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賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい  作者: パラレル・ゲーマー


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第139話

【Global Insight】 特集:マナの鉄のカーテン――「神聖四カ国同盟」はいかにして人類を分断し、新たな階級社会を作り上げたか


20XX年 X月X日配信 文:アルトゥール・ベネット(国際政治経済評論家)/パリ支局


序章:置き去りにされた95%の人類


世界地図を広げてみてほしい。

 かつて、そこには国境線という名の複雑なモザイクが存在していた。イデオロギー、宗教、経済格差、様々な要因が世界を色分けしていた。

 だが今や、世界地図はたった二色で塗りつぶされている。


「ダンジョンがある国」と「それ以外の国」だ。


 日本、アメリカ、中国、ロシア。

 この「ビッグ・フォー(Big 4)」と呼ばれる四カ国は、今や国連憲章も国際法も超越した、事実上の「世界統一暫定政府」として君臨している。

 彼らは表向きには「人類の未来のための調整」などという美辞麗句を並べるが、その実態は、神の如き力を持つ資源と技術を独占する冷酷なカルテルに他ならない。


 我々EU諸国、グローバルサウス、そしてその他全ての国々は、彼らが高らかに宣言する「ダンジョン・エイジ」の観客席に縛り付けられ、指をくわえて舞台上の狂乱を見せつけられているに過ぎない。


 本稿では、この数ヶ月で急速に形成された「神聖四カ国」による独裁体制の実態と、それによって窒息しつつある「外側の世界」の絶望、そして我々が抱く、恥ずべき、しかし切実な「祈り」について詳述する。


第1章:麻生ドクトリンと「搾取」の構造


 日本のダンジョン大臣、麻生太郎。この男の名前を聞いて、今や世界中で苦虫を噛み潰さない指導者はいないだろう。

 彼は一見、飄々とした老政治家を演じているが、その実、現代における最も冷徹な帝国主義者である。


 彼が主導し、四カ国が合意した「ダンジョン資源特別協定」。これこそが現代の不平等条約だ。

 彼らは言う。「魔石やオーブの価格は市場原理に委ねる」と。なんと美しい響きだろうか。

 だがその「市場」の胴元は誰か? 供給の蛇口を握っているのは誰か? 全て彼らだ。


 現在、国際市場における『富のオーブ』の取引価格は、日本円にして約20万から30万円で推移している。

 四カ国の国民にとっては、ダンジョンで数日働けば手に入る額かもしれない。

 だが、通貨安とインフレに喘ぐ我々「持たざる国」の国民にとっては、それは年収に匹敵する天文学的な数字だ。


 我々の国の農家は、従来の肥料や燃料の高騰に苦しんでいる。一方で、日本の農家は『魔石』を使った即席栽培で、通常の倍以上の収穫量をコストゼロ同然で叩き出している。

 我々の国の工場は、エネルギー価格の高騰で稼働停止に追い込まれている。一方で、アメリカの工場は『魔石バッテリー』による無限の動力で24時間フル稼働を続けている。


 彼らは我々に「完成品」を高値で売りつけ、我々の国から残ったわずかな外貨を吸い上げている。

 これは貿易ではない。経済的な虐殺だ。

 麻生大臣は記者会見で「世界経済への波及効果」を語るが、その波及とは、彼らの宴のテーブルから落ちるパン屑を我々が争って拾う姿を指しているのだろうか?


 先日、パリのシャンゼリゼ通りで行われたデモ行進で、一人の若者が掲げていたプラカードが忘れられない。

 『我々にもツルハシを寄越せ。施しはいらない』。


 そう、我々は金が欲しいのではない。

 彼らと同じスタートラインに立つ「機会チャンス」が欲しいのだ。

 だが四カ国は、その扉を固く閉ざしたままだ。


第2章:軍事バランスの崩壊と「魔法」の独占


 経済格差以上に深刻なのが、安全保障の崩壊だ。

「銃やミサイルは効かない」。KAMIが告げたこの新世界のルールは、我々が数世紀かけて築き上げてきた国防の概念を、一夜にして無力化した。


 現在、四カ国の軍隊は、ダンジョン産の『マジックアイテム』による武装化を急速に進めている。

 米軍のM1エイブラムス戦車は燃料不要で無限に走り続け、その主砲は物理法則を無視した魔弾を放つという。

 中国の人民解放軍は、魔法で強化された兵士たちによる音速を超える歩兵機動部隊を編成していると噂される。

 ロシアに至っては、戦車や戦闘機に「自己修復機能」を付与し、不死身の軍団を作り上げつつある。


 これに対し我々はどうだ?

 我々の戦車は燃料を食らい、我々の銃弾は彼らの魔法障壁の前では豆鉄砲に過ぎない。

 もし今、四カ国のいずれかが「領土拡大」の野心を抱いたら?

 あるいは、彼らが支援する武装勢力に、型落ちのF級マジックソードが一本でも横流しされたら?


 それだけで小国の政権は転覆するだろう。

 核抑止力? 笑わせないでほしい。KAMIが「核兵器の使用はつまらないから禁止」と一言呟けば、それで終わる話だ。

 今の世界における最強の兵器は核ではない。高ランクの『ファイアボール』を放つことができる、一人のレベル20の探索者なのだ。


 四カ国は「国際的な治安維持のため」と称して、この魔法技術の流出を厳しく制限している。

 だがそれは「平和」のためではない。「支配」のためだ。

 彼らは自分たちだけが銃を持ち、それ以外の人類を棒切れで戦わせようとしている。

 これは新しい植民地主義だ。かつて西欧列強がマキシム機関銃で世界を制圧したように、今、四カ国は「魔法」という絶対的な力で我々を恫喝している。


第3章:奪われる未来――「頭脳」と「若者」の流出


 しかし、資源や軍事力以上に我々を絶望させているのは、「希望」の流出だ。

 今、世界中の若者が自国を捨てようとしている。


 ベルリン、ロンドン、ブラジリア、ケープタウン。

 どこの都市の大学に行っても、学生たちが話しているのは講義の内容ではない。「いかにして日本(あるいは米国)のビザを取るか」だ。


 日本の渋谷で高校生が一日で数百万円を稼いだというニュース。

 アメリカのネバダで、しがない農夫が魔法の銃を作って英雄になったという動画。

 それらは、閉塞感に満ちた我々の国の若者にとって、あまりにも眩しい毒だ。


「この国で真面目に働いても、一生かかって日本の高校生の一ヶ月分も稼げない」

「勉強して医者になっても、魔石軟膏一つに勝てない」

「ここにいても未来はない」


 優秀な頭脳、勇敢な肉体、野心あふれる魂。

 本来ならば我々の国の未来を担うべき世代が、雪崩を打って四カ国へと流出している。


 日本政府は先日の会見で「外国人探索者の受け入れ枠拡大」を発表した。

 表向きは「国際貢献」だが、その実態は、世界中から優秀な「魔石採掘マシーン」を吸い上げるための、悪魔的なリクルート活動だ。


 彼らは我々の国の若者に武器を与え、夢を与え、そしてダンジョンへと送り込む。

 若者たちは感謝して日本のために働き、日本のために魔石を産出し、そして日本に税金(消費税)を落とす。

 残された我々の国には、老人と夢を諦めた者たちだけが残る。

 これを「緩やかなジェノサイド」と呼ばずして、何と呼ぶべきか。


第4章:KAMIという名の「独裁者」への愛憎


 そしてこの全ての不平等の頂点に君臨するのが、KAMIと呼ばれる存在だ。

 ゴシック・ロリータ姿の気まぐれな少女。

 四カ国は彼女を「協力者」と呼ぶが、実態は違う。彼女こそが、この世界の真の「独裁者」だ。


 彼女の一言で株価が乱高下する。

 彼女の指先一つで新しい資源が生まれ、あるいは枯渇する。

 彼女が「飽きた」と言えば、その瞬間に人類の文明は終わるかもしれない。


 我々は彼女を憎むべきだ。

 彼女こそが、この理不尽な格差を生み出した張本人なのだから。

 彼女がもっと公平に世界中に均等にダンジョンを配置していれば、こんなことにはならなかった。彼女が特定の国だけを贔屓しなければ、我々も繁栄を享受できたはずだ。


 だが――。

 認めよう。恥を忍んで告白しよう。

 我々は彼女を憎みきれない。それどころか、我々の心の奥底には、彼女に対する強烈な「憧れ」と「信仰」が芽生え始めている。


 なぜなら、彼女の気まぐれはあまりにも魅力的だからだ。

 彼女が作り出した世界は残酷だが、嘘がない。

 努力と運と実力があれば、誰でも報われる世界。家柄も人種も関係ない。ただ「強い」者が勝つ世界。

 それは我々の腐敗した政治家や、硬直した社会システムが決して提供できなかった「純粋な希望」の形だ。


 我々が憎んでいるのはKAMIではない。KAMIの隣に侍り、その寵愛を独占し、さも自分たちの手柄のように振る舞っている、沢村やトンプソン、そして麻生といった「中間管理職」たちなのだ。


 我々は毎晩ニュースを見る。

 KAMIが日本のコンビニスイーツを食べて微笑む姿を。

 KAMIがアメリカの映画を見て涙する姿を。

 その姿を見るたびに、我々は叶わぬ恋をする少年のように胸を焦がす。


「なぜ我々ではないのか?」

「我々の国の料理も美味しいのに」

「我々の国の映画も素晴らしいのに」

「もし彼女が一度でも我々の国を振り向いてくれたら」

「もし彼女が我々の首都に降り立ち『ここにダンジョンを作ってあげる』と微笑んでくれたら」


 その「もしも(IF)」の妄想だけが、我々を支えている。

 これは信仰だ。

 ローマ教皇が彼女を「天使」と呼んだのは政治的な方便かもしれないが、心理的には正しい。

 我々は救世主を待っている。

 四カ国という「偽の預言者」ではなく、本物の神が我々の元へ降臨することを。


第5章:我々の要求――「恵み」の民主化を


 四カ国の指導者たちよ、聞け。

 あなた方は今、勝利の美酒に酔いしれているかもしれない。

 だが忘れるな。世界はあなた方だけで構成されているわけではない。

 残された95%の人類の嫉妬と絶望のマグマは、今にも臨界点を超えようとしている。


 あなた方がダンジョンで得た利益を独占し続けるなら、我々にも考えがある。

 資源の輸出停止? いや、そんなものは魔石の前では無意味だ。

 だが我々には「数」がある。

 世界中の「持たざる国」が団結し、あなた方に対するボイコット、あるいはテロリズム、そして最悪の場合、破れかぶれの戦争を仕掛ける可能性を否定できるか?

「魔法」を持ったテロリストがあなた方の国に潜伏していないと、誰が保証できる?


 そうなる前に、我々は要求する。


ダンジョン設置の即時拡大

 四カ国独占をやめろ。各大陸、各地域に公平にダンジョンを配置せよ。

 KAMIへの嘆願を独占するな。我々にもプレゼンテーションの機会を与えろ。


技術と情報の完全開示

 魔石の利用技術、オーブによるクラフト技術、そして「魔法」の習得方法。

 これらを人類共通の財産として公開せよ。特許などというケチな概念で囲い込むな。


KAMIとの直接対話チャネルの設置

 これこそが最も重要だ。

 日本政府というフィルターを通さず、我々が直接KAMIに願いを届けるための窓口を作れ。

 彼女はあなた方の所有物ではない。全人類のアイドル(偶像)だ。


結語:神よこちらを向き給え


 最後に、もしこのWeb記事が広大なネットの海を漂い、何らかの奇跡によってKAMI様、あなたの目に触れることがあるならば。

 名もなき一人のジャーナリストとして、いや、人類の多数派を代表する一人の人間として、あなたに訴えたい。


 KAMI様。

 あなたは言いました。「面白いから」と。

 今の世界は、あなたにとって面白いですか?

 四つの国だけが肥え太り、残りが痩せ細るだけのゲームは、そろそろ退屈ではありませんか?


 もっとカオスを。もっと多様性を。

 砂漠の民が魔法でオアシスを作る姿を見たくはありませんか?

 ジャングルの部族が魔導兵器で武装する姿を見たくはありませんか?

 南の島の住民が海中ダンジョンで新たな文明を築く姿を見たくはありませんか?


 我々には、あなたを楽しませるポテンシャルがある。

 四カ国の計算高い政治家たちよりも、もっと情熱的で、もっと無茶苦茶で、もっとエキサイティングな物語を、我々は提供できるはずだ。


 だからお願いです。

 その気まぐれな視線を、ほんの少しだけこちらに向けてください。

 我々にもチャンスを。我々にもツルハシを。

 そして我々にも、あなたの「祝福ダンジョン」を。


 我々は待っている。

 空に亀裂が走り、あなたの声が響くその日を。

「あら、ここにも作ってあげようかしら」という、その無邪気で、残酷で、そして何よりも慈悲深い一言を。


 世界はまだ完成していない。

 あなたのゲームは、まだ始まったばかりのはずだ。


(Global Insight 編集主幹 アルトゥール・ベネット)

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― 新着の感想 ―
やっぱりこういう回が面白い。 周囲の反応みたいなのを見るのが一番面白いんだから。 ダンジョンが強過ぎて他の要素が全部塗りつぶされちゃった感。 まあイスラム教は食料出現させられるから、そのあたりでは別に…
自分の見たい現実しか見えてなさそうな感じだなー もしくはそういうニーズに向けた記事って感じだ
中間管理職ってちょっと自由が効くけど責任がそこそこあるから上と下の板挟みでやばいんだよ?僕でもわかるよ? どんな物語でもストレスマッハの役職って描かれてるよ?モットホンヨメ? ファンタジーな世界になっ…
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