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恐怖の地底に放棄された男爵令嬢ですが、冷徹辺境伯様に実力を認められ専属錬金術師として保護されました  作者: 青空あかな


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第28話:王都に行く日が来たよ

 王宮にお手紙を出して、一週間も経った頃。

 図書室で本を読んでいたら、アース様がいらっしゃった。


「フルオラ、国王陛下から返事が届いた。ぜひ王立図書館を使ってくれ、とのことだ。君にも大変に興味を抱かれている」

「ほんとですか、よかったです! 王立図書館なんて行ったことがないので楽しみです」


 良いお返事で安心すると同時に嬉しくなった。

 王立図書館もそうだけど、宮殿だって未知の領域だ。

 どんな場所なのだろうと想像するだけで楽しいね。

 アース様はやや疲れた様子で言葉を続ける。


「やはり、当日は夜会が開かれるそうだ。国王陛下直々に、熱烈な歓迎を受けてしまった。憂鬱だが仕方がない。君もそのつもりでいてくれ。王族や王都にいる貴族たちも、君の話が聞きたいと書いてあった」

「わ、わかりました。そのような華やかな会に参加するのは初めてなので緊張します」


 忘れていたけど、私はコミュ障だ。

 クラス会だの打ち上げだのは、いつも隅っこが定位置だった。

 狭いとこ大好きだから。

 ずっと錬金術の怪しげな本を読んでいた記憶しかない。

 貴族の夜会……しかも宮殿で、なんて場違いの極みだ。


「まぁ、心配要らないだろう。錬金術の話題を振られたら、嬉々として永遠に話し続ける君が容易に思い浮かぶ。ところで、ドレスの類いは持っているか?」

「ド、ドレス……?」

「さすがに、普段着で参加するのはまずいだろう。国王陛下もいらっしゃる夜会だ。それなりのドレスコードがある」


 アース様のお言葉を聞き、テンションが冷える。

 服……持ってない。

 お屋敷では、メルキュール家で着ていた数着の服を着回していた。

 クリステンさんの洗濯技術が凄すぎて、それだけで十分だったのだ。

 ファッションなんて大して興味がないし、そもそも暗黒地底は街から離れている。

 服を買いに行く時間あるかな……。


「アース様、お言葉ですがドレスの類いは持っておりません」

「なに、そうなのか? それならば、王都へ行くまでに用意する必要があるな。だが、私は女性のファッションに詳しくないし……」


 アース様が考え出したところで、スッと一人の女性が私たちの真横に現れた。


「お困りでしょうか、辺境伯様、フルオラ様」


 クリステンさんだ。

 図書室には私とアース様以外はいなかったのに、いつの間に……。


「……ずいぶんとタイミングがいいな。まるで、近くで様子を見ていたようだ」

「S級メイドでございますので」

「……そうか」


 怪訝な表情を浮かべるアース様にまったく動じず、クリステンさんは淡々と答える。

 説得力があるのだから素晴らしい。

 何はともあれ、少し相談してみよう。


「クリステンさん、この辺りでドレスを売っているお店はありますか? できれば、あまり目立たなくてドレスっぽくないドレスがいいのですが……」

「でしたら、王都で購入されるのがよろしいかと思います。ちょうど今、私の姉カリステンが王都で店を開いておりますので、お似合いになる物を見繕ってくれるでしょう」

「えっ、クリステンさんにはお姉さんがいたんですか?」

「はい。日頃から文通しております」

「へぇぇ~」


 まさか、姉妹がいらっしゃったなんて。

 クリステンさんのお姉さんに会えると思うと、王都に行くのがより楽しみになった。


「お二人のことは手紙で知らせてあるので、姉もすぐにわかることと存じます」


 その言葉に、アース様の眉がピクッと動く。


「……余計なことは書いてないだろうな?」

「もちろんでございます」


 まったく動じず、相変わらず淡々とした口調で話すクリステンさん。

 さすがはS級メイドだ。

 手紙の内容は私も気になるものの、王都には翌日向かうことに決まった。



 □□□



 翌朝、諸々の準備が終わった私とアース様は地底の前に広がる草原にいた。

 馬車で行くのかなと思っていたけど、ルーブさんが送ってくれるそうだ。

 十分エネルギーを貯めたから、少し遠くまで飛んでも問題ないとも。

 クリステンさんとワーキンさん、そしてルオちゃんが見送りに来てくれた。


「お気をつけていってらっしゃいませ」

「留守は任せとけ。気にせず楽しんでこい」

『ルオちゃん、寂寥感を覚えるも……留守番頑張る所存……』

「ありがとうございます。王様には地底の皆さんのお話もしますからね。ルオちゃんも待ってて」


 王都に行って帰るまで、およそ一週間ほどの予定だ。

 寂しいけど、しばしのお別れだから大丈夫。

 アース様はお屋敷に残るみんなに、簡単な注意事項を伝える。


「魔物を見かけても、刺激しなければ特に問題ない。放っておいてくれ。地底の迷宮に迷い、疲れ果てる個体がほとんどだからな」

「かしこまりました。見つけ次第処理いたします」

「がってんだ。魔物なんざ叩き潰してやるよ」

『ルオちゃん……地底警備承諾……』


 "大穴"からはみ出てきた魔物が悪さをしないか心配だったけど、みんなだったら問題なさそうだ。

 クリステンさんはなんだか戦闘も強そうだし、ワーキンさんは言わずもがな。

 ルオちゃんだって実は力が強いゴーレムなのだ。

 と、そこで、にまにま……という謎の音が。

 当然のように、音の正体はクリステンさん、ワーキンさん、ルーブさんのお三方だった(ルオちゃんは表情に変化なし、ぽかんとした様子)。

 アース様は不機嫌な顔でみんなを眺める。


「……なんだ?」

「『いえ、なんでも』」


 相変わらずにまにまするみんなを置いて、私とアース様はルーブさんの背中に乗る。

 ルーブさんは大きいドラゴンだけど、二人で乗るとやっぱり手狭だった。

 必然的に、アース様の背中と私の顔が触れ合う。

 手狭だから。

 鍛えられたその硬い背中に……ドキリとする私がいた。

 不意に拍動を始めた心臓を落ち着かせていると、背中の向こう側からアース様の硬い声が聞こえた。

 

「……フルオラ、もう少し距離を取りなさい」

「え……あ、いや、あいにくとスペースが……」


 アース様から離れるよう要請されるも、これ以上離れるのは難しそうだ。

 困ったな、と思っていたら、さらに前方からにまにまにま……という謎の音が。


「……ルーブ。何をにまにましている?」

『いえ、別に』

「早く飛び立ちなさい」

『素直じゃないですね』


 ルーブさんの翼が羽ばたく。

 わずか数回動いただけで、十数mも宙に浮いてしまった。

 眼下のクリステンさんたちに手を振り返していると、あっという間に見えなくなる。

 翼がはためくたび、どんどんスピードが上がった。

 す、すごい!

 もちろん空を飛ぶのは初めてで、目に映る景色全部が新しく見えた。

 顔に当たる爽やかな風や、ミニチュアみたいに見える街や森を楽しんでいたけど、徐々に気持ちが変わった。

 け、結構速いね。

 思ったより怖くて、アース様にギュッとしがみついてしまった。

 アース様が悲鳴に近い叫び声を上げる。

  

「フ、フルオラッ、手を離しなさいっ。くっつきすぎだっ」

「す、すみません、スピードが早くてっ。ルーブさん、少しスピードを落としてくれませんか?」


 必死の思いで言うと、ルーブさんはくるりと頭をこちらに向け、優しい声音で言ってくれた。


『わかりました。もっとスピードを出しましょうね』

「なんでですか!」


 怖いというのに、ルーブさんはスピードを上げる。

 アース様にしがみつく力が増す。


「フ、フルオラ! だから、そんなにしがみつくなっ!」

「ですから、スピードが……!」


 ど、どうすればいいの~。

 手を離すと落ちそうで、とてもじゃないけど離せない。

 私たちの状況はわかっているだろうに、ルーブさんはぐんぐんスピードを上げる。

 アース様に力の限りしがみつく中、私たちは王都へと向かった。

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