コードです!』
その報告に、ミラーは目を見開いた。
「正規コードだと……? 生き残りがいるのか!?」
KAMIはニヤリと笑みを浮かべた。
「あら。大当たりみたいね」
「――停止せよ! 所属と目的を明らかにせよ!」
拡声器を通した警告が、荒野に響き渡る。
列車の前方に展開しているのは、確かに米軍の機甲部隊だった。
だがミラーが見慣れたフィラデルフィアの部隊とは、様子が違う。
戦車の装甲は煤け、塗装は剥げ落ちている。装甲車のタイヤはすり減り、兵士たちの軍服はツギハギだらけだ。
しかしその銃口は揺らぐことなく列車に向けられ、兵士たちの目には、極限状態を生き抜いてきた者特有の鋭く、そして疲弊しきった光が宿っていた。
ミラーは武装解除した状態で、列車のデッキに立った。
両手を上げ、敵意がないことを示す。
「俺は元合衆国陸軍大佐、ジェームズ・ミラーだ!
現在はフィラデルフィア生存者コロニー『ノアズ・アーク』の警備責任者を務めている!
貴官らの所属は!?」
戦車のハッチが開き、一人の将校が顔を出した。
髭は伸び放題だが、その階級章は中佐を示している。
彼はミラーの姿と、そして背後にそびえる異様な黒い列車を、信じられないという顔で見つめていた。
「……フィラデルフィアだと? あそこは3年前に壊滅したはずだ。
それになんだそのふざけた列車は。
どこから調達した? そんな技術、現在の合衆国には存在しないはずだぞ」
「説明すれば長くなる」
ミラーは叫び返した。
「だが我々は敵ではない! 救援物資を持ってきている!
食料、水、医薬品! それに弾薬もある!」
「……救援だと?」
中佐の声に、嘲りと、そして隠しきれない渇望が混じった。
「馬鹿なことを言うな。世界は終わったんだ。救援など来るはずがない。
どうせどこかの軍閥が略奪に来たんだろう。
だがここを通すわけにはいかん。
この先は合衆国政府の『絶対防衛圏』だ。
引き返せ! さもなくば発砲する!」
砲塔が動く。
一触即発の空気。
だが、それをぶち壊すように、ミラーの横から小さな影が飛び出した。
「あーもう! 話が長いのよ!」
KAMIだった。
彼女は日傘をさし、フリルのスカートを揺らしながら、戦車の列の前にふわりと降り立った。
「なっ……子供!?」
「おい撃つな! 民間人だぞ!」
兵士たちが動揺する。
「こんにちは兵隊さんたち」
KAMIは戦車の砲身をぺちぺちと叩いた。
「随分とボロボロね。メンテナンスも満足にできてないじゃない。
こんな鉄屑で、私を止められると思ってるの?」
「き、貴様何者だ! そこをどけ!」
中佐が怒鳴る。
「私はKAMI。神様よ」
彼女はこともなげに言った。
「あなたたち、お腹空いてるんでしょ?
顔色最悪よ。最後にまともな食事をしたのはいつ?」
「……貴様には関係ない!」
「関係あるわよ。私は『商売』に来たんだから」
KAMIは指を鳴らした。
パチンッ!
その瞬間、戦車部隊の真ん中の空間が歪み、巨大なコンテナが出現した。
ドスンッ!
重々しい音を立てて着地したコンテナの扉が、自動的に開く。
中から溢れ出したのは匂いだった。
焼きたてのパンの香ばしい匂い。ローストチキンの脂の匂い。そして淹れたてのコーヒーの香り。
兵士たちの鼻腔を、その暴力的なまでの「文明の香り」が襲撃する。
「……なっ……!?」
「なんだこれは……幻覚か?」
兵士たちの銃口が下がる。
彼らの視線は、コンテナの中に山積みされた食料に釘付けになっていた。
「ほら、食べなさい」
KAMIはコンテナの中から真っ赤なリンゴを一つ取り出し、放り投げた。
中佐が反射的にそれを受け取る。
ずしりとした重み。瑞々しい感触。
「毒なんて入ってないわよ。
これは手付金。
あなたたちと話がしたいの。
この先にいるんでしょ? あなたたちが守っている『誰か』が」
中佐は手の中のリンゴを見つめ、そして震える手でそれをかじった。
シャクッ。
甘酸っぱい果汁が、口いっぱいに広がる。
彼は膝から崩れ落ちそうになるのを、戦車の縁を掴んで必死に堪えた。
「……総員、警戒を解除せよ」
中佐の声は震えていた。
「彼らは……敵ではない。
少なくとも、こんな極上のリンゴを持った敵など聞いたことがない」
列車の中に招き入れられた中佐――ヴァンス中佐とその部下たちは、まるで魔法の国に迷い込んだ子供のような顔をしていた。
空調の効いた食堂車。ふかふかの椅子。
そしてテーブルに次々と運ばれてくる料理の山。
ステーキ、ピザ、サラダ、パスタ。冷えたコーラにビール。
「……信じられん」
ヴァンス中佐はステーキを頬張りながら、涙を流していた。
「我々は……我々はもう何年も、ネズミとカビの生えたレーションで食いつないできたんだ。
こんな……こんな食事が、まだこの世に存在したなんて……」
部下たちも同様だった。
彼らは夢中で食べ、飲み、そして生きている実感を噛み締めていた。
ミラーは、彼らの姿にかつての自分たちを重ね合わせ、静かにビールを注いで回った。
「よく生き残ったな、中佐」
ミラーが労う。
「装備を見る限り、補給は絶望的だったはずだ。
それでも部隊を維持し、規律を守っていた。……立派な軍人だ」
「……義務だからな」
ヴァンスは涙を拭い、姿勢を正した。
「我々は誓ったんだ。合衆国憲法と国民を守ると。
世界がどうなろうと、命令がある限り、我々は任務を遂行する」
「その命令を出しているのは誰だ?」
KAMIが、デザートのパフェを食べながら尋ねた。
「まさか幽霊からの無線を信じて戦ってるわけじゃないでしょ?」
「……生きている」
ヴァンスは声を潜めた。
「政府はまだ生きている。
ワシントンD.C.の地下深くに、最後の砦がある」
ヴァンスの話によれば、状況はこうだった。
パンデミックの初期、首都ワシントンは壊滅的な打撃を受けた。
大統領を含む主要閣僚の多くは死亡、あるいは行方不明となった。
だが、緊急時継承順位に基づき、生き残った一部の閣僚と軍の高官たちが、あらかじめ用意されていた地下シェルターへと退避した。
「『ディープ・ステート』……いや、正式名称は『国家緊急事態指揮所(NEACP)』の地下拡張区画だ。
ホワイトハウス、ペンタゴン、議事堂。それらの地下数百メートルに、巨大な地下都市が広がっている」
「へえ。やっぱりあるのね、地下帝国」
KAMIは目を輝かせた。
「だが状況は限界だ」
ヴァンスは表情を曇らせた。
「地下施設は核戦争にも耐えうる設計だが、5年という歳月は想定外だった。
備蓄食料は底をつきかけ、浄水システムも老朽化している。
我々地上部隊の任務は、周辺の廃墟から物資を回収し、地下へ送り届けることだ。
いわば生命維持装置のチューブのようなものだ」
彼は自嘲気味に笑った。
「地上にはミュータントが溢れ、地下では資源不足で餓死者が出始めている。
まさに風前の灯火だ。
それでも彼らは維持しようとしている。『アメリカ合衆国』という名の幻想をな」
「流石アメリカ政府ね」
KAMIは感心したように、パフェのサクランボをつまんだ。
「しぶといわ。
なんとか生き残りがいるなんて、まともそうじゃない。
無政府状態のヒャッハーな世界より、話が通じる相手がいる方が助かるわ」
彼女はナプキンで口を拭うと、ビジネスマンの顔になった。
「案内しなさい、中佐。
その地下都市へ。
あなたの上司……今の『大統領』に会わせて」
「……会ってどうするつもりだ?」
ヴァンスが警戒する。
「まさか政府を乗っ取るつもりか?」
「人聞きが悪いわね」
KAMIは肩をすくめた。
「救済よ救済。
あなたたちと同じように、美味しいご飯とお風呂をプレゼントしに行くの。
もちろんタダじゃないけどね」
彼女は窓の外の荒野を指差した。
「アメリカ政府がいれば、今後の話も簡単に進みそうね。
私が欲しいのは『権威』と『正当性』。
そして地下の金庫に眠っているであろう莫大な量の金塊(対価)。
彼らが生き延びるためにそれらを差し出すなら、私は喜んでこの国を再建してあげるわ」
「……再建」
ヴァンスは、その言葉の響きに眩暈を覚えた。
目の前の少女は狂人か、それとも本物の神か。
だが、彼らがもたらした物資と、この魔法の列車は本物だ。
今の政府に必要なのは、正義でも誇りでもない。
カロリーと、圧倒的な力だ。
「……分かった」
ヴァンスは決断した。
「案内しよう。
だが地下への入り口は厳重に封鎖されている。
外からの侵入者は、ウィルス汚染の疑いがあるとして即座に排除される決まりだ。
説得には時間がかかるぞ」
「大丈夫よ」
KAMIは笑った。
「この列車で玄関先まで乗り付ければ、嫌でも話を聞く気になるわ。
さあ出発よ! 目指すはホワイトハウスの地下!」
魔導列車は、ヴァンス中佐の先導の下、ワシントンD.C.の中心部へと侵入していった。
かつての首都の姿は見るも無残だった。
ナショナル・モールは雑草に覆われ、ワシントン記念塔は半ばから折れ、リンカーン記念堂は瓦礫の山に埋もれている。
そして、その廃墟の間を、無数のミュータントたちが我が物顔で闊歩していた。
「総員、対空戦闘用意!」
ミラーが叫ぶ。
上空から、翼を持ったミュータント『ガーゴイル』の群れが襲いかかってくる。
だが列車の対空魔導機銃が火を吹き、それらを次々と撃ち落としていく。
地上からは、巨体のミュータントが列車を転倒させようと突っ込んでくるが、KAMIが強化した結界に弾かれ、自滅していく。
「……なんて火力だ」
列車の中からその様子を見ていたヴァンスたちは、戦慄していた。
「我々が必死で逃げ回っていた怪物どもを、まるで虫けらのように……」
「虫けらよ」
KAMIは退屈そうに言った。
「知性のない獣なんて、私の敵じゃないわ。
さあ着いたわよ」
列車は、ホワイトハウスの北側、ラファイエット広場の跡地で停車した。
目の前には、黒く焼け焦げたホワイトハウスの残骸がある。
だがKAMIの視線は、その地下に向けられていた。
「……いるわね。地下深くに、たくさんの人間が」
彼女は中佐に向き直った。
「入り口はどこ?」
「あそこだ」
ヴァンスは、瓦礫の中に埋もれた一見するとただのコンクリート塊を指差した。
「あれは偽装だ。地下へのエレベーターシャフトが隠されている。
だが通信機が壊れていて、中の司令部と連絡が取れない。
不用意に近づけば、自動防衛システムが作動する」
「ふーん。めんどくさいわね」
KAMIは車外に出た。
「じゃあ、ノックしてあげましょうか」
彼女は右手を掲げた。
掌の上に、巨大な光のハンマーが出現する。
「――開けゴマ!」
ドォォォォォン!!!
光のハンマーがコンクリート塊を粉砕した。
偽装が剥がれ落ち、その下から分厚いチタン合金製のハッチが姿を現す。
警報音が鳴り響き、ハッチの周囲から、隠されていたタレットがせり出してくる。
「敵襲! 敵襲!」
地下の司令室はパニックに陥っていた。
『地上からの攻撃を確認! 正体不明の高エネルギー反応! ミュータントではありません!』
『なんだと!? 核攻撃か!?』
「こんにちはー! UberEATSでーす!」
KAMIの声が魔法によって増幅され、厚い装甲板を透過して地下深くまで響き渡った。
「注文の品届けに来たわよ!
ピザとコーラ、あと民主主義の夜明けよ!
開けないと、こじ開けるわよ?」
地下のモニターには、瓦礫の上に立つゴスロリ少女と、その後ろに控える巨大な黒い列車、そして山積みの食料コンテナが映し出されていた。
「……ななんだあれは……」
地下政府のトップ、大統領代行の男は、呆然とその映像を見つめていた。
「……開けろ」
彼は震える声で命じた。
「敵か味方かは分からん。
だが、あれだけの物資を持っているなら……話を聞く価値はある。
それにあの力……我々の防衛システムでは、どうせ防げん」
重い金属音と共に、地下への扉が開かれた。
地下都市は想像以上に巨大で、そして陰鬱な場所だった。
迷路のように入り組んだ通路。薄暗い照明。
そこには数千人の政府職員、軍人、そしてその家族たちが暮らしていた。
彼らの目は窪み、肌は青白く、生気がない。
空気は、リサイクルされた酸素特有の無機質な匂いと、絶望の気配で満ちている。
「ようこそ、アメリカ合衆国の最後の砦へ」
案内された最深部の作戦司令室。
そこで待っていたのは、車椅子に座った痩せた老人だった。
ギャレット大統領代行。かつては国防長官を務めていた男だ。
「……君がKAMIか」
ギャレットはKAMIを見上げた。その目には、老いた鷲のような鋭い光が残っていた。
「ヴァンス中佐から話は聞いた。
食料と引き換えに、我々の『資産』を寄越せと?」
「そうよ」
KAMIは司令室の椅子に勝手に座り、足を組んだ。
「あなたたち、お腹空いてるんでしょ?
ここの空気、死にかけの臭いがするわよ」
「否定はせん」
ギャレットは咳き込んだ。
「我々は限界だ。食料備蓄は、あと一週間分もない。
電力も水も、何もかもが尽きかけている。
このままでは一ヶ月以内に全滅するか、あるいは共食いが始まるだろう」
「なら取引成立ね」
KAMIは指を鳴らした。
部屋の中に、焼きたてのハンバーガーとフライドポテトの山が出現した。
司令室のスタッフたちが息を呑む。
「食べていいわよ。話はそれから」
プライドの高い官僚たちも、食欲には勝てなかった。
彼らは涙を流しながら、ジャンクフードにかぶりついた。
ギャレットも、震える手でポテトを口にした。
「……塩だ。本物の塩の味だ……」
「で、本題だけど」
KAMIは言った。
「私はこの国の再建を手伝ってあげる。
物資は無制限に提供する。軍事力も貸してあげる。
魔列車を使って各地の生存者をここに集め、再び『合衆国』を機能させるのよ」
「……我々に何をさせたい?」
「簡単よ。
まず、地下にある『連邦準備銀行』の金塊と『スミソニアン』の収蔵品。それらを全部、私に頂戴。
それから、あなたたちの持つ『正当性』を使いたいの」
KAMIは、アメリカ全土の地図をモニターに映した。
「各地に散らばった軍隊の生き残りや、武装した生存者グループ。
彼らをまとめるには、私が『神』だと名乗るよりも、あなたたちが『アメリカ政府だ』と名乗る方が早いでしょ?
あなたたちは号令をかけるの。
『政府は生きている。フィラデルフィアとワシントンに集結せよ』ってね。
そうやって人を集めて労働力を確保して、もっと効率よくお宝を集めるの」
「……我々を傀儡にするつもりか」
「パートナーと言って欲しいわね」
KAMIは笑った。
「あなたたちには『統治』という仕事をあげる。
国民を飢えさせず、安全を守り、法と秩序を取り戻す。
それは、あなたたちが一番やりたかったことじゃないの?」
ギャレットは、長い沈黙の後、深く頷いた。
「……その通りだ。
我々は国民を見捨てないために、ここまで生き延びてきた。
それが悪魔との契約であろうと、国民が救われるなら、私の魂など安いものだ」
彼は震える手で、KAMIの手を握った。
「契約しよう、KAMI。
アメリカ合衆国政府は、貴殿の支援を受け入れ、全力で協力することを誓う」
「よくできました」
KAMIは老人の手を握り返した。
「じゃあまずは掃除ね。
地上のミュータントを掃討して、ホワイトハウスを再建しましょう。
やっぱり大統領は、地下の穴倉より白い家がお似合いよ」
その日、ワシントンD.C.の廃墟に、5年ぶりに星条旗が翻った。
魔導列車の汽笛と戦車の砲撃音が、復活の狼煙となって響き渡る。
人類最強の国家が、異界の神の力を借りて地獄の底から蘇った瞬間だった。
KAMIはホワイトハウスの瓦礫の上に立ち、満足げに呟いた。
「さて、次は西海岸かしら。
ハリウッド映画のフィルムとか、残ってるといいんだけど」
彼女の欲望と好奇心は尽きることがない。
アメリカ再統一の旅は、まだ始まったばかりだった。




