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第37話 過激な陛下


 馬車はティナを降ろして俺を乗せたまま、王宮へと向かっていく。


「あと数分で着くので少々お待ちください」


 イェレさんが長旅で俺が疲れてると思ったのかそう言ってくれるが……長旅で疲れて顔色が悪いわけではないのだ。

 ただただ、これから王様に会うということで緊張しているだけだ。


 そして数分後、王宮の前に辿り着いた。

 やはり建物が大きいので、一番上はこの位置から見上げたら見えないほどだ。


「では馬車を降りて王宮へ入ります。私についてきてください」


 そう言うとイェレさんが先に降りたので、俺も後に続いて降りてついていく。


 王宮の正面扉、とてもデカイ扉が開いて中に入る。

 こんなにデカイ扉が開いても、イェレさんは当たり前と言うように平然と入っていった。

 俺はビビって、なんとなく頭を下げながら入ってしまった。


 廊下もとても豪華で、敷いてある絨毯は真っ赤でとても高級そうなものだったから、土足で踏んで大丈夫なのか不安になった。


 俺はドギマギしながらもイェレさんの後についていくと、また一際大きい扉の前で止まった。


「陛下、いらっしゃいますか?」


「ああ、いるぞ」


 扉の前から声をかけたら、中から厳かな声が響いてくる。


「イェレミアス・アスタラです。入っても大丈夫でしょうか?」

「許す」

「失礼します」


 俺に特に確認もなくイェレさんは扉を開いてしまう。


 えっ、ちょっと待って、心の準備が……!


 そう思ってもすでに遅く、扉は開いてイェレさんが中に入ってしまった。

 後に続くのは怖かったが、ここで待つのも違うと思って緊張しながらもついていく。


 中に入るとそこはとても大きい部屋で、村にある俺の家がすっぽり入ってしまうのではないかと思うほどだった。


 真ん中より今入った扉に近いところにこれまた大きいソファが対になるように置いてあり、そこに座っている人がいた。


「今任務から帰還しました」

「よく無事に帰った」


 さっきの扉の外で聞こえてきた声と同じなので――おそらくこの人が陛下なのだろう。


 金髪の短い髪で、前髪をあげてオールバックのような感じになっている。

 服装は思ったより質素というか、白シャツに黒のズボンという軽い服装だった。

 顔は声から予想していたが、やはり思った通り威厳を感じる顔つきで、目つきが鋭く顎髭が少し生えている。


「フェリクス・グラジオの話は聞いているでしょうか?」

「ああ、村の青年がそいつを倒してくれたと。そしてお前がスカウトを成功したと聞いたぞ」

「はい、その通りです。そしてこの方が……」


 そう言って二人一斉にこちらを見る。


 な、何か言わないと……。


「は、初めまして……エリック、えっと、アウリンと言います」


 自己紹介すらどもってしまった。

 今日初めて言われた姓の名前が少し出てこなかった……。


 俺が緊張しているのがわかったのか、陛下は少し笑って、


「ああ、俺はレオナルド・カルロ・ベゴニアだ。長い名前だからレオ、とだけ覚えてくれればいい」


 そう言って俺に手を差しのばしてくれた。


「は、はい、よろしくお願いします」


 俺も少し緊張しながらも手を出して握手をした。


 この手……! 確実に剣を握ったことある手だ。

 何年も剣を振っていないと、こんな硬い手にはならない。


「ふむ、良い手だな。この手を持つ者なら、強いのも納得だ」


 レオ陛下も俺の手を握ってわかったのか、そう言ってくる。


「あ、ありがとうございます」

「うむ、ではそっちのソファに座ってくれ。メイドに茶でも持ってこさせよう」


 そして俺は言われるがままに、陛下が座ってなかった方のソファに座る。


 うおっ……!? めっちゃ沈んだ……!


 こんな柔らかくて高級そうなソファに座っていいのかと不安になったので、浅く腰掛けた。


 イェレさんが俺の隣に腰掛け、正面にレオ陛下が座った。


「さて、まずは礼を言おう。イェレから聞いたが、フェリクスを倒したということでこの国を助けてもらったらしいな。君がいなければ危なかった、ありがとう」


 そう言って座りながら頭を下げる。


「い、いえ! そんな、お礼を言われることなど……!」


 いきなりこの国のトップの人から頭を下げられるなんて思ってもいなかったので、焦ってしまう。


 いや、ほんとに! なんか怖くなってくるから!


「ふむ、謙虚な者だな。ここは『助けてやったんだから金をよこせゴミどもが!』とでも言うところだと思ったが」

「どんな悪役だよ!」


 俺は思わずツッコんでしまった。


「陛下、それは陛下だけです」

「む、そうか」

「陛下やったことあるの!?」

「何を言う、これも俺の立派な仕事だ。ある国を助けたときに、その国が何も報酬を出さないとか言いやがってな。俺が王やら貴族達がいる場でそう怒鳴り倒してやったのだ」

「そ、そうだったんですか……」


 それでももっと他の言い方があると思うが……。


「緊張は解けたか?」

「あっ……」


 レオ陛下はそう言ってニヤリと笑った。


 確かに、今のやりとりで緊張は解けた……。

 もしかして、さっきのは俺を気づかってのギャグとかだったのか……?


「さっき言ったのは本当に陛下がやったことですよ、そのせいでまた戦争になりかけたのですから」


 あ、本当だったんだ……。


「ふん、俺の部下が命がけでやった仕事の対価が無しだと言ったそいつらが悪い。どうせあいつらは俺の国と戦争をする気迫もなかったゴミどもだ。あの場で俺が言わなかったら、死んでいった奴らに顔向けできんわ」


 そう言って当時のことを思い出したのか、少し不機嫌そうに腕を組む。


 なんか過激な人だけど……悪い人ではなさそうだな。

 部下想いの良い人だ。


 そうしていると、メイドの人が部屋に入ってきて茶を運んできてくれた。


「おい、なんで俺も茶なんだ!? 酒だって言っただろ!?」

「まだ業務中です。お酒は控えてください」

「なんだと! 減給するぞ!」

「王妃様に言います」

「許す!」


 目の前でメイドの人とそんなやりとりをしてるレオ陛下。


 ……悪い人では、ないよな?



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