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第72話 兄さん


 俺が目を覚ましたということに気づいたのか、ニーナはすぐさまそのナイフを俺の首辺りに振り下ろしてきた。


「――くっ!」


 反射的に腕を交差するように前に出す。

 振り下ろされてナイフは――俺の首ギリギリで、刺さることなく止まった。


 交差した腕が、ニーナの手首へと当たり抑えることに成功した。


 一瞬、俺とニーナの腕が重なった形で硬直状態になった。


 しかしすぐに俺の方が力が強いので、俺が押し返し始める。


「うっ……!」


 同時に上体も起こしていくと、腹の上に乗っかっていたニーナは体勢を崩す。

 俺はそこで抑えていた手首を取るように、自分の手首を返す。


 そうすると簡単にニーナが持っていたナイフを奪うことに成功する。


「わっ!」


 俺が無理やりナイフを奪ったことにより、ニーナの体勢が思い切り崩れてベッドから落ちて倒れる。


 すぐさま体勢を直そうと起き上がろうとしていたが、後ろから首に刀を添えられて動きを止める。


「動くな。動いたら首を飛ばす」


 ニーナの後ろにはリベルトさんがいた。

 どうやらニーナの殺気を感じて起きたようだ。


「大丈夫かエリック」

「はい、どうにか」


 ナイフを片手に持ちながら俺は答える。

 もう少し刀身が長かったら刺さっていたかもしれない、危なかった。


「何の真似だ、とは聞かなくてもいいか。どうせフェリクスの仇だろうからな」


 刀をニーナの首元に添えたまま話すリベルトさん。

 ニーナの顔を見ると、特に焦った様子もなく無感情のような顔だった。

 いや、もうすでに諦めているような顔かもしれない。

 虚ろな目で俺の顔を見つめている。


「……兄さんは、強かった。だからその兄さんを殺した奴を殺すには、夜討ちしかなかった」

「そうか、まあそれも失敗で終わったな」

「あたしが弱かった。何も言うことはないわ。殺しなさい」


 目を瞑り、その首に刃が下されるのを待つ体勢を取る。


「そうか、じゃあな」


 リベルトさんは首に添えた刀を一度振り上げた。


「待ってくださいリベルトさん」


 俺は振り下ろそうとしていた刀を止める。

 刀を振り上げた状態で止まったリベルトさんは俺の方を見て、刀を鞘に戻す。


「まあ、お前に任せるわ。こいつももう殺す気はなさそうだし。俺は寝る」

「ありがとうございます」


 あくびをしながら、刀をベッドの横に置いて眠りについた。

 めんどくさいというのもあったと思うが、全部俺に任せてくれたリベルトさんに感謝しないとな。


「ニーナ、逆らわずについてきてくれるか?」


 俺がそう問いかけると小さく頷いた。

 ここで話を続けると確実に皆の眠りを妨げることになるので、外に出る。

 ニーナは特に何もせずに俺に続いて外に出てくれた。


 家の裏のところでニーナと話す。

 今日はとても良く月明かりが出ているので、ニーナの顔がよく見える。


「そういえば名前を言ってなかったな。エリック・アウリンだ」


 俺の自己紹介に何も反応を示さない。


「ニーナは剣とかナイフは使えないんだろ? 何でさっきはナイフで襲ってきたんだ?」


 ナイフを振り下ろしてきて抑えた時、簡単にナイフを奪うことができた。

 扱いが慣れているものだったらもう少し手応えがあるはずだが、ニーナにはそれがなかった。


「あたしは、ナイフより殺傷能力が高い魔法を使えないわ」

「えっ、守護魔法は難しい魔法なんだろ? それなら……」


 難しい魔法は魔力操作が難しいのが一番だが、やはり魔力量が物を言う。

 しかもこの集落を丸々囲めるほどの大きさを展開できるなら、相当な魔力量だ。


 そんな魔力量があれば簡単に人を殺せる魔法を使えそうだが。


「あたし、守護魔法以外は生活魔法くらいしか使えないのよ」

「そうなのか?」

「風魔法も少し使えるけど、風を起こせるだけ。風の刃なんてあたしには出来ない技よ」


 なんか凄い偏ってるんだな。

 防御の魔法は最高峰のを持っているのに、攻撃魔法は全く出来ないのか。


「だけどやっぱり無理だったわね。使い慣れてないもので強い人を殺すのは。こんな卑怯な手を使ったのに」


 ニーナは自嘲するように笑う。


「兄さんも結構卑怯な手を使うから真似してみたけど」

「ああ、そういえば俺が弱るまであいつ姿を現さなかったな。しかも弱ったところを不意打ちしてきた」


 まあその不意打ちは俺は喰らわずに親父だけ喰らっていたが。


「そうなの……それで、あたしと話って何? あんたを殺そうとした奴を殺さないの?」

「それは話してから決める。今は殺すつもりはないな」

「ふーん。で、話って?」

「フェリクス・グラジオのことを、教えて欲しい」


 俺の言葉に少し目を見開いて驚く。


「なんで? あんたは殺した相手のことを気にするの?」

「普通は気にしないんだがな、あいつは少し特別だ」


 前世で俺のほとんど全てを奪った男。

 あいつは何を思って王になったのか。


 先程、故郷であるこの集落の人々はフェリクスが王になることをあんなに拒んでいた。

 あいつを殺して後悔なんて全くない、これからもするつもりは毛頭ない。

 だが生まれ育ったこの集落の人達に反対されてまでも王になった理由を、少し知りたくなった。


「君もあいつの妹ならこの集落で育ったんだろ? あいつがなんで王様になろうとしたのかを教えて欲しい」


 俺がそう問いかけると、ニーナは俺の顔から目線を外し遠くを眺める。

 何か、思い出しているような目である。


「……あたしは、この村で育ってないわ」

「えっ、そうなのか? あいつの、フェリクスの妹じゃ……」

「兄さんとは血が繋がってないわ。ただ私がフェリクスのことを兄さん、兄さんが私を妹と思っているだけ」


 そうだったのか。雰囲気は少し似ている気がするが、顔などが似てないのはそのせいか。


 ニーナはそのまま話し続ける。


「あたしが兄さんに会ったのは、十年前。あたしが十歳の頃、王都の地下街で倒れているところを救ってもらった」



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