第46話 訓練開始
俺とユリーナさんは騎士団の訓練場に着いた。
そこにはもうすでに何千人という人がいた。
人それぞれ服装は違うが、動きやすいものではある。
訓練のときは服は自由で、任務など仕事のときなどは決まった服装があるようだ。
訓練は朝、昼、夜と分かれている。
任務や仕事の時間によって、どの時間帯に訓練をやるかなどを割り振れられる。
俺は今日は朝だが、これからどうなるのかはわからない。
騎士の人達が何百人といるが、綺麗に整列をし始める。
俺はユリーナさんに連れられて隣に並ぶ。
しばらく待っていると、目の前にイェレさんが現れた。
台のようなものに上がって、整列した騎士達を見渡す。
「おはようございます」
『おはようございます!』
イェレさんがいつもより少し大きな声で言った言葉に、騎士達が何倍もの声で返す。
俺は少しその声に圧倒されてしまった。
「今日もみなさん、頑張りましょう」
『はいっ!』
そう言って少し頭を下げ、すぐに台から降りた。
後でユリーナさんに聞いてみると、いつも朝はイェレさんが挨拶をしに来てくれるらしい。
団長だから絶対に忙しいのに、毎日必ず顔を出すイェレさんに騎士達は尊敬の意を抱いているようだ。
そしてイェレさんが去ってからすぐに訓練となった。
最初は十キロほどのランニングや、筋トレなどだった。
ここで訓練するのは初めてだが、このくらいだったら小さい頃からずっとやって来ていたので、余裕だった。
周りの人達も少しは慣れている様子だが、俺より余裕があるような人はユリーナさん合わせても誰もいないみたいだ。
ユリーナさんは普通の騎士の人達よりは体力があるようだ。
「はぁ、はぁ……エリックは、あまり疲れてなさそうだな」
「まあこれくらいは大丈夫ですね」
筋トレが終わると、すぐに武器を持った訓練となった。
各自それぞれ持っている武器が違うので、最初は武器が同じ人と一緒になって訓練をした。剣だけで、何百人という人がいた。
俺とユリーナさんは剣なので、武器が同じ人達と一緒に剣を振る。
一番綺麗に振るのは、俺……ではなく、ユリーナさんだ。
貴族だから教えてくれる人がいたと言っていたな。だから剣の振り方を客観的に見て直してくれる人がいるからこそ、綺麗な振り方が出来るのだろう。
俺は前世ではクリストに教わったが、今世では直す人がいなかったから、完全な自己流だ。
むしろ、この中で一番汚い振り方なのは俺じゃないか?
なんかそう思うと恥ずかしくなってくるが、あまり気にせずに本気で剣を振るい続ける。
そしてしばらくそれを続けると、今度は逆に違う武器を持った人同士が組んで練習することになった。
一チーム十人ほどで、二人組になって戦っていくようだ。
ここでユリーナさんとは昨日一度戦っているので、一度別れて他の人と組んで訓練する。
「よろしくお願いします」
「見ない顔だな、新人か? 随分若いが」
近くにいた人が俺を誘ってくれて、戦うことになった。
白髪混じりの髪で、顔も少しシワがあるので、もう何年も騎士をやっていそうな人だ。
「はい、昨日入団しました。歳は十六歳です」
「十六歳!? それは嘘だろ、見習いになれるのが十六歳だぞ?」
「えっ、そうなんですか?」
なにそれ初耳なんですけど……。
「その、イェレさん……団長に勧誘されて入ったんですが……」
「団長にか!? その歳で推薦なんて、聞いたことないぞ。もしかしたら、今までで一番若い年齢での騎士団入団かもな」
そう言って笑っている。話してて苦にならないような先輩だ、敬意を込めて……おっさんと心の中で呼ぼう。
決して馬鹿になんてしてないぞ、なんか家の近所にいた話しやすいおっさんのような雰囲気があるのだ。
「じゃあ始めるか。歳が二倍近く違うと言っても、団長に推薦されたぐらいだからな。手加減する気はないぞ!」
「……はい、お願いします」
お互いの間合いから一歩離れて構える。
おっさんは槍使いだ。
槍と剣では、リーチが違う。
俺が届かない距離でも、おっさんなら余裕で攻撃できるだろ。
だからおっさんは、俺より先に攻撃を仕掛けてくるだろう。
間合いを取りながら、相手に自分の懐に潜り込ませないようにするのが槍の戦い方だ。
予想通り、おっさんは一歩踏み出してきて槍を突き出してくる。
さすがに何年も騎士をやっていることだけあって、その一歩も悟らせないように動き、そして速い。
槍の先端は木で出来ているので死ぬことはないが、当たる場所が悪かったら普通に怪我をするだろう。
俺はギリギリで躱して間合いを詰めようとする。
おっさんはそれを予想していたように槍を横に振って近づかせないようにしてくる。
しかし、進行を邪魔してくる槍を受け流しておっさんに近づいていく。
「おらっ!」
槍を戻しても間に合わないとわかったおっさんは、近づいてきた俺に合わせて蹴りを放つ。
顔の側面へと向かってきた蹴りをしゃがんで避け、おっさんの片足を剣で払う。
蹴りをしたことによって片足になっていたので、簡単に転ぶ。
転んだところでおっさんの首元に剣を添える。
「……はぁ、まいったぜ」
「ありがとうございました」
俺が手を差しのばして、おっさんがそれを受け取って立ち上がる。
「やっぱり推薦されるだけあって強いな。よくそこまで強くなったもんだぜ」
「いえ、まだまだですよ。おっさん……も強かったですよ」
「お前、今おっさんって言ったな? しかも全く躊躇せずに出てきたってことはずっと心の中でそう呼んでただろ」
「気のせいですよ」
意外と勘がいいおっさんだ。
しかし、さっきおっさんは俺と二倍近く年が違うと言っていたが……前世の年齢を合わせれば、多分俺の方が歳上だ。
俺も精神的にはおっさんだからな。仲良くなれそうだ。
「まあいいけどな」
「じゃあよろしくな、おっさん」
「お前もうタメ口かよ……俺にはいいが、他の上司とかにはやるなよ」
「大丈夫、おっさんだけだから」
「そう言われるとうぜえな」
やっぱりタメ口の方がしっくりくる。こういうおっさんって貴重だよな。
何気にこっちに今世での男友達初めてだ……初めてがおっさんか。
「……なんかやだ、やっぱり友達じゃない」
「俺の顔見て、嫌な顔しながら何言ってんだお前」
やっぱり初めての男友達は前世でも今世でもクリストがいい。
おっさんが初めてなんて認めない。
まあクリストと会って友達になれたら、友達にしてやるよおっさん。
「お前、絶対に心の中で失礼なこと考えてるだろ」
「気のせいですよ」
「なぜ今敬語になった」
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