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モテる幼馴染みをもった私の苦労  作者: 桜月


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34/53

自由。または未来

タイトル詐称疑惑から終わる終わる詐欺に発展しそうな今日この頃(笑)

 これはいらないかもしれないけど、後日談を少し。



 新生徒会は正しく機能している。おバカ共の後始末もいつの間にか終わっていた。素晴らすぃー。しぃちゃんは生徒会に誘われたーーあれはもはや拉致の勢いだよーーが、やんわりとお断りしていた。あれだ、エサにするつもりを隠さず私を勧誘するあたり、しぃちゃんのことを理解しているのはわかるんだが、まず私が頷くわけないことを知れ。読書の時間が無くなるだろうが!


 例の旧生徒会役員(おバカ共)は、転校も退学も許されず肩身の狭い思いをしながらも、総スルーされている。哀れ。一応婚約はそのままらしい、若気の至りでは済まないがそこまですることでもなかろうと。お相手のお情けが多分に含まれてる感が満載な処置である。後々ネチネチやれるネタを提供してくれてありがとう、とどこぞのお嬢さま方に礼を言われた。誰?


 女王はやっぱり幼児退行していた。治るというか治すつもりはないと北川父は言った。ここから新しくやり直せばいいから、と。多分みんなも思ったはず、これ以外女王の矯正の道はないのだ。


 北川父は倉吉家から離れて家族3人でーーかなりぶっ飛んだ女王の母も矯正対象らしいーー謝罪をしながら前に進むそうだ。仕事は研究職らしいので、うちの父の会社の社長が在宅ワークで雇ったとのこと。抜かりないな、社長。


 実は、女王に逆断罪する前に北川父には会って話をしていた。だからこそあのタイミングでの登場だったわけなんだけど。

 北川父は、子供だからとバカにするでも煙に巻くでもなく、私達の途方もない話に真摯に向き合ってくれた。


 女王のこと、女王の母のこと。女王が北川父の子供じゃないことも、その時聞いた。本当の父があの倉吉理事だと言うことも。正直衝撃が大きくてどうしようかと思ったけど、それは私だけじゃなかった。しぃちゃんも珍しく動揺してたもんね。


 そんな北川父は、実の子供じゃなくても女王を娘として育てると決めたそうだ。自分には子供はできないから、と。そこには確かに愛情が存在していたと思う。思いたい。


 私達がしたことといえば、北川父の協力をもらって倉吉理事の醜聞をネットに流し、警察に情報をリーク。この辺は父達大人を頼った。この間に生徒会リコールを押し進め、新たな役員を擁立。同時に文化祭実行委員会役員をこちらに取り込み、逆断罪の場を確保。くらいかな。


 他人にやったことは自分に返ってくるんだよ、とそれだけわかってくれれば御の字だった。結果は散々たるものだったけど。かなり大事にもなったけど。

 ま、役立たずな後悔なんておいといた方が精神的によさそうだけどね。


「……で? 君はなぜそんなことを私に言いにきたのかな?」

「……言い足りないから?」


 なにを? とは聞かれない。さすがにわかってるよね。

 拘置所の面会所。ガラス越しに見る限り、穏やかな表情は変わらない。

 私が思ってたより余罪があったらしい彼は、少しくたびれていたけど元気そうだ。なら、容赦はいらないなっ。


「北川真理亜さん」

「っ!?」


 あら、ステキな反応ですこと。

 そう、北川真理亜は女王の母で、彼の血の繋がらない姉。そして、彼が愛する人。らしい。全ての発端であり元凶であり原因であるのに、なにも知らない人。


「私から行ったんじゃないですよ? 向こうから来たんです」

「真理亜がなぜ、」

「逆恨み。娘に旦那さん取られたとかって」


 女王も電波だったけど、母親もすごかった。

 彼女は女王を愛してるわけじゃなさそうだ。彼女の愛は旦那さんである北川父のみに向かってる。その愛しの旦那の意識は娘に向いてる。見事な親子の三角形、笑えない。


「女王もそうだったけど、母親もお花畑でキャッキャウフフしてる系の電波ですね。ああいうのが好みですか?」


 どう考えてもこの人があの二人をつくったとしか思えない。北川父もそんなこと言ってたし。


「片想い長いですね。てか、あなたにとって女王は身代わりでしたか」

「……なんのことかな」

「たとえば、いくら小さな生き物だって、素足で踏むのは躊躇うじゃない? けど、靴をはいてしまえば気づかない。あなたがしたのは、女王にさせたのはそういうことじゃないの?」


 自分は悪くない、悪いのは相手だと思い込むのは勝手だけど、そんな免罪符持たせたら暴走するのもわかるよね。


「なにをしてもそれは正しいと肯定しかされなければ、悪いことを悪いと知ることができなければ、決して自分が悪いと認めることはできない」


 女王はそうして電波に認定されたわけだけど、そう育てられたある意味サラブレッドだ。被害者と言えなくもないけど、加害者でもある。自分の意思を置き去りにされた、され続けた人生は、知らなければ幸せだったかもしれない。けど、知ってしまったら考えも変わる。


 許せないのは変わらない。それで私がされたことが消えるわけじゃない、むしろどこに怒りをぶつければいいのか憤りは増すばかりだ。


「あなたは一人の人生を簡単に狂わせた。巻き込まれて被害を受けた人達の心に傷をつけた。……ほんとはなにがしたかったの?」


 頭のいいこの人のことだ。こうなることは予測済だったはず。じゃなきゃ、奥さんと子供と会社に迷惑がかからないように根回ししとくことはできない。今のこれをわかっていたからこそできることに、奥さんは苦笑していた。


「子供のことは心配いらないと奥さんからです。女王の母を引き取りに来たときにお会いました」


 いやー、できた人でしたよ? 隣が女王の母だから余計そう見えたのかもだとしてもね。あの奥さんに育てられるなら子供は大丈夫だろうと確信できるくらい、いい対応の仕方だった。


 その女王の母は、迎えに来たのが奥さんだと知ると、途端に不機嫌になった。北川父がくると思ってたらしい。アホらし、女王があの状態なのに一人置いてくるわけないじゃん。てか、どこまで自分至上主義なんだ。


 あの人は、今度こそ父として女王を守ろうとしてるのに。実の母であることすら厭わしいらしい彼女は、実の娘に嫉妬していることも無問題(モーマンタイ)のようで、かなり中身が子供のままだ。


 だから、だろうか。


 だから、あんなことをしたのだろうか。


 それがどこから見ても、誰の目から見ても、おかしいと(いびつ)だと気づくのに。彼女だけが気づかない。


「もう2度と会うこともないので、最後に一言」


 立ち上がって、彼を眺める。不思議そうな表情にとびきりの爆弾を投下。


「北川真理亜さん。妊娠なさったそうですよ」


 では、ごきげんよう。呟きは彼に届いたろうか。目を見開いて驚いた顔を見ながらドアを閉めた。


 倉吉元理事は知ることはできない。

 北川真理亜が娘に嫉妬して起こした全てを。



そういや、この人がラスボスだったよな。と。

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