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第41話 なぜ強く



 決闘は終わり、俺はユリーナさんと同じ部屋で過ごせるようになったので、荷物をその部屋に運ぶことになった。


「エリックは、ユリーナさんと同じ部屋になるんだね……いいなぁ」

「ん? なんだ、ティナはユリーナさんと同じ部屋になりたいのか?」

「そうじゃないよ! エリックと同じ部屋になりたいの!」


 荷物を持って運んでいるときに、ティナがそう言ってくる。

 まあ俺とティナは村ではずっと一緒に住んでいたと言っても過言ではないからな。

 この前も一緒のベッドで寝たしな。


「魔法騎士団の寮だったら部屋の空きはあった気がするけど、そこで私とエリックが一緒の部屋に住んじゃダメなんですか?」

「ダメです。魔法騎士団の寮は魔法騎士団の方がお住みになります。今後そちらにも人が入ってくる可能性があるので」


 イェレさんの説明に、ティナはあからさまに落ち込む。


「まあ毎日普通に会えるから、大丈夫だろ?」

「うーん……そう、だね。我慢する」


 落ち込みながらも返事をするティナ。


 荷物を置いた後、俺はユリーナさんに施設や街を案内してもらうことになった。


 ティナは先に案内してもらっていたので、イェレさんと共に魔法騎士団の団長に挨拶しに行くらしい。

 ここでしっかりアピールしないと、ティナは魔法騎士団ではなく見習いになってしまうので、イェレさんと共に頑張って欲しい。


 そして俺が今後生活する部屋の前に着いた。


「ここだ、最初は結構迷うことがあるから気をつけろ」


 ユリーナさんがそう言ってからドアを開ける。


 そこは俺の部屋の二倍はある大きさだった。

 ベッドが並ぶようにあり、一つはユリーナさんが使っているから生活感が溢れている。


 ベッドとベッドの間には空間があり、そこの真ん中あたりからそれぞれ生活が分かれるそうだ。

 ドア側にユリーナさんのベッドがあり、奥の方が俺の空間なんだろう。


「お邪魔します」


 一応そう言ってから入って、奥の方に行こうとしたが……ユリーナさんのベッドの上にあるものが目に入ってしまう。


 赤い、布……?


 俺はパッと見はそう思ったが、よく見てみるとその形がしっかりとわかってしまった。


 パンツだった。

 ズボンって意味の『パンツ』ではなく、下着という意味の『パンツ』だ。


 俺はそうわかった瞬間に、顔をそちらから逸らす。


 勢いよく逸らしたからか、後から入ってきたユリーナさんが不審がる。


「どうしたんだ? 何かあったの……か……」


 自分のベッドを見て理解したのか、言葉の最後が消えていく。


「っ――!」


 顔を真っ赤に染めて、先ほど戦ったときより速く動いてパンツを取って背中に隠した。


「す、すまない! 不快なものを見せてしまった……!」

「い、いえそんな……大丈夫です」

「さっき戦いをするとなったときに、急いで着替えたからだ! い、いつもこんな散らかっているわけではないから安心しろ!」


 俺と戦うときに着替えたのか……。


 ん? いや待て、下着まで着替える必要ってあるのか?

 勝負下着……ダメだ、変な妄想はやめろ俺!


「エリック? 何を考えてるの?」

「うぇ!? い、いや、何も考えてないぞ!?」


 これから俺が暮らす部屋を見たいと言って入ってきたティナが、俺の考えてることを見抜いてるようなことを言ってきた。

 最近、ティナのそういう勘が鋭くなってる気がする……。


 荷物を置いて、部屋を出る。

 これからここでユリーナさんと一緒に暮らしていくのか……大丈夫なのか?



 ティナはイェレさんと共に魔法騎士団の団長に会いに行くために、ここで別れた。


 その後、俺はユリーナさんに連れられて、施設を回っていた。


「ここが食堂だ。騎士団と魔法騎士団が全員集まる、唯一の場所だ。だからここが訓練場の次に大きい」


 今はユリーナさんが言った通り、食堂を案内されているが……本当にデカくて広い。

 騎士団と魔法騎士団の総数が王都にいる人だけで、一万人を超えているらしい。

 各街に散らばっている騎士の総勢は、十万人を超えているとか。

 これだけ大きい国だと、とてもたくさんの騎士が必要なんだろう。


 凄い数の騎士がいるが、その中で一番トップなのがイェレさんだ。

 本当にすごい人だ……俺、イェレさんとか気軽に呼んでるけど大丈夫かな?


 その後もユリーナさんの案内は続き、最後にいつも訓練をしてるという場所に来た。


 そこはやはり食堂よりも大きく、すでに多くの騎士の人達が訓練をしていた。


 剣や槍を持って対人で戦う人達や、ただ剣を振って自分の剣を磨いている人もいる。


「今日は全体で訓練がない日だが、こうして多くの騎士が自主的に訓練をしている」

「そうなんですか」


 他の騎士の人達の練習風景をしばらく見させてもらったが……特に目を引いて強い人はいない。

 頭一つ抜き出て強い人はいるが、それでも多分ユリーナさんには負けるだろう。


 それだけユリーナさんは強かった。

 女性とは思えないスピード、パワーがあった。


「……こうして他の騎士を見ると、自分の方が強いと思うのだがな」


 俺と同じく他の騎士を見て、ユリーナさんはそう呟く。

 それは驕りや慢心ではなく、ただの事実だ。


「さすがに団長や副団長などに勝てるとは思っていなかったが、それでもその次に名乗りを上げられるほど強いという自負があった。しかし……まさか、歳下に負けるとは思っていなかったよ」


 悔しそうにそう独り言のように呟いた。


 いや、その……一応歳下だけど、本当は倍くらい生きています。ごめんなさい。


「エリック、と呼んでいいか?」

「あ、はい」

「ではエリック、なぜ君はそこまで強くなれたのだ? 私は訓練量なら誰にも負けない自信があった。歳上の人でも自分の方が本気で訓練をしていると思っていた。それを君は、同じ年数訓練していた君は簡単に私を倒した」


 まっすぐと俺の目を見て問いかけてくる。


「君はなぜそこまで……私に教えてくれないか?」


 そう言われて、どこに俺とユリーナさんとの力量の差があったのかを考えてみる。


 一番に思いつくのは、経験の差だ。

 同じ年数剣を振ってきたと言ったが、俺は前世でも振っていて、しかも戦いに慣れている。

 その差が一番大きいと思う。


 あとは技術面。

 スピードは普通の人より、なんなら今の俺より少し速いかもしれない。パワーも女性とは思えないほどあった。

 しかし、それを全て使いこなせる技術が足りなかった。


 そこらへんが大きい差だと思うが、ユリーナさんが聞いてるのはそこじゃない。


 『なぜ、強くなれたか』だ。


「そうですね……多分、訓練の『質』の違いじゃないですかね」

「私の訓練の質が悪かったと? 私は親が貴族だから、剣の先生を呼んで教わることが出来た。だから質では、村出身の君より高いと思うが」


 まあそうかもしれない。村で生まれた俺は剣を教わる人は親父しかいなくて、親父も俺の剣とは違う道だった。

 だが一応前世の頃に親友のクリストから教わっていたから、問題はなかったが。


 というか、そういうことでもないのだ。


「ユリーナさん、一つ質問です」

「なんだ?」


 俺は質問をしてきたユリーナさんに、逆に問いかける。



「あなたは――本気で剣を振ったことはありますか?」



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