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22.「ああいうことをさらっとやるから、僕はレイラが大好きなんだよ」


 ニコラ・ル・ロッシェ。ハロニア王国の第一王子。まだ立太子はしていないものの、次期国王に一番近いとされる人物だ。性格は残虐非道。目的のためにならば何を犠牲にしても構わないという考えの持ち主で、平和ボケをしている国と国民のために戦争を起こした方がいいと本気で思っている性格破綻者だ。

 ゲームでニコラは、ロマンのラスボスとして登場する。

 実は、ロマンの兄である第二王子ファブリス・ド・ロッシェは、ニコラの策略により殺されており、ロマンはそれからずっとニコラのことを恨んでいたのだ。国民のためにも、ニコラよりも自分が王になる方がマシだと考えており、ロマンは反逆の機会を虎視眈々と狙っているのである。

 そんな復讐の炎に燃えるロマンを癒やすのがミアである。彼女は復讐にとらわれているロマンの心を救い、最後には二人でニコラの策略を打ち破る。そして、王位を継ぐことになったロマンとミアは一生を添い遂げるのだ。

 文句なしのハッピーエンド。文句なしのメインルートである。


 ロマンは足を組み替えながら、更に続ける。


「先ほど私は、シモンたちが飲んでしまった魔法薬のことを『とても珍しいもの』と説明したけど、正確に言うなら、あれは王家が管理している魔法薬なんだ。だから、あの魔法薬をどうこうできるのは、王家の人間以外あり得ない」

「ニコラ殿下は、なんのために……」

「それは私にもわからない。使われていた魔法薬の配合と量からして、何か実験をしていたのかもしれないとは思っているんだけどね」


 実験と聞いて、なんだか背筋が寒くなる。ニコラは生徒を使って一体何の実験していたというのだろうか。


(ロマンルートでは、こんな話存在しなかったわよね。ニコラはなんで……って、あれ?)


 レイラが首をひねってしまったのは、わずかに違和感を感じてしまったからだ。なんだか妙に引っかかる気がする。同じような展開をレイラはどこかで見たことがあるような気がするのだ。


(でも、誰のルートだろう。どこの話? サブイベントでこんな話ってあったっけ?)


 レイラがそんな風に頭を悩ませている間にも、ロマンの話はどんどん進んでいく。


「私は、この事件を好機とみているんだ。ニコラを王位継承戦から蹴落とすのに、またとない好機だとね。君たちだって、少しはニコラの噂を耳にしたことがあるだろう?」


 聞いたことがないといえば嘘になる。特に第二王子であるファブリスを無実の罪で殺したという噂はレイラの耳にも届くぐらい有名だし、それ以外にも彼には恐ろしい噂が絶えない。ただ、現国王がニコラを認めていることと、強き王を求める声が大きいので、彼は未だに王位継承権第一位に居座り続いているのだ。


「ニコラの手で王家が管理している魔法薬が持ち出された。しかも学園で使われた。となれば、ニコラを次期国王にと推している人間も、今後は推しにくくなるだろう? そのためにはこの学園にいる実行犯を見つけて、ニコラに自分がやったことを認めさせる必要がある」

「実行犯は良いとして、ニコラ殿下はそう簡単に自分のやったことを認めるでしょうか?」

「そう、それが問題なんだよ。正直実行犯の方は虱潰しに探せばいつか見つかるとは思うんだ。だけど実行犯が見つかったからと言ってニコラが自分の非を認めるはずがない。だからアルの力を借りたいんだ。君ならニコラに自分の罪を認めさせることが出来るんじゃないか? ほら、闇属性の魔法は、僕らが確認していないものも多いじゃないか」

「闇属性の魔法は、そこまで万能じゃない」

「わかっているよ。その上で聞いてるんだ」


 アルベールは逡巡した後、こう口を開く。


「相手を傷つけても良いのなら、いくらでも認めさせることが出来る。だけど、そうもいかないんだろう?」

「まぁ、相手は王位継承権第一位の人間だからね。君が傷つけると国際問題だし、僕が傷つけると反逆か謀反って扱いになるだろうね。それに、本人に魔法を使った痕跡が残ってもアウトだ」

「それなら無理だ」

「本当に?」

「少なくともいまは思いつかない」

「そうか。それなら、仕方がないな」


 本当に諦めているかよくわからない調子でロマンはそう言って、前のめりになっていた身体をソファーの背もたれに預けた。


「それなら、目的の二つ目だ。アル、私と友人になってくれないか?」

「は?」

「友人。出来れば、何があっても私を裏切らない友人になってほしいんだ。それこそ親友のような、ね?」

「つまり、お前のカードになれってことか……」


 アルベールの低い声に、ロマンは「そういうことだね」と事もなげに頷いてみせる。


「私が王位を取るためにはニコラを蹴落とすだけではダメだ。実力も権力も人脈もある、仲間がいる」

「仲間、ね」

「セレラーナで人間兵器と恐れられる君と仲が良いっていうのは、それだけで価値があることだろう? その上で、僕らが協力して今回のことを解決したという事実があったら、なおいいよね」

「……くだらない」


 アルベールはそう言って立ち上がり、「行こう」とレイラにも声をかけてきた。レイラは一度思考を止め、促されるままに立ち上がる。そして、ロマンに頭を下げた。隣を見ればもうアルベールは扉の方に歩き出しており、レイラは彼の背中を駆け足で追った。


「レイラ!」


 アルベールの手が扉にかかる直前、ロマンにそう呼び止められた。レイラは振り返る。


「君がアルの飼い主なんだろ?」

「はい?」

「私もきいてるよ。『猛獣使い』の噂。飼い主なら、彼がちゃんと正しい方を選べるように指導してやってね?」

「えっと……」

「今回のこと、特に僕の友人になることについては、アルにとっても悪い話じゃないと思うんだけど」

(猛獣使い、とか。飼い主、とか。指導、とか……)


 ソファーに座ったまま余裕の表情でそう言うロマンに、一拍置いて、なんだか胸がムカムカしてくる。不快感、というのが一番正しいのだろうか。先ほどからのロマンの言動が頭の中を巡り、遅れて頭が熱くなってくる。

 気がつけばその不快感が口から飛び出していた。


「アルは、動物じゃないです!」

「え?」

「あと、兵器でもないです! カードでもないです!」


 アルベールは驚いた表情で「レイラ?」とこちらを見下ろしてくる。


「確かに、ちょっと犬っぽいときもありますけど、それはそれというか! ……だからそんな風に言わないでください。アルが可哀想です!」


 そこまで言い切ってハッとした。自分は何て事を言ってしまったのだろう、と。相手は自国の王族な上にメイン攻略対象で、こっちは没落寸前のモブだ。自分はそんなことを言って良い立場ではない。しかも、アルベールだってレイラに庇われて嬉しいかどうかわからない。

 改めて正面を見れば、ロマンは驚いた顔でこちらを見つめていた。その表情にレイラの顔色はますます悪くなる。


「し、失礼します!」


 あまりの居たたまれなさに、レイラは頭を深々と下げた後、扉に手をかけてアルベールより先に部屋から飛び出すのだった。



「ごめんね、レイラ」


 アルベールがそんな落ちこんだような声を出したのは、サロンを出て暫く経ってからだった。王族専用のサロンへ続く廊下だからか、そこにはレイラとアルベール以外の人影は見られない。思いも寄らぬ言葉にレイラは「え。なにが?」と隣にいるアルベールを見上げた。


「僕のせいで、変なことに巻き込んだ」

「巻き込んだ?」


 何を言っているのかわからないレイラは目を瞬かせる。すると、アルベールは人差し指を立てて、まるで子供に説明するような口調になる。


「レイラは今、僕と一緒にロマンの話を聞いたよね?」

「うん」

「それは、ロマンは今回起こった暴走の件を利用して、ニコラを次期国王の座から落とそうとしているって話だったよね?」

「そうだね」

「現在の王位継承権はニコラが一位で、ロマンが二位。ハロニアの国王は今のところニコラに王位を継がせる気でいる」

「らしいね」

「つまり僕らが聞いた話は、ハロニア国王の意に介するものではないことは確かだよね?」

「あ……」


 ようやくアルベールが何を言いたいのか理解したレイラは、足を止めて頬を引きつらせる。

 ハロニア国王が望まない王位継承戦の片棒を担いでしまったかもしれないと、アルベールは言っているのだ。


「ああいうのは聞いた時点で日和見が出来なくなるやつだからね。つく方を間違えないようにしないと……」

「間違えたらどうなるの?」

「例えば僕らがロマンについたとして、ニコラが王位を継いじゃったら、ニコラは僕らのことをなんとしても排除しようとするだろうね」

「排除……」

「そうじゃなくても、ロマンについたということが明るみになった時点で、ニコラの性格上僕らのことを許さないだろうね」

「……」


 この世界でのニコラのことは知らないが、ゲームでのニコラはかなり残虐非道な描かれ方をしていた。そもそも彼は、自分の弟でありロマンの兄であるファブリスを殺しているし、大臣だろうが側近だろうが、それが気に入らない人間ならば、ありもしない罪を着せて殺してしまうという噂も聞く。

 そんな彼に狙われたらと思うと、一気に顔から血の気がひいた。

 怯えているのが伝わったのだろう、アルベールはいつの間にか握り締めていたレイラの手をそっと包み込んだ。


「大丈夫。何があっても守るから」

「わ、私だって、がんばってアルのこと守るね!」

「さっきみたいに?」

「さっき?」


 さっきが何を指すのかわからずレイラが首を捻ると、アルベールは包んでいたレイラの手をそっと口元に近づけた。


「ああいうことをさらっとやるから、僕はレイラが大好きなんだよ」

「アルが何を言ってるかわからない……」

「良いんだよ。わからなくて」


 そう言って彼は嬉しそうに笑う。何が何だかよくわからないレイラは再び首を捻るが、(まぁ、アルが幸せそうだから良いか……)と考えることを放棄した。


(それにしても、何か忘れている気がするんだけど、なんだったかなぁ……)


 レイラの胸にはなんだか嫌な予感が渦巻いていた。


面白かった時のみで構いませんので、評価やブクマ等していただけると、

今後の更新の励みになります。

どうぞよろしくお願いします!

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