第162話
【Webアーカイブ:20XX年XX月XX日 保存ログ】
■ NHXニュース速報(特別番組)
【速報】人類、月へ移住開始。4カ国+EU・G7月面都市計画「セレーネ・ノヴァ」を正式発表 ~KAMI技術による「水エンジン」で月まで数時間、半年後の開業を目指す~
[スタジオ映像:緊張した面持ちのキャスターと宇宙物理学の専門家、国際政治アナリスト]
キャスター:
「午後6時を回りました。番組を変更して、歴史的なニュースをお伝えします。
先ほど、スイスのジュネーブで行われていた『世界宇宙開発合同会議』において、日本、アメリカ、中国、ロシアの4カ国首脳に加え、EU、G7、その他50カ国の代表が共同宣言を発表しました。
その内容は、人類の想像を絶するものでした。
人類初の恒久月面都市『セレーネ・ノヴァ(新しき月)』の建設計画、そしてその驚異的なスケジュールです。
中継が繋がっています。ジュネーブの沢村総理、お願いします」
(画面切り替え:ジュネーブ国連欧州本部の大会議場。背後には巨大な地球と月のホログラム、そして『Project SELENE-NOVA』のロゴ)
沢村総理:
「……世界の市民の皆様。本日、我々は一つの『約束』を果たすために、ここに立ちました。
かつて人類は月を見上げ、そこに到達することを夢見ました。アポロ計画から半世紀。
我々は再び、いや、今度は『訪問者』としてではなく『居住者』として、月へと向かいます。
KAMI様より提供された『超高効率水推進エンジン』および『空間折りたたみ技術』。
この二つの奇跡的なテクノロジーにより、宇宙開発のコストと時間は、事実上『ゼロ』に等しいレベルまで圧縮されました」
(会場からどよめき)
沢村総理:
「我々連合国は、月面『静かの海』地下の巨大溶岩洞内に、10万人規模の居住区画を有する都市『セレーネ・ノヴァ』を建設します。
着工は明日。
そして、最初の民間移民団が出発するのは――今から半年後です」
(フラッシュの嵐。記者たちの絶叫に近い質問が飛び交う)
トンプソン大統領(米国):
「半年だ! 諸君、聞き間違いではない!
我々が手にした船は、もはやロケットではない。水を入れるだけで光速の10%まで加速可能な、魔法の翼だ!
月までの距離38万キロ? 散歩のようなものだ。
シャトルバス感覚で月へ行き、週末を地球で過ごす。そんなライフスタイルが、半年後には現実になるのだ!」
王将軍(中国):
「このプロジェクトは、特定の国家が独占するものではない。
『空間折りたたみ技術』により、建設資材の運搬コストは無に等しい。
我々は、参加を希望する全ての国家に対し、居住区画の建設権を提供する。
月は、地球の新たな『第8の大陸』となるのだ」
ヴォルコフ将軍:
「安全面も万全だ。KAMI様直伝の『環境維持システム(テラフォーミング・ライト)』が、都市内部を地球と同じ環境に保つ。
放射線も、隕石も、重力の問題も、全て解決済みだ。
必要なのは、パスポートと着替えのシャツくらいだ」
■ テック系ニュースサイト『GIZMODO Japan』
【解説】KAMIがくれたチート技術「水推進エンジン」と「空間折りたたみ」がヤバすぎる件 ~物理法則? 知らねえよそんなもん! これが神のオーバーテクノロジーだ!~
文:宇宙開発担当ライター
皆さん息してますか? 僕はしていません。
さきほど発表された月面都市計画。スケジュールが「半年後」って聞いて、「は?」と思った人も多いでしょう。
普通の感覚なら、計画だけで10年、建設に20年です。
でも、公開された技術仕様書を見たら、ぐうの音も出ませんでした。
KAMI様がくれた技術が、あまりにも「チート」すぎて、物理学の教科書を焚き火にくべたくなりました。解説します。
1. 水を燃料に光速の10%!? 『ハイドロ・レラティビティ・ドライブ』
これまでのロケットは、重たい燃料を燃やして、その反動で進んでいました。
しかし、KAMI印の新型エンジンは違います。
「水(H2O)」を触媒にし、魔石エネルギーで「質量そのものを推力ベクトルに変換(意味不明)」することで、光速の10%(秒速3万キロ)まで加速します。
理論上、月まで15秒です。瞬きしてる間に着きます。
もちろん、生身の人間がそんな加速をしたら、Gで肉片になりますが、そこは「慣性制御魔法」がセットになっているので、乗ってる人は「エレベーターが動き出したかな?」くらいの感覚で宇宙に行けるそうです。
燃料は水。その辺の水道水でOK。排気ガスも水蒸気だけ。エコすぎんだろ。
2. 運送業の革命 『空間折りたたみコンテナ』
月面に都市を作る一番のネックは「資材運搬」でした。
でも、この技術があれば解決です。
専用のコンテナ内部は亜空間に繋がっており、「東京ドーム1個分の容積」を「アタッシュケース1個分のサイズと重さ」に圧縮できます。
つまり、ビル一棟分の資材を、手荷物感覚で月まで運べるわけです。
これを使えば、重機も発電プラントも食料も水も、なんでも運び放題。
「建設に時間がかかる?」
いえいえ、地球で作った完成品を持って行って、月でポンと広げるだけです。
だから「半年」なんです。これでも「安全確認のために時間をかけた方」だそうです。
結論:
KAMI様、あなたは物理法則を何だと思っているんですか。(褒め言葉)
僕らが必死に計算していたロケット方程式が、全部「誤差」になりました。
半年後、僕らは月でウサギを探しているかもしれません。
■ 大規模匿名掲示板『ダンジョンちゃんねる』
【宇宙】月面都市「セレーネ・ノヴァ」計画発表! 半年後に移住開始キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!! ★89
1: 名無し探索者
うおおおおおおおおおお!
ついに来た! ついに来たぞ!
月面都市ガチ決定! しかも半年後とか早すぎワロタwww
KAMI様々だな……一生ついていきます!
2: 名無し探索者
半年後ってマジかよwww
俺の大学卒業より早えじゃねえか。
3: 名無し探索者
水エンジンやばすぎ。
「燃料:水」って、これもうエネルギー革命だろ。
石油王がまた泣いてる姿が見える。
4: 名無し探索者
3
石油王は今頃必死に「月の土地」を買い漁ってるよw
あいつら転んでもただじゃ起きないからな。
5: 名無し探索者
しかし「空間折りたたみ」って何だよ。
ドラえもんかよ。
四次元ポケットの実用化とか、人類の夢がまた一つ叶ったな。
6: 名無し探索者
5
あれがあれば、ダンジョンのドロップ品回収も楽になるよな。
アイテムボックス持てない一般人でも、折りたたみコンテナあれば無限に持てる。
物流業界が死ぬか進化するか、どっちかだな。
7: 名無し探索者
月に行けるのは誰なんだ?
やっぱり上級国民様だけ?
8: 名無し探索者
7
公式発表見たけど、第一陣は「専門技術者」と「高ランク探索者」が優先らしい。
月の地下にもダンジョンがある可能性が高いから、防衛戦力が必要なんだと。
俺たち探索者にもチャンスあるぞ!
9: 名無し探索者
月面ダンジョンとか胸熱すぎるだろ……。
重力6分の1でジャンプ斬りとか絶対楽しい。
10: 名無し探索者
9
KAMI「あ、月面都市内は地球と同じ重力にしといたから(慣性制御)」
俺ら「」
11: 名無し探索者
KAMI様、相変わらず配慮が行き届きすぎてるwww
「水エンジンで15秒で着くけど酔うから、3時間くらいのクルージング設定にしとくわね」とか言いそう。
12: 名無し探索者
実際トンプソン大統領が言ってたけど、
「通勤圏内」になるらしいぞ。
月で農業やって、週末は地球の秋葉原で買い物みたいな生活。
13: 名無し探索者
家賃どうなるんだろ。
東京の狭いワンルームより、月のドーム都市の方が広くて快適説あるな。
14: 名無し探索者
これ国境とかどうなるんだ?
月面はどこの国の領土でもないはずだが。
15: 名無し探索者
14
そこが今回の会議の肝だったらしい。
「地球連合管理区」みたいな扱いにして、各国がモジュール(出張所)を出す感じ。
日本区、アメリカ区、中華街、ロシア区……。
これもうSF映画の世界観そのままだよな。
16: 名無し探索者
反乱とか起きないのかな?
「地球からの独立!」とか言ってコロニー落としとか……。
17: 名無し探索者
16
それな。
水エンジンで光速の10%出せるなら、隕石にエンジンつけて地球に落としたら人類滅亡だぞ。
抑止力どうなってんだ。
18: 名無し探索者
17
そこはKAMI様が「シールド張るから平気~」って言ってたらしいぞ。
議事録リークで見た。
「喧嘩するならシールドの中でやってね」だってさ。
19: 名無し探索者
さすがKAMI様www
対策が雑だけど完璧すぎるwww
神のバリアがあるなら安心だな(思考停止)。
20: 名無し探索者
とりあえず俺は月に行くためにレベル上げしてくるわ。
「月面攻略組」の称号、絶対欲しい。
21: 名無し探索者
俺は月の土地買うために魔石掘ってくる。
半年後には、月見バーガーを月で食うんだ……!
■ 経済紙『日本経済新聞』
「宇宙特需」で日経平均10万円突破 建設・重工株に買い殺到、清水建設・大林組などゼネコン各社、月面都市建設の受注合戦へ
昨日の「セレーネ・ノヴァ計画」発表を受け、東京株式市場は全面高の展開となった。
特に注目を集めているのが、月面基地建設の中核を担うゼネコン各社と、宇宙船(水推進エンジン搭載型シャトル)の建造を請け負う重工メーカーだ。
三菱重工の株価はストップ高。同社は既にKAMI技術を応用した大型貨物船「天の川」の設計を完了しており、来月から建造に入ると発表している。
また、宇宙での食料生産を担う「宇宙農業」関連銘柄や、月面での通信インフラを整備する通信大手にも買いが集まっている。
市場関係者は語る。
「これは単なる公共事業ではない。地球という枠組みを超えた無限のフロンティアへの投資だ。
ダンジョンバブルで得た資金が、宇宙開発へと還流されている。
日本経済は今、『黄金の循環』に入ったと言えるだろう」
一方で、既存の航空会社や海運会社は、安価で高速な「水エンジン輸送」の登場により、ビジネスモデルの根本的な転換を迫られている。
空の旅は、もはや「地球内」だけのものではなくなったのだ。
■ 海外の反応まとめサイト『翻訳こんにゃく』
スレタイ:【衝撃】日本・アメリカ・中国・ロシアがガチで月面都市作るってよwww 海外の反応
(アメリカ:Reddit)
「USA! USA! ついに我々は星になるんだ!」
「おい待て、燃料が水? ガソリンスタンドはどうなるんだ? テキサスがまた荒れるぞ」
「↑水ならどこにでもあるだろ。海水をそのまま使えるなら、コストはタダ同然だ」
「KAMIは神だ。彼女がいなけりゃ、俺たちはまだロケット花火で月を目指してただろうな」
「月でエイリアンに会えるかな? KAMIが『いるかもね』って言ってたし」
(イギリス:BBCコメント欄)
「我々英国も参加するぞ! 紅茶の美味しい月面カフェを開くんだ」
「EUがまとまって動くなんて珍しい。それだけこの技術が魅力的だったということか」
「しかし、たった半年で? 信じられん。ヒースロー空港の拡張工事でさえ10年かかってるのに」
「魔法(空間折りたたみ)があるからな。工事というか、組み立てるだけだろう」
(中国:Weibo)
「月餅を月で食べる夢が叶う!」
「我が国の建設スピードとKAMIの技術が合わされば、半年もかからないアルよ」
「広寒宮(月の宮殿)が現実に……。これは中華民族の偉大なる復興だ」
「でもチケット高そうだな。探索者になって稼ぐしかないか」
(インド:Twitter)
「我々も混ぜてくれ! インドの技術力も捨てたもんじゃないぞ!」
「モディ首相が『インドも独自のエリアを持つ』って宣言したぞ」
「ガンジス川の水を燃料に月へ……。聖なる旅だ」
「KAMI様、ヒンドゥー教徒への奇跡はまだですか? 月に行く前にそっちをお願いします」
■ 雑誌『週刊SPA!』
【緊急特集】月面移住のリアル 「宇宙婚」から「月面キャバクラ」まで、半年後に始まる重力1/6のパラダイス銀河!
● 月面は「治外法権」!? 男の楽園説を追う
政府発表によれば、月面都市は「国際管理区域」となるが、その法整備はまだ追いついていない。
つまり初期の月面は「やったもん勝ち」の無法地帯になる可能性が高い!
某大手風俗グループ幹部が語る。
「無重力(正確には低重力)プレイ……需要ありますよ。既に『月面支店』の出店計画を進めています。
KAMI様の技術で空気も重力も制御できるなら、どんなプレイも可能ですからね(笑)」
● 「宇宙婚」がブームに?
大手結婚相談所が「月面ハネムーンプラン」の予約を開始。
青い地球をバックに愛を誓う。お値段は二人で500万円から。
「ダンジョンで稼いだカップルからの問い合わせが殺到しています」とのこと。
● 探索者たちの新たな狩り場
月面の地下には、手付かずの巨大ダンジョンが眠っているとの噂も。
「月の魔石」は、地球産よりも高純度で特殊な効果があるというリーク情報も飛び交っている。
一攫千金を狙うなら、地球のダンジョンより月だ!
■ ドキュメンタリー番組『ガイアの夜明け』予告
『宇宙へ挑む町工場 ~下町ロケット、魔法の翼を得る~』
東京都大田区。かつてロケット部品を作っていた小さな町工場に、今、熱い視線が注がれている。
彼らが作るのは、KAMIの設計図に基づいた「水推進エンジン」の重要パーツ。
「魔法だろうが科学だろうが、モノづくりには変わりねえ。精度が命だ」
油にまみれた職人たちが、ミクロン単位の精度で「神の技術」を形にしていく。
日本のモノづくり魂と、異世界の魔法技術が融合する瞬間。
半年後の打ち上げに向けた男たちの戦いを追う。
■ インフルエンサーの投稿
@Kenta_SwordSaint(剣聖ケンタ)
「月面攻略組、もちろん立候補しました!
KAMI様が『月のダンジョンは面白いわよ』って言ってたし、行かない理由がない。
無重力での剣術、新しいスキル……想像するだけでワクワクする。
みんな、月で会おうぜ! #月面都市 #探索者」
@Rina_Explorer(人気ダンジョン配信者)
「月に行く準備、着々と進めてます
宇宙服のデザイン、KAMI様監修で超かわいいの!
宇宙から配信したら同接どれくらいいくかな?
宇宙食の食レポとか、月のクレーターで自撮りとか、やりたいこといっぱい!
半年後が待ちきれないよ〜!」
@Tsukuyomi_Master(月島蓮)
「月読ギルドとしても、月面支部の設立を決定しました。
宇宙は未知の世界。だからこそ助け合いが必要です。
月で困ったことがあれば、我々を頼ってください。
……しかし『月読』が本当の『月』に行くことになるとは。
運命を感じますね」
■ 首相官邸・地下危機管理センター(非公開ログ)
【内部メモ:総理・官房長官閲覧用】
件名:月面都市計画に関する国民反応分析
概要:
発表から24時間。国民の反応は、概ね「好意的」かつ「熱狂的」である。
内閣支持率は10ポイント上昇。
特に若年層における「未来への希望」指数が劇的に改善している。
ダンジョン問題や格差問題への不満が、宇宙という壮大なフロンティアへの期待によって上書き(希釈)された形だ。
懸念事項:
倍率過多:
初期移住枠10万人に対し、既に応募が5000万件を超過。
選考プロセスにおける不公平感が、新たな火種となる可能性。
「片道切符」のデマ:
「月に行ったら二度と帰れない」「政府の口減らし政策だ」という陰謀論が一部で拡散中。
KAMIの技術(安全な往復)を強調する必要あり。
他国との摩擦:
居住区画の配分を巡り、中国・ロシアとの水面下での駆け引きが激化している。
特に「一等地(地球が見える場所)」の取り合いが深刻。
九条コメント:
「総理。国民は夢を見ています。この夢を覚めさせないことが、我々の最大の任務です。
半年間、何としても走りきりましょう。
……しかしKAMI様も罪作りな。
『月にはウサギがいるかもね(モンスター的な意味で)』などとSNSで呟くものだから、動物愛護団体とハンター協会が同時にアップを始めています。
また胃が痛くなりそうです」
沢村総理コメント:
「……ウサギか。餅つきでもしていてくれれば平和なのだがな。
まあいい。行こう、月へ。
そこが新たな地獄だとしても、地球よりは眺めが良いだろう」
世界は、かつてない速度で回り始めていた。
ダンジョンという地下のフロンティアと、宇宙という天空のフロンティア。
二つの無限の可能性に挟まれた人類は、KAMIという絶対的な「導き手(あるいは狂言回し)」の手のひらで、熱狂と混乱のダンスを踊り続けている。
半年後。
最初の船が水を噴射して空へ昇るその時。
人類は本当の意味で「地球の子」から「星の子」へと生まれ変わるのかもしれない。
「KAMI様々だな……」
誰かが呟いたその言葉は、今の世界全ての共通認識だった。
神がいなければ、この景色を見ることはなかったのだから。




