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裏切られた盗賊、怪盗魔王になって世界を掌握する  作者: マライヤ・ムー/今井三太郎
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44話 怪盗魔王、ドラゴンゾンビを倒す

 ンボーンのような龍と、今起き上がろうとしているドラゴンには大きな違いがある。

 ドラゴンは龍にはない長い首と巨大な翼があるが、しかし龍ほどには大きくない。

 種族によって違いはあれど、キースの目の前にいるこのドラゴンは体長15メートルほどだった。


 身体中に無数の切り傷があり、翼はもうボロボロで飛べそうにない。

 そして首から胸にかけて、大きく裂けている。

 あきらかな致命傷だ。




 ――しかしフロストドラゴンは動いていた。




 グルゥォオオオオオオオオオ!!




 怒りもあらわな雄叫び。

 大きく首をもたげ、太いしっぽをふりまわす。

 そのしっぽが門扉の上の天井にぶち当たり、崩れ落ちた。


 もう逃げ場はない。

 キースは【確信の片眼鏡】からフロストドラゴンの情報を読み取る。




 【ドラゴンゾンビ(フロストドラゴン)】




 ドラゴンは個体数が少ないので、そのアンデッド化する条件はよくわかっていない。

 倒されたドラゴンは、普通であればその場で朽ち果て、いずれチリへと還るものがほとんどだ。

 このフロストドラゴンがアンデット化した理由は、このダンジョンの冷気ゆえか、それとも――。




 グルゥォオオオオオオオオオ!!




 何か強い想いが、いちど崩れ落ちた命を現世に繋ぎ止めているのか。




『氷精ならざる者……』


「………………!」




 キースの頭の中で、低い声が響き渡った。




『氷精ならざる者より、私は守る……』




 ボロボロのドラゴンゾンビは、動きを止めてキースを見下ろしている。

 間違いない、今の声はドラゴンゾンビの思念波だ。

 高い知性を宿している――あるいは宿していたのだろうか。



「あんたの大事にしてる物はもう持ち去られた!」



 キースは叫んだ。



「俺があんたと戦う理由はない!」


『氷精ならざる者より、私は守る……!』



 その瞬間、巨大な身体からは想像もつかないスピードで、ドラゴンゾンビはキースに鋭い爪で襲いかかった。

 キースは後ろに跳躍して、危うくそれをかわす。



『私は守る……!』


「話が通じないらしいな……」



 先ほど言ったように、キースがドラゴンゾンビと戦う理由はない。

 しかし出入り口が崩落し、逃げ場がない以上、倒さないわけにはいかない。


 爪の次はしっぽの攻撃だ。

 横薙ぎの一閃を、キースは背を反らしてかわした。




 ――その背後から、突如現われた屍人(グール)の一撃が襲いかかる。




 パキィン




 キースの防御力に負け、ナイフの刃は砕け散った。

 しかしその持ち主は攻撃をやめようとはしない。

 口を大きく開き、今度は噛みつこうとしてきた。


「そいつはナイフよりは痛そうだ」


 キースはブーツのつま先で敵の――屍人(グール)のあごを蹴り上げた。

 その一撃で頸椎を破壊された屍人(グール)は、もんどり打って仰向けに倒れ、動かなくなった。




「ぅううううう……」

「ぅおおおお……」

「ぁああああ……」



 

 辺りに散乱していた男たちの死骸が、次々と起き上がる。

 キースは改めてドラゴンゾンビを見上げ、そのステータスを読み取った。




 スキル【凍える息】【屍人(グール)使役】




「そういうことか!」


 冒険者が死者を清めてくれさえいれば済んでいたことだ。

 しかし遺体をほったらかしにされたおかげで、今13体の屍人(グール)がキースを取り囲んでいる。




「死んだ人間に死んだドラゴン、囲まれてあまり良い気はしないな……まずは屍人(グール)からだ」




 キースは1体の屍人(グール)へと疾走した。

 屍人(グール)はダガーを振り上げるが、キースのスピードとは比較にならない。

 キースは素早く背後に回って、手刀で頸椎を破壊した。



 ――屍人(グール)は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。



 キースは屍人(グール)がとり落としたダガーを、地面につくまでにキャッチした。

 逆手に持ったそのままで、近づきつつあった2体の屍人(グール)の首を切断した。



 ――赤黒いねばついた血をまき散らしながら、屍人(グール)の首が宙を舞う。



 そこに再び襲いかかるドラゴンゾンビの鋭い爪。

 味方である屍人(グール)1体の頭部を破壊しながら、キースに迫る。




「………………っと!」




 キースはドラゴンゾンビのボロボロの翼に飛び乗って、それを回避した。

 屍人(グール)たちは、ドラゴンゾンビの上のキースに向かって群がってくる。

 ドラゴンゾンビはキースを振り落とそうとしっぽをめちゃくちゃに振り回し、5体の屍人(グール)を叩き潰した。




「その調子で相打ちしてもらいたいね」




 しかしそこで、ドラゴンゾンビが頭部をキースに向けた。

 ドラゴンゾンビのスキル【凍える息】……これを食らえばさすがのキースも危ない。



 

 ――しかしドラゴンゾンビは冷気を吐くことをしなかった。




 大きなあぎとを広げて噛みついてきた鼻づらを、キースは思いきり蹴り上げる。

 その勢いでバック転しながら、再び地面に降り立つ。


 残った4体の屍人(グール)が、各々の武器を手に走り寄って来るが、この数ではもう敵ではない。

 キースは次々とその首を刎ね、最後の1体の首にダガーを投擲して全滅させた。




 あとは徒手空拳での1対1だ。


 ――しかし疑問が残る。




(なぜあのとき、ドラゴンゾンビは【凍える息】を使わなかったんだ……?)




 ドラゴンゾンビの低い声が、再びキースの頭の中に響く。




『私は守る……氷精ならざる者から……』


「………………」




 ここに入ったときから、ドラゴンゾンビは部屋の一角に冷気を吐き続けていた。

 そこにあるのは、アイテムを盗み去られたあとの氷の像。

 最初はアイテムを守るための、ドラゴンとしての反射的な行動ではないかと思っていたのだが――。




「お前、アイテムが盗み去られたことを、ちゃんとわかってるんだな」




 レネーによれば、冒険者どもがいなくなった時期と、温暖化が始まった時期は一致している。

 そして冒険者どもがやったことは、氷の像が捧げ持っていたであろう、重要なアイテムを持ち去ったことだ。


 そしてこのドラゴンゾンビには、冷気を節約(・・)しなければならない理由がある。

 それはアイテムが失われたことによる温暖化に深く関係しているはずだ。




『私は守る……氷精ならざる者から……』


「……あの像を、ということか」




 ドラゴンゾンビはアイテムを守っていたのではなかった。




 ――その土台とも言える像を守っていたのだ。




『私は守る……』


「壊す気はないさ……」




 キースには、かつてメラルダから盗んだ魔法【ファイア】がある。

 氷属性であり、なおかつアンデッドのドラゴンゾンビには効果てきめんのはずだ。


 しかしここで【ファイア】を使えば、像は溶けてなくなるだろう。

 死してなお像を守ろうとするドラゴンの声は、今もキースの頭の中に響き渡っている。



「じゃあ、最後まで怪盗らしくいかせてもらうか……」




 キースは姿勢を低くして疾走すると、ドラゴンゾンビ目がけて跳躍した。

 空中で身体をひねり、右から、左からの鋭い爪をかわし、迫り来る巨大なあぎとをかすめて――。




 ――【疾盗】。




 キースはドラゴンゾンビの背後に着地した。

 その手に握られているのは凍てついた巨大な骨、古い傷口から盗み取ったドラゴンゾンビの“頸椎”だ。




 グルゥォオオオオオオオオオ……




 部屋を震わす雄叫びを上げて、ドラゴンゾンビはその場に崩れ落ちた。

 アンデッドであるドラゴンゾンビの弱点は、やはり屍人(グール)と同じだった。




『私は……守る……』


「………………!」




 ドラゴンゾンビの声が響いた瞬間、キースの頭の中に、真っ白な風景が飛び込んできた。

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表紙
― 新着の感想 ―
[気になる点] グール使役を盗めば楽じゃない?
[一言] トイレで書けばトイレに行く必要ないな…!
[気になる点] 怪盗=神出鬼没で手口が鮮やかな盗人のこと指すので 割と強引に奪ってるから強盗魔王では?
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