第65話 王都の様子
――ティナside――
私はエリックを見送ってから、イェレさんと一緒に寮に戻った。
エリックがいないから朝ごはんを作らないでいいかな? と一瞬思ったけど、エレナさんとユリーナさんの分を作らないといけない。
あの二人なら作るのを忘れてしまっても笑顔で大丈夫って言いそうだけど、やっぱり私の朝ごはんを食べて欲しい。
この王都に来て初めての男友達と女友達だもんね。
……エレナさんは男友達って感じはあまりしないけど。
いつも通り朝ごはんを作ってから食堂に向かう。お母さんやセレナおばさんにいっぱい教えてもらったから、毎日同じ献立にはしないようにしている。
朝ごはんを作って、三人分をお盆の上に乗せる。
そして、魔法を使う。
すると、三つのお盆が浮き上がる。私の頭の上あたりで維持する。
風魔法なのだが、こういう繊細な魔法をすることで魔法の質が上がるってビビアナさんが言っていた。
ビビアナさんは魔法騎士団で一番教えるのが上手い、ああ見えて。
一緒の部屋に住んでいるから、訓練の時に聞けなかったことや、わからないことを教わることができて嬉しい。
歩くスピードに合わせて、頭の上にあるお盆も動かす。
これが意外と難しくて、最初にやったときは熱々のスープを頭の上に溢して痛い思いをした。
今は集中してやればもう溢すことはないけど、結構意識を向けないとできない。
ビビアナさんは私と喋りながら、スープを一滴も溢さずに運んでいて素直に凄いと思った。
食堂まで行って、エレナさん達を探す。
ここでもいっぱい人がいるから、集中しないと誰かの頭の上にお盆をぶつけてしまう。
「あ、ティナちゃん! こっちこっち!」
横から声が聞こえてそちらを向くと、エレナさんが大きく手を振っているのが見えた。隣にユリーナもいる。
最後まで気を抜かずに魔法を発動し続け、二人に近づいていく。
「おはようエレナさん、ユリーナ」
「ああ、おはよう。今日も朝食ありがとうな」
「ありがとうティナちゃん!」
お盆を二人の方に運び、二人が受け取ってからようやく魔法を解く。自分の分も手で持つ。
この渡すのも難しくて、最初は加減を間違えてユリーナのスカートを捲ってしまった。
それをエリックがバッチリ見てしまったのがちょっと言いたいことあったけど、私に全責任があったから何も言わずにユリーナに謝った。
エリックに見られて恥ずかしかったのか、ユリーナは顔を真っ赤に染めていたが、大丈夫だって言ってくれた。
私達は席に座り、朝ごはんを食べ始める。
「今日からエリックとビビアナさんは任務でいないんだな」
あ、そうだ。一応二人に言っておかないと。
「さっきイェレ団長に会ってね、その任務のことは誰にも言っちゃいけないって」
「ああ、わかっている。何の任務かは知らんが、騎士団と魔法騎士団副団長のお二人が行く任務など、重要な任務なのだろう」
私はあの出発するところに行ったから、王子様の護衛任務ってことは知ってるけど……言わないほうがいいよね。
「そうだね。あんまり詮索はしなかったけど、やっぱり気になるよね」
「まあ一週間ほどで帰ってくるということですから、大丈夫でしょう」
ユリーナはエレナさんに対して敬語なんだよね。
私はエレナさんって呼んでるけど、タメ口でいいって言われたから普通に話してる。
ユリーナはそこらへん固いからね。まあそれが良いところでもあるんだけど。
「多分あとでイェレ団長に直接言われると思うけど、言わないようにね」
「わかってるよー。極秘任務なんだもんね」
エレナさんが笑顔で答える。
私も二人が言うことはないと思うけど、一応ね。
話しながら朝ごはんを食べ終わる。二人とも美味しいって言ってくれて良かった。
これから訓練で、私は二人と別れて魔法騎士団の訓練場に向かった。
訓練場で最初にアンネ団長のいつもの挨拶があった。
そしてその時に、
「ビビアナ副団長は今日はすでに任務をしているので、副団長からの挨拶はないわ。では、研鑽なさい」
と言っていた。
ビビアナさんの挨拶がないからか、今日は数少ない男の人達の元気がない。
アンネ団長は今日はビビアナさんはいないって言っていたけど、本当はこれから一週間いない。
男の人達がそれを知ったらどうなるんだろう。
「ティナ・アウリン。少しこちらに来なさい」
挨拶が終わり、これから最初のランニングに入るところでアンネ団長に呼ばれた。
「は、はい!」
訓練場から少し出て、廊下に行く。
そこでアンネ団長は誰もいないことを確認してから、魔法を発動する。
風魔法の応用で、私達の周りを風で囲って話が漏れないようにしている。
「イェレから聞いたわ。あなた、今回の極秘任務について知ってしまったのね」
「あ……はい、そうです」
「安心しなさい、あなたには何も罰を与えないわ。悪いのはビビアナだから。あの子には帰ってきたら……まあそれはいいわ」
帰ってきたら……何をするんだろう。そこで止められると気になってしまうが、聞かない方が良いんだろう。
ビビアナさん、頑張って。
「イェレからも言われたと思うけど、口外しないように。王子の護衛と知っているのは、あなただけ?」
「はい、他の二人、エレナさんとユリーナさんは詳しい内容は知らないと思います」
「そう、わかったわ。あの二人には多分イェレが言うと思うから大丈夫でしょう」
私は魔法騎士団だから、アンネ団長が言いに来たのかな?
「あなたが魔法騎士団に入って一ヶ月経ったわね。どう? 王都の生活、仕事には慣れた?」
「え? あ、はい、おかげさまで」
いきなり聞かれてビックリした。
アンネ団長ってこういうのを聞く人だったのかな? あんまり話したことないからわからないけど。
「そう、良かったわ。訓練にも慣れたかしら?」
「はい。村に居た時よりいっぱい訓練もできて、いろいろ先輩方に教わることができているので助かっています」
ここでは私より魔法に詳しい人しかいない。
魔法のことはエリックにしか聞いてこなかったから、あんまり詳しく学べなかった。
実力を認められて魔法騎士団に入ることはできたけど、知識は全然ない。
いろんなことを学べて強くなれて嬉しい。
早くエリックの隣に立てるように、もっと頑張らないと。
「……そうね。そろそろ頃合いね」
アンネ団長が小さく呟いて、私の目をしっかりと見て言う。
「ティナ・アウリン。私と戦いなさい」
「……えっ?」




