03電話を繋げたままだったから親も暴言を全て聞いていたらしい
番を冷遇するブームでも起こっているのかと思っていたから。そうではなくて安堵。
ツガイのことをさらに勉強していたから、なぜ男が無理にでも己を連れてきたのかは薄く察している。
「番同士の相性がいいと、治りが早いんですよね?」
試しに聞いてみると、男女は困ったように見てくる。御伽話レベルの眉唾ですけどね?と苦笑される。
「確かに眉唾らしいですね。だけど、本当らしいです」
「魔法ではなく、ですか?」
二人が己に聞いてくる。気になるのは当然。子供の頃から皆は寝る時の定番に番同士が結ばれることに憧れを抱く話を聞かされているから。
おまけに治りが早い云々の話も、フレージュの知識からすると不思議ではない。
「好きな人に触れたり、日々幸福を感じると脳が幸せを感じて、痛みを和らげたり……治り、治癒力を底上げすることができますから」
こういう話は前の世界でも割と有名なのだが、この世界ではさらに番という存在がいて不思議な繋がりを持っている。治癒の仕方が通常よりも体感しやすいのは納得できた。
「そんな話は初耳なのですが」
首を傾げる二人にそうだろうなと笑う。知らなくても支障はない。こちらの番が自分を連れてきたのはおそらく、治癒の促進、両親へのカモフラージュ、トラブル回避。それらだ。
トラブル回避は、恋人がいるので結ばれることはできないと周りに納得してもらう手間を省きたかったのだと思われる。それと、恋人との恋のスパイス代わり。
きっと彼らは「あんなやつ好きにならない」「絶対に?」「ああ、君を愛しているからね」「つがいの女にも言ってね」なんてことを言い合うため。
恋人の女と出会ったので多分、今頃「あなたの番と出会ったわ」「そうなのかい?酷いことは言われなかった?」「挨拶をしたのに無視されたの」「なんだって?失礼なやつだ。婚約してやったのに」とか言ってそう。
想像じゃないだろう。確実に二人期だけの時は自分の悪口大会で盛り上がってそうだし。
イラっとして仕方ない。二人して絶対になにか言ってる。愛してるのは君だけとか。番だからと好きにならないよとか、言ってそう。いや、それなら逆も言える。自分も確実に好きになっていくかは未知数なわけで。
ここにきて早々に言われていたことを思い出し、それも文字に来て書き記す。詳細に。鮮明に。
そのときの彼の態度も。親に知られたくないだろうと言う脅しも。書き終えて二人はそれを読むと悪質だと話し合っている。
それもそうだろう。ツガイのことを知る人も含めて、ツガイの要素がなくても普通に当てはめたって、詐欺だ。
完全に当てはまるやり方だ。
結婚詐欺なんて話ではない。完璧に騙して連れてきているから。
あの人となんて暮らさない。話したくないけど裁判を考えると話さなくてはならないけど。憂鬱な気持ちで落ち込んでいると魔法連絡用の機器から音が聞こえる。
ちょっとすみませんと、一言言い電話に出る。画面を広げて顔が良く見えるようにすると、相手はよかったと笑みを浮かべて生きているかしら?と聞いてくる。
母や、いきなりどうした?となる。生存はしているよ?
首を傾げていると母はため息を吐く。
『あなた、つがいの男の家での会話の前に私と通話してたでしょ?切り忘れてたから全部筒抜けになってて、全て聞いたのよ』
「え?通話?切った、はずなんだけど……あ、確かに途中で呼ばれてちょっと待機しといてって、切らずに話が終わったら話の続きしようとしたから、会話まだ終わってなかったし切ってない!」
そうだそうだ。ツガイ男の家についた報告も兼ねて電話していたんだった。あまりにも飛び抜けたことを言われて前後の記憶が曖昧になってたな。
弁護士事務所に入ったから一旦切ったけど、またかけたのと言われる。
なるほど。着信履歴を見ると会話時間が二時間以上だ。あの時、こんなに会話していないので、母が会話を聞いていたのは本当らしい。
「そうなんだ」
『そうなんだって、言ってる場合じゃないわよ』
「だから、弁護士に相談したんだよ」
『私たちもそっちに行くわ』
「遠いからやめといたら?どうせ来てもクズな言葉聞かされるだけでしょ」
『私たちも署名したんだもの。責任はあるの』
確かに関係者なので無関係ではいられまい。両親もこちらにくると言って聞かない。
「わかった。距離についてはわたしがやるから、まだなにもしないで」
フレージュは男に会う前はただの街娘に思われたまま、嫁に行こうかと思っていたのを諦める。
本当は現代知識により赤ん坊から鍛えた、底力の魔力と魔法陣の書き換えによる長距離の移動を可能にしていた。
つまり、誰にも知られてないけれど強いということなのだ。
両親だけはふわっと知っている。遠い地のお土産を渡したりしていたので。なんとなくそうなのだろうと察している。言語化してこなかったけれど案の定。
『そう。わかったわ。すぐに帰ってきなさい、一度』
「うん」
やはり、遠い土地で使うニュアンスではない言葉を母は使用する。遠距離の移動ができる魔法を使えると確信していた。今は周りに人がいるので、具体的なことは控えてくれているが。
馬車なんか使わないので慣れない土地に慣れない馬車できた疲れを労ることなく、番だけど恋人がいるから隠れ蓑になれと言われてキレたわけであった。
もう少し時間を置いてはくれまいか?といいたくなった。せめて、人として長旅をした人間に気を使う心くらいは持ち合わせておくべき。
婚約者としてではなく、人として最低限の気遣いはあってしかるべき。愛する女としてではなく契約者として扱うことだってできたのに。彼はフレージュを自分に都合よく動くお人形を望んだのだ。
転移で向こうにまず帰って弁護士たちが準備をしていってからこちらに行くことにしよう。親もここにくるまでの時間を家にのんびりさせて、到達する日にここにこればいいのだ。連絡魔法を切るとぽかんとした二人が居た。
「い、今のは、な、なんですか?」
「ああ、今のは……?」
「私のオリジナル魔法です。特許登録はしてますけど、今のところやれる人は家族くらいですね」
フレージュが連絡をできるのは当たり前として、家族ができるのはフレージュが魔力を馴染ませたからだ。赤ん坊からフレージュの魔力を親たちに親和させていって連絡魔法を繋げやすくして、扱いやすくしたのだ。
ズルなんてしてないし。便利だけど使える人が今のところ限られている。そういえばつがいの男はそういうことも、まだ知らないままだったのか。それが功をなしたな。
あの不誠実な嘘つきはこちらのことなど何一つ知らない。そういえば全然好みとか聞かれなかった。




