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賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい  作者: パラレル・ゲーマー


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第159話

 『深霧踏破戦線』終了3日前。

 その日、世界中のダンジョン拠点とインターネットのタイムラインは、一つの巨大な喪失感と、それを上書きする「ガチ勢」たちの熱狂によって支配されていた。


 『怪我治癒ポーション・改』。

 在庫数が「ゼロ」となった瞬間、命の値段を巡る狂騒はひとまずの決着を見た。

 だが、本当の「探索者シーカー」たちにとって、祭りはここからが本番だった。


 彼らは知っていたのだ。ポーションは消耗品だ。飲めば消える。

 だが装備ギアは違う。

 この世界に耐久度は存在しない。一度手に入れれば、ロストしない限り、それは半永久的に富を生み出し、命を守り続ける「資産」となる。

 そして何より、今回KAMIが提示した「免責事項」が、彼らの欲望に火をつけていた。


 SNSや動画配信サイトでは、ポーション争奪戦から降り、黙々とポイントを貯め続けたランカーたちによる新たな祭り――『報酬交換報告会』が幕を開けていた。


配信タイトル:【世界最速】ポイント全ツッパ! イベント限定ユニーク『霧払いの手甲』交換してみた!【性能検証】

配信者:ランクD探索者・ガチムチ兄貴

視聴者数:180,543人


「はいどーも! ガチムチです!

 ポーション品切れ? 知らねえよ、そんなもん!

 探索者ならこっちだろ!

 俺はこの2ヶ月、ひたすらキル数を稼いでポイントを貯めてきました!

 狙いは一つ! この説明文からしてヤバそうなグローブだ!」


 画面の中、男がその場でショップを開き、ファンファーレと共に一対の革手袋を実体化させる。

 表面には氷の結晶のような紋様が浮かび上がり、冷気を纏った青白いオーラを放っている。


「きたああああああ! 『霧払いの手甲(Mist-Cleaver Gauntlets)』!

 早速ステータス見ていきましょう! ドン!」


 画面いっぱいに、その異常なスペックが表示される。


【アイテム詳細】

アイテム名:霧払いの手甲(Mist-Cleaver Gauntlets)

ベース:E級・レザーグローブ(回避ベース)

レアリティ:ユニーク(橙)

装備要件:レベル18以上


【性能(Stats)】

攻撃速度 +10%

最大ライフ +40

敵を倒した時、ライフが 10 回復する

敵を倒した時、マナが 5 回復する

敵を倒した時、その敵の最大ライフの 5% 分の氷結ダメージを周囲の敵に与える。


【フレーバーテキスト】

「霧の中では一撃が全てを決める。

倒れた敵は次なる敵への刃となる。

止まるな。その連鎖こそが生還への道標だ。」

―― KAMIのイベント攻略メモ


 そして彼は、アイテム説明欄の末尾に記された赤字の「免責事項」を読み上げた。


【免責事項】

※本アイテムの特殊効果(MOD)については、今後実装される高難度コンテンツやコア・ドロップテーブルに統合される可能性があります。

※また、ゲームバランス調整のため、将来的にドロップする同名アイテムの性能が変更ナーフされる可能性があります。

(注:既に獲得された個体の性能が変更されることはありません)


 その一文が読まれた瞬間、コメント欄が爆発した。


『は? 獲得済みは変更なし?』

『ナーフ確実なぶっ壊れ性能だけど、今手に入れれば一生この性能のままってことか!?』

『レガシー化確定じゃねーか!!!!!』

『うわあああああ! 絶対に確保しろ!』


「さあ、スペックは最強。レガシー化も確定!

 じゃあ実際どれくらいヤバいのか……。

 論より証拠、早速イベントエリアで試してみましょう!」


 画面が切り替わる。

 場所は渋谷ダンジョン・イベントエリア。

 スケルトンとゴブリンの混成部隊、およそ50体が密集して襲いかかってくる場面だ。

 通常なら囲まれてタコ殴りにされる死の状況。


「見ててくださいよー! いくぞオラァッ!」


 ガチムチ兄貴が手にした大剣を一閃させる。

 最初の一撃が先頭のゴブリンにヒットし、HPをゼロにした。


 その瞬間――。


 パァァァァァンッ!!!


 ゴブリンの死体が、光の粒子ではなく、鋭利な氷のつぶてとなって四方八方へ弾け飛んだ。

 その氷の破片が隣にいたスケルトンに突き刺さる。

 ダメージ判定。スケルトンのHPが消し飛ぶ。

 そして――。


 パパパパパパパパパパパァァァァンッ!!!!!


 連鎖した。

 一匹の死が爆発を生み、その爆発が隣の敵を殺し、さらにその敵が爆発する。

 まるでドミノ倒しのように、あるいはポップコーンが弾けるように。

 50体のモンスターの群れが、たった一撃のきっかけから、またたく間に青白い氷の爆風に飲み込まれ、粉砕されていく。


 画面がホワイトアウトするほどの氷結エフェクト。

 そして静寂。

 後に残っているのは、大量のドロップ品と、HPもMPも満タンのまま立ち尽くす配信者の姿だけ。


 コメント欄が、驚愕の弾幕で埋め尽くされる。


『は????????』

『強すぎんだろ!!!!!!』

『一振りで全部消えたぞ!?』

『「敵の最大ライフの5%分の爆発」って何だよ、連鎖したら即死級じゃねーか!』

『撃破時回復(Life on Kill)までついてんのかよ!』


「いやいやいや! これヤバいっすよ!

 今の見た!? 俺、一回しか剣振ってないよ!?

 勝手に敵が爆発して連鎖チェインして全滅した!!

 しかもMP回復してるからスキル撃ち放題!

 ポーション飲む暇なんていらねえ、殴れば回復するんだからな!

 これは『革命』だわ」


 彼は興奮気味に叫んだ。


「これがあれば、ソロでのファーム(周回)効率が3倍になるぞ!

 この性能が一生ナーフされないとか、KAMI様デレすぎだろ!

 間違いなく今回の一等賞だわ!」


 ***


 その熱狂は、別の場所でも起きていた。

 こちらは「生存」と「速度」に取り憑かれた者たちの宴だ。


X(旧Twitter)トレンド入り:#霧渡りの長靴


 投稿された動画には、人気女性探索者がモンスターの群れの中を幽霊のようにすり抜けて走る姿が映っていた。

 彼女が履いているのは、深い霧の色をしたロングブーツ。


【アイテム詳細】

アイテム名:霧渡りの長靴(Mist-Walker's Stride)

ベース:E級・レザーブーツ(回避ベース)

レアリティ:ユニーク(橙)

装備要件:レベル18以上


【性能(Stats)】

移動速度 +30%(※現時点でのE級装備の理論最大値)

最大ライフ +50

冷気耐性 +20%

「霧化(Phasing)」状態を常に得る。

(※敵や設置物(壁以外)をすり抜けて移動できる)

あなたがすり抜けた敵に対し、自動的に「盲目(Blind)」状態(命中率半減)を与える。

(※基本デバフ時間は8秒)


【フレーバーテキスト】

「風は誰にも捕まえられない。霧は誰にも触れられない。

道を塞ぐ者などいない。

ただ駆け抜けろ。ゴールは常に誰よりも速き者のためにある。」

―― KAMIのイベント攻略メモ Vol.2


 そしてここにも、同じ免責事項が記されていた。

 『既に獲得された個体の性能が変更されることはありません』。


 動画の中で彼女は、モンスターの群れに向かって一直線に走っていく。

 「危ない!」「ぶつかる!」

 そう思った瞬間、彼女の身体が透き通り、オークの巨体を空気のようにすり抜けた。

 すり抜けた敵はキョロキョロと周囲を見回している(盲目状態)。

 彼女は止まらない。一度も足を止めることなく、最短ルートでゴールへ駆け込む。


『移動速度+30%!?!?』

『それ以上にヤバいのは「常時霧化(Phasing)」だろ!』

『これがあれば「スタック(敵に囲まれて動けなくなること)」がなくなるぞ!』

『今のダンジョン、HPゼロになったらマジで死ぬからな……。「囲まれない」ってのは最強の生存スキルだわ』

『盲目付与のおかげで被弾も減るし、生存率ダンチだわ』

『これも絶対ナーフ対象だろ! 常時すり抜けなんて強すぎる!』

『今のうちに確保しないと、次に出るやつは「すり抜け時マナ消費」とかデメリット付きになるぞ!』


 ***


 そして、市場が動いた。


 大手オークションサイト『ダンジョン・マーケット』。

 そこに一つの『霧渡りの長靴』が出品された。

 出品者は、借金返済のために泣く泣く手放した個人探索者。


 だがその価格は、異常な速度で跳ね上がった。

 ポーションを確保し損ねた企業、あるいはポーションよりも「今後稼ぐための効率」と「絶対的な生存能力」、そして何より「二度と手に入らないかもしれないレガシー品」としての資産価値を求めたガチ勢たちが、札束で殴り合いを始めたのだ。


 1億。5億。10億。

 最終落札価格――15億4000万円。


『15億wwwwwww』

『ポーションと同じ値段ついたぞ、おい!』

『まあポーションは一回こっきりだけど、こっちはずっと使えるからな』

『壊れないし腐らない。企業の偵察部隊とか運び屋にとっては、喉から手が出るほど欲しい性能だろ』

『死んだら終わりの世界で、生存率を劇的に上げる装備だぞ? 15億でも安いくらいだ』

『後からナーフ版が出たら、このオリジナル版の価値はさらに上がるぞ』


 ネット上では、冷静な分析も始まっていた。


『怪我治癒ポーション狙いじゃなくて、こっちで良かった……』

『でも実際、何人くらい交換出来たんだ?』

『参加者50万人いて、ポーション選ばない人で、かつ真面目に走ってポイント完走した奴だろ?』

『結構少ない気がするな』

『俺の周りだとポーション派が9割だったぞ』

『推計だと……5万人くらいか?』


『5万人分ユニークアイテムあると考えると安くなりそうだけど、需要が高いからなぁ』

『みんな売らねーし』

『ガチ勢は自分で使うから、市場に流れないんだよ』

『こっちは命かかってるからな。最強装備を手放す馬鹿はいない』

『今後コアユニークになる可能性って注釈あったけど、それがいつになるか分からんしな』

『今この瞬間に必要なんだよ』


 祭りは終わったが、新たな格差が生まれた。

 命を救う薬を手に入れた者。

 そして、これからのダンジョン攻略を圧倒的に有利にし、自らの生存を保証する「不滅の神装備レガシー」を手に入れた者。


 どちらが正解だったのか。

 その答えは、これから始まるC級、そしてB級ダンジョンの攻略の中で明らかになるだろう。

 だが一つだけ確かなことは、彼らは皆、この狂ったゲームの「勝者」として、次のステージへの切符を手に入れたということだった。



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― 新着の感想 ―
霧シリーズセット装備したらしばらく無双出来そう
現役時はコレをずっと使って引退する時に高値で売ると良さそう
今後、性能が弱体化されない装備なんて値上がり必須で15億は安いですね! 低レベル帯装備でも、オンリーワン系の装備は後々部位によって使い分けられる事を考えれば今後プレ値が付く可能性が大で、投資家やコレク…
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