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賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい  作者: パラレル・ゲーマー


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番外編 断章6話

 フィラデルフィア旧30番通り駅(30th Street Station)。

 かつてアムトラックや通勤列車がひっきりなしに行き交った、この壮麗な石造りの駅舎は、5年間の放置によって蔦に覆われ、鳩の住処と化していた。

 だが今日、その巨大なコンコースは、かつての全盛期を凌駕する熱気と、そして異様な魔力マナの波動に包まれていた。


「……おいおい、マジかよ」


 駅のプラットホームに立ったミラーは、サングラスを外し、目の前に鎮座する「それ」を見上げて絶句していた。

 彼の背後では、武装した兵士たちや、荷役作業員として集められた市民たちが、同じように口を開けて固まっている。


 そこにいたのは列車だった。

 だがそれは、彼らが知るいかなる鉄道車両とも似ていなかった。


 先頭車両は、蒸気機関車のような無骨なシルエットを持ちながら、その表面は艶消しの黒い装甲板で覆われている。

 煙突からは煙ではなく、青白い燐光を放つ粒子が立ち上り、車体の至る所に刻まれた幾何学模様のラインが、心臓の鼓動のように明滅している。

 全長は優に500メートルを超え、貨車、客車、そして重武装された砲塔車両が連なっている。


「KAMI様……これは?」


「『魔導装甲列車マジック・アーマード・トレイン』よ」


 プラットホームのベンチで足をぶらつかせていたKAMIが、得意げに胸を張った。


「フィラデルフィアとピッツバーグ、この二大拠点を結ぶには、トラック輸送じゃ効率が悪すぎるでしょ?

 いちいちゾンビを避けてたら日が暮れちゃう。

 だから、大量の物資を一気に、安全に、そして豪快に運ぶための『動く要塞』を作ったわ」


「列車なのは分かります」


 ミラーは線路の方を見た。


「だが、肝心のレールはどうするんです?

 ここからピッツバーグまでの数百キロ、線路はズタズタだ。橋も落ちてるし、トンネルも塞がってる。

 復旧させるには、何年もかかりますよ」


「ふふん、そこがミソよ」


 KAMIは立ち上がり、列車の先頭部分を指差した。

 そこには除雪車のような巨大な排障器カウキャッチャーがついているが、そのさらに前方に、複雑なクリスタル製の装置が取り付けられていた。


「見てなさい。論より証拠よ。

 さあ、出発進行!」


 KAMIが指を鳴らすと、魔導列車が低く、腹の底に響くような唸り声を上げた。


 ブオォォォォォォォォォッ!!!


 汽笛ではない。それは、巨大な獣の咆哮のようだった。


 車輪が動き出す。

 だがその先には、錆びついてひん曲がったレールしかない。


「あぶない!」


 誰かが叫んだ瞬間――奇跡が起きた。


 先頭のクリスタル装置から、強烈な光の帯が前方の地面へと照射された。


 シュウウウウウウウッ!


 光が触れた瞬間、ひん曲がったレールが、崩れた枕木が、そして雑草に覆われた路盤が、まるでビデオの逆再生を見るかのように、瞬時に「修復」されていく。

 いや、修復ではない。「創造」だ。


 光が通った後には、真新しい銀色に輝く超硬合金のレールと、完璧に水平が保たれた路盤が生成されていたのだ。


「……なっ!?」


 列車は、自らが生み出したレールの上を滑るように加速していく。

 崩落した橋梁に差し掛かっても、光は止まらない。


 空中に光の橋が架かり、その中を鉄骨とコンクリートが瞬時に生成され、列車が通過する時には、既にそこには堅牢な橋が出来上がっていた。


「『自動敷設術式オート・レイヤー』よ」


 KAMIは、動き出した列車のデッキから、呆然とするミラーに声をかけた。


「この列車はね、走る場所を自分で『道』に変えるの。

 山があればトンネルを掘り(物質消去)、谷があれば橋を架け(物質創造)、海の上だろうが溶岩の上だろうが、レールを敷きながら突き進む。

 メンテナンスフリー、脱線知らずの夢の超特急よ!」


「……すげえ」


 ミラーは、走り去る黒い巨体を、ただ見送ることしかできなかった。


「道なき道を行くか。

 これなら、アメリカ全土を繋ぐのも夢じゃない」


 魔導列車『ブラック・アメリカ号(仮)』の処女航海は、ペンシルベニアの荒野を切り裂く稲妻のようだった。


 運転席(といっても魔力制御コンソールだが)に座るのは、KAMIによって「機関士」のスキルを与えられた元鉄道員の男だ。


「ヒャッハー! 最高だぜ! 時速200キロで廃墟を爆走できるなんてよぉ!」


 彼は、目の前のモニターに映る光景に酔いしれていた。


 窓の外には、荒廃したアメリカの田舎の風景が流れていく。

 枯れたトウモロコシ畑、無人のガソリンスタンド、そして線路上を彷徨う無数のゾンビたち。


「前方ゾンビの群れを確認! 進路を塞いでいます!」


「構わん! そのまま轢き殺せ!」


 KAMIの声が、車内放送を通じて響く。


「この列車の先頭には、防御結界と物理的な粉砕機が付いてるわ。

 ゾンビごとき、豆腐みたいなものよ。止まる必要なし!」


 ドガガガガガガガッ!!


 凄まじい衝撃音と共に、ゾンビの群れが弾け飛ぶ。

 肉片と血しぶきが舞うが、列車を包む透明なシールド(対汚染結界)がそれを弾き、車体には汚れ一つ付かない。


 かつては恐怖の対象だったゾンビの群れを、ただの障害物として粉砕しながら、列車は一直線に西を目指す。


「……快適だな」


 一等客車(KAMI専用車両)のラウンジで、ミラーは流れる景色を眺めながらコーヒーを飲んでいた。

 揺れは全くない。空調は完備され、ソファーはふかふかだ。


 ここは、地獄のような外界から完全に切り離された、走る宮殿だった。


「でしょう?」


 向かいの席でKAMIは、パンケーキを食べていた。


「それにこの列車は、ただ運ぶだけじゃないわ。

 見て、あの窓の外」


 彼女が指差した先、線路沿いの森から巨大な影が飛び出してきた。

 ミュータント化した熊、ジャイアント・グリズリーだ。


 体長5メートルはある怪物が、咆哮と共に列車に並走し、装甲板に爪を立てようとする。


「おっと、無賃乗車はお断りよ」


 KAMIが指を鳴らすと、車両の側面に設置された砲塔が自動的に旋回した。

 設置されているのは、ピッツバーグで回収したガトリングガンを魔改造した『魔導自動機銃』だ。


 ズドドドドドドドドッ!!!


 魔力を帯びた弾丸の嵐が、グリズリーを襲う。

 硬質の皮膚も筋肉も、魔法の貫通力の前には無力だった。


 数秒後、怪物は穴だらけになって転がり落ちた。


「自動防衛システム完備。

 これなら乗客は、枕を高くして眠れるでしょう?」


「完璧だ」


 ミラーは感嘆した。


「これならどんな危険地帯でも物資を運べる。

 ピッツバーグだけじゃない。ハリスバーグ、アルトゥーナ、ジョンズタウン……。

 沿線の全ての街が、この鉄路によって救われるぞ」


 ペンシルベニア州中部、アパラチア山脈の麓。

 そこには文明から取り残され、孤立無援の中で飢えと寒さに震える、小さな生存者集団が点在していた。


 彼らは電気も通信手段も失い、世界がどうなったのかも知らぬまま、ただ日々を生き延びることだけに必死だった。


 ある夜。

 山間の廃村に隠れ住んでいた家族が、奇妙な音を聞いた。


「……パパ、何か聞こえる」

「静かにしろ。ゾンビか?」

「違うわ。もっと……大きくてリズミカルな音」


 ガタンゴトン。ガタンゴトン。


 それは彼らが5年間、一度も耳にすることのなかった懐かしい響き。

 そして闇の向こうから、強烈な光が差し込んできた。


「あ、あれを見ろ!」


 森を切り裂いて現れたのは、光り輝く巨大な龍のような列車だった。

 窓からは温かい明かりが漏れ、煙突からは青い光の粒子が星屑のように舞い上がっている。


 そしてその列車は、彼らの集落のすぐ近くで、プシューッという蒸気音と共に停車した。


「……列車? どうしてこんな山奥に……」


 呆然とする彼らの前に、列車のドアが開き、武装した兵士たちが降りてきた。

 銃口は向けられていない。彼らが抱えているのは武器ではなく、コンテナだった。


「生存者はいるか! 我々はフィラデルフィアから来た救援部隊だ!」

「食料と水を持ってきた! 怪我人はいるか!」


 兵士たちの声が静寂を破る。

 隠れていた人々がおそるおそる姿を現す。


 そして差し出された温かいスープとパンを手にした瞬間、彼らは崩れ落ちた。


「……夢じゃないんだな」

「助けが来たんだ……」


 その日、魔導列車は単なる輸送手段を超えた存在となった。

 それは絶望に沈む荒野を照らす移動する灯台であり、文明の再来を告げる福音の使者だった。


 列車が通るたびに、線路沿いには新たな「線路」が敷かれていく。

 それは物理的なレールであると同時に、情報と物流のネットワークでもあった。


 停車駅となった場所には、簡易的な「駅舎ステーション」が設置された。

 そこはKAMIの力で結界が張られた安全地帯であり、物資の集積所であり、そして情報の交換所となった。


「フィラデルフィアに行けば仕事があるらしいぞ」

「ピッツバーグでは製鉄所が再稼働して、作業員を募集しているそうだ」

「金や宝石を持っていけば、なんでも交換してくれるってよ」


 噂は列車よりも速く広がっていった。


 山に隠れていた者、地下に潜っていた者、あてどなく彷徨っていた者。

 彼らは皆、その「希望の魔列車」の汽笛を道しるべに、線路沿いに集まり始めた。


 一ヶ月後。

 フィラデルフィアとピッツバーグを結ぶ「キーストーン・ライン」は、かつてない賑わいを見せていた。


 列車は毎日往復し、そのたびに満載の物資と、そして満員の「乗客」を運んでいた。


 ピッツバーグ製鉄所跡地。

 そこはもはや「跡地」ではなかった。


 溶鉱炉には再び火が入り、煙突からは(環境に配慮した魔法フィルター越しの)煙が上がっている。

 集まってきた数千人の労働者たちが24時間体制で鉄を打ち、廃材を加工し、新たな資材を生み出している。


「おい、次の列車が来るぞ! 積荷の準備はいいか!」


 リーダーのギャレットが現場で指揮を執る。


「今回は再精錬した鉄骨と、周辺から回収した銀食器のコンテナだ!

 帰りの便には、新鮮な野菜と医療キットが積まれてくるはずだ! 急げ!」


 駅のホームには、仕事を終えた労働者たちが家族を出迎えるために集まっていた。

 列車が滑り込んでくる。


 ドアが開き、フィラデルフィアから来た教師や医師、そして新たな移住者たちが降りてくる。


「パパー!」

「おお、無事だったか!」


 抱き合う家族。笑い合う友人。

 そこにはかつての日常が――少し形は違うが――確かに戻りつつあった。


 一方、フィラデルフィアの『ノアズ・シティ』。

 こちらもまた、爆発的な人口増加に対応するため、拡張工事が続いていた。


 魔列車に乗ってやってきた東海岸各地からの避難民に加え、噂を聞きつけて自力でたどり着いた人々で、人口は数万人に膨れ上がっていた。


「……すごいことになってきたな」


 ミラーは城壁の上から、果てしなく広がるテント村と建設中の恒久住宅群を見下ろした。


「まさかここまで人が集まるとは」


「当然よ」


 隣でアイスクリームを舐めているKAMIが言った。


「人間は光に集まる虫みたいなものよ。

 希望という光を見せれば、どんな暗闇からでも這い出してくるわ」


 彼女は地図アプリを開いた。

 ペンシルベニア州の地図には、フィラデルフィアとピッツバーグを結ぶ太い幹線の他にも、無数の支線が網の目のように広がっていた。


 ハリスバーグ、スクラントン、アレンタウン、エリー。

 主要な都市はすべて魔列車で結ばれ、それぞれの駅を中心に、新たなコミュニティが形成されつつある。


「ペンシルベニア州は、ほぼ制圧完了ね」


 KAMIは満足げに頷いた。


「州内の生存者の8割は、私たちのネットワークに接続されたわ。

 物流も安定したし、治安も回復傾向。

 回収された貴金属の量は……ふふふ、当初の予想の3倍よ」


 彼女の「対価」ボックスは、毎日運び込まれる宝の山で溢れかえっていた。

 人々は感謝して、喜んで、自分たちの持っていた「ガラクタ」を差し出す。

 そしてその対価として与えられる安全と食料で、明日への活力を得る。


 完璧なサイクルだった。


「だが問題もある」


 ミラーが懸念を口にした。


「人が増えれば、それだけトラブルも増える。

 特に最近増えているのが『タダ乗り』だ。

 列車を襲撃して物資を奪おうとする武装集団や、駅の周辺で強盗を働くゴロツキどもだ」


「あー、いるわよねぇ、そういう手合い」


 KAMIは目を細めた。


「せっかく線路を敷いてあげたのに、それを悪用するなんて、良い度胸だわ」


「警備隊を増員しているが、州全土をカバーするには手が足りん。

 特に山間部の死角や、廃トンネルを利用した待ち伏せが厄介だ」


「なら、列車そのものを『武器』にしましょう」


 KAMIは悪魔的なアイデアを思いついた。


「魔列車に自律型の防衛ゴーレムを搭載するわ。

 襲撃者を感知したら、即座に飛び出して排除する番犬みたいなものよ。

 ついでに線路自体にも結界を張って、許可なき者が立ち入ったら……そうね、軽く電撃でも流すようにしましょうか」


「……過激だな」


「効率的と言ってちょうだい。

 それに見せしめも必要よ。

 『希望の列車』に手を出したらどうなるか、骨の髄まで教えてあげなさい」


 その翌日から、魔列車は「走る処刑台」としての側面も併せ持つようになった。

 襲撃を試みた野盗団が、列車から射出された魔法の光弾によって消し炭にされ、あるいは線路に触れた瞬間に黒焦げになる事件が相次いだ。


 その噂は瞬く間に広まり、線路は不可侵の聖域として恐れられるようになった。


 ペンシルベニアの統一と安定。

 それは、この崩壊したアメリカにおける最初にして最大の「復興のモデルケース」となった。


 ある日の戦略会議。

 KAMIはアメリカ全土の地図をテーブルに広げた。

 ペンシルベニア州だけが明るく輝いている。その周囲は、まだ深い闇に包まれたままだ。


「さて、予行演習は終わりよ」


 KAMIは宣言した。


「ペンシルベニアは手狭になってきたわ。

 次は州境を越えるわよ」


 彼女は地図上の北と南、そして西を指差した。


「ニューヨーク、ワシントンD.C.、そしてオハイオ。

 魔列車の路線を拡張するわ。

 『ノース・イースト・ライン』と『ミッドウェスト・ライン』の建設よ」


「ニューヨーク……首都ワシントン……」


 ミラーが息を呑んだ。


「そこは人口密集地帯だ。つまり、ゾンビとミュータントの数も桁違いだぞ。

 特にニューヨークは、巨大な『巣』になっているという噂だ。

 今の戦力でそこに線路を敷くのは……」


「だからこそ、やる価値があるのよ」


 KAMIは目を輝かせた。


「大都市には、それだけ多くのお宝が眠っているわ。

 ウォール街の金庫、スミソニアン博物館のコレクション、連邦準備銀行の金塊。

 それらを回収せずして、何が『全米制覇』よ」


 彼女は立ち上がった。


「それに、そこにはまだ助けを求めている、たくさんの『労働力』がいるはずよ。

 彼らに私たちの列車の汽笛を聞かせてあげなさい。

 絶望の淵にいる彼らにとって、それは天国からの迎えに聞こえるはずよ」


「……了解だ」


 ミラーは覚悟を決めた。


「ペンシルベニアの兵士たちも経験を積んで、精鋭揃いだ。

 それにピッツバーグで作った新型の装甲車両もある。

 やれるさ。俺たちなら」


「その意気よ」


 KAMIは笑った。


「さあ、線路を伸ばしなさい。

 この大陸の果てまで。

 私の『希望の魔列車』が、アメリカを再び一つに繋ぐのよ」


 翌日。


 フィラデルフィアとピッツバーグの駅から、新たな編成の魔列車が出発した。

 その先頭車両には、巨大な衝角ラムと、強化された魔法障壁発生装置。

 そして貨車には、満載の物資と歴戦の兵士たち。


 彼らが目指すのは、州境の向こう側。

 未知なる脅威と莫大な富が眠る、深き闇の大地。


 汽笛が鳴り響く。


 ポーッ!!


 その音は、かつての大陸横断鉄道がそうであったように、フロンティアを開拓する者たちの高らかな勝利の宣言のように聞こえた。


 線路は続く。どこまでも。

 神の意志と人間の欲望が尽きるまで。

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×神の意志と人間の欲望が尽きるまで。 〇神の意志と人間と神の欲望が尽きるまで。w
番外編ほんと面白い この路線だとほかの世界でも話作れそうやね・・・シリーズ化してほしい
このストーリーは別名義で続けて欲しい、世の中数あるゾンビ物語映画や漫画や小説ふくめ途中でぶん投げてエタる作品だらけ、ブラット・ピットのワールドウォーZぐらいだよ最後まで結末がある作品は、この話しは未来…
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