02うわぁ、番の本命の恋人が初対面なのにマウントしてくる
よくよく考えたら初対面なのに急に自己紹介もなく、話しかけてくる人なので本来なら不審者として通報されるような相手になる。
会ったこともない女があそこまでマウントを取ろうとするなんて、性格が終わってるな。使い捨てのコップを兼用している気分。
そんな相手を、番でもないのに選択してしまうのが自分の番となるわけで、見る目がないのは彼も同じ。節穴よりも酷い。気持ち悪くて胸がムカムカしてきた。
番結婚を脅しに使うなんて脅迫なので然るべき機関に訴えねばならないなと、行動チャートを頭に浮かべる。
フレージュは言わずともわかるかも知れないが、転生者であるので切り替えが早い。
フレージュは早速今回のことを弁護士に相談しに行く。その次に両親に騙されていた、詐欺行為をされたということを余すことなく教える。それはもう容赦なく。
当たり前だろう。許せるわけがない。許してはいけない。女として、人としてのプライドだ。絶対に、なにがあっても負けやしないと意気込む。
番専門の弁護士と番を管轄する市役所へ向かう。相手は馬車などという気遣いをするとは思えないので徒歩。なんというか、原始的だ。
ため息を吐きつつ、遠くなる屋敷を足早に去る。
部署に告げておけば、不道徳な男のところで番同士の痴話喧嘩だと、言い逃れられて連れ戻されることもない。
弁護士事務所を探し、弁護士へ話を通す。信じてもらえないかもしれないと不安もある。取り敢えず順序立てて語ることにした。
そうすると、相手はよく耐えましたねと励ましてくれ、涙腺が途端にグッと緩む。ここまで行ってくれるなんて、相談してよかった。
ツガイ専門の弁護士を知っているのでそっちを紹介すると言われた。どちらでも良い。
「本当に大変でしたね」
「はい……他にも私みたいな人っているのでしょうか」
「うーん。いると言って安心させてあげたいのは山々なのですけれど……聞いたことは、私はないですね。専門の方はなにか知っておられるかと」
そうなのか、と頷く。少ししてからやってきたのは優しげな人。一番初めの弁護士は女性だったけれど、今回の人は男性だ。よかったよかったと安堵。
弁護士の先生が経緯やあらましを説明してくれたのか、スムーズに話しが進む。
明日はこの事務所ではなく、彼の事務所へ行くことになる。
「で、先生、えっと、こういうことはあるのでしょうか?」
「それは……」
腕を組み、唸る。唸る相手に見つめ続けると眉根を下げて困った顔をされる。
「いろんな番の案件をやってきましたが……」
「来ましたが?」
勿体ぶるのか、ユーモアのある人のなのか?
「うーん。ほとんどないです」
「ない、ですか?私もっとたくさん、ああいう人が世に溢れているのかと思ってました」
首を思わず傾げてしまう。だって、そうでもないと、フレージュはこの世で最悪な相手が番だったことになる。
「いえ、それが……こういうパターンに多いのは……なりすましなんですよ」
「へ、なりすまし?」
説明された内容を聞くに、相手の女、男、つまり浮気相手が番に似た衝動を起こすものを所持しており。番ではないけれど、番よりも依存性が強いので番が現れてもコロッとならないとのこと。
でも、例えそうだったとしても濃厚接触をすでにしていそうな男を、今更返品されても嬉しくない。どれだけ騙された被害者でもなぁ?
被害者度合いを見ると、フレージュの方が遥かに強い。
無理、触りたくないし近寄りたくない。仮に無理なら連れてこなきゃいいのに、両親が連れてこいと言ったからなんて理由でこっちの人生を差し出すことは別なのだ。
恋人がいいなら一貫して選べばいいのに。挙げ句の果てにうちの両親が悲しむからと脅したのだあの男は。番だとわかってて。悪質極まりない。
弁護士は調査から始めることになるというので、今は取り敢えず手紙を親に書くことを勧められる。
自分もやるつもりだったが、情報の洪水に飲まれて疲れた。少しでも番から離れたかった。それに、番だという意識がないのだ。
これは、人によって個人差がある。学校でも習ったので知っていたけれど、相手も薄いからこそ、こんなことになっているのだ。
あればあるで大変らしいが、ないとないでこんなふうにドタバタしなければならなくなるなんて。最低な出会いだ。
こんなことになるんならば、会うなんて初めからなかったことにしたい。
「なりすましの可能性もありますので、それを加味してやっていきます。もし、詐欺をされていたら、元の関係に戻る気はありますか?」
内容に息を呑む。それが事実の場合彼は被害者になる。けれど、それでもフレージュは首を横に振った。
恋人でもない。異邦人だ。ここは他国。頼れる人なんていないなら、探すしかない。そうなることも込みだったのかも?
親しい者がいない女一人孤独に苛まれるからこそ操ることは容易いと。
考え方はゲスいし、普通はそんなのありえないと思うことでも、わかっていて連れてきている時点でなにを考えていても変ではない。
騙して連れてくるような人だから。なにをやってもおかしくない思考を披露しているのだ。遠い地に連れてこれば言うことを聞くとでも思っていそう。
少なくとも、思うように動くことを期待されてはいた。両親を裏切りたくはないだろう?なんて言って誘導しようとしていた。
そんな安っぽい把握や心理覇権に引っかかる己ではない。バカにしすぎている。幼児でもあるまいし。こっちはいい大人なんだから無理にも程がある。
ああ、もしかしてつがいの衝動に期待していた可能性もあるなと、思い出す。
好きなんじゃないのか?とか聞いてきたし。
え?自分は好きじゃないのに?と思ったけど。
「なりすましでも、絶対に無理です。他人のおふ、いや、他人のあか、あー、とにかく、蔑まれた言動の数々はなりすましでも許されることではないので」
色々言いつつも、自分の言うことを聞けという終始上から目線の性格は生理的に無理なのである。
相性は終わってるから、騙されていたとしてもあの性格がなかったことにならない。
どう見繕おうと、なにか理由があっても元に戻す気は一切ないな。
あれが自分に好意を持っていれる相手に取る態度となれば、二度と関わり合いたくないナルシスト。
「あの人、私に婚約してしまえば逃げられない。婚約はなくさないからって経済的、精神的な支配を企んでました。悪質です。番を利用して無関係な私を巻き込んで。私が不幸になっても構わないと思ってると意思表示してきました」
言わない道もあったはず。言わない方がずっとやりやすい。しかし、言ったのだ。なぜ言ったのかはわからないけれど、見下していたのなら言うのだろう。
婚約するまで本性を隠して、バカにしていたに違いない。
「それは、酷い……」
弁護士二人が顔をしかめる。他国にまできてくれた番をわざわざ苦しめる必要はどこにもないのに。
二人にもすでに番はいて、今は妻となっているらしい。羨ましくもあり微笑ましさにホッとなる。




