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第30話 常に戦場


 ――ティナside――


 コインが落ちた瞬間、私は貯めていた魔力を解放した。


 この勝負は私に有利だ。

 なぜなら、魔力をためる時間が始まる前から設けられているから。


 貯めていた魔力を解放し、魔法名を唱える。


「『太陽光サンライト』!」


 手の平を前に向けてそう唱えると同時に、私は目を瞑る。


 この魔法はただ光を放つという魔法だけど……不意打ちで食らったら防ぎようがない。


「なっ――ぐあっ!?」

「目が、目がぁぁぁ!!」


 私の相手の二人はいきなりの光に目をやられて、目を手で抑えて全く周りが見えないという状況になる。


 この魔法は本気でやったら、多分失明するほど強力だけど、今回は数十秒ほど目が見えなくなる程度に抑えている。


 少しずるい手だと思うけど……勝つためなら、エリックと一緒にいるためなら手段は選んでなんていられない。


 目をやられて見えなくなっている二人を目の前にして、私は次の魔法を唱える。


「『光拘束ライトロック』!」


 またも手の平を前に向けて唱えると、今度は光の輪っかが何個か出てきて二人に向かって飛んで行った。


 そしてそれが二人に当たり、腕は胴体にくっつくようにして光の輪に拘束され、両足も足首のところで拘束された。


「ぬわっ!?」

「あっ!?」


 二人は見えない状況でいきなり手も足も動けなくなり、すぐに体勢を崩して倒れた。


 私が使った魔法は光魔法。どちらも下級魔法だけど……上手く使えばこんな感じで相手を戦闘不能に出来る。


 この戦い方は魔物の襲撃があってからの一週間、私がどうやれば強くなれるか考えた結果、こんな戦闘もできると思って練習したことだった。


 強くなればエリックに頼られると思って、頑張って考えたものだ。

 それがこうして上手く出来たのはとても嬉しい……!


「やった……!」


 私がそう呟くと同時に、今まで黙って見ていたイェレさんが喋り出す。


「終了です。見事、ティナさんの勝ちです」


 軽く手を叩いてそう言ってくれたが――次の瞬間、私は敵意を向けられていた。


「えっ……!」


 いきなりのことだったから少し反応が遅れたが、目の前のイェレさんが私の攻撃を仕掛けてくるというのが目に見えてわかる。


 ――早く魔法を……!


 そう思って魔力を貯めようとしたが――。


「遅いですね」


 ――私は軽く足を払われて地面に倒されていた。


 私は見ていた景色がいきなり変わって、背中に感触があって初めて倒されたと気がついた。

 それに気づいた後、イェレさんが自分の足を軽い足蹴りで払ったということを理解する。


 いきなりのことすぎて受け身も何も取っていなかったが、全く痛くないのは手加減してくれたからだろう。


「さて……いきなり失礼しました。しかし、先ほどの戦いはあなたに有利でした。本来ならば魔法使いというものは、あんなに準備して戦えることなんてありません」

「……はい、わかっています」


 そうだ……エリックと一緒に戦ったときも、あの男の人をエリックが抑えてなければ、私なんて手も足も出なかっただろう。


「魔法騎士団団長がよく団員に言うのは……常に戦場にいると思え。そうすれば如何いかなる時でも魔法を使うことが出来る……とのことらしいです。騎士団にも通ずるものがあるので、よく覚えています」


 常に戦場と思え……確かにそれくらい考えてなければ、不意を突かれたらすぐにやられてしまうのかもしれない。


「さて……一度起きましょうか」

「あっ……ありがとう、ございます」


 倒れていた私に手を差しのばしてくれて、私もその手を受け取って立ち上がる。

 背中についた落ち葉などを払う。


「さて、試験は合格しましたが、その後すぐに私に倒されて少し不満があると思います」

「い、いえ、そんなことは……」

「なので……もう一度、私と勝負しますか? 今度はティナさんが有利に、準備をしてもらって構いません」


 イェレさんは淡々と無表情でそう言ってくるので少し怖いが……その言い方だと、準備をした私でも勝てないと言っているのと同じだ。


「……お願いします」

「わかりました、ではやりますか」


 そう言うと私から少し離れた場所に行ってから剣を抜く。


 ……イェレさんのすぐ足元に部下の二人がまだ目が痛くて苦しんでるのは、見てないフリかな?


「では、先程と同じようにコインを投げます。それが落ちたら始めましょう」

「……はい」


 イェレさんがコインを投げる前から、私は魔力を貯め始めている。


 そしてコインを弾き――地面に落下する。


 それと同時に魔力を解放。

 すぐに魔法を唱えようとするが――。


「はい、終了です」

「……えっ?」


 上からイェレさんの声が聞こえ、景色がまたも変わっていることに気づいた。

 また、魔法を唱えることも出来ずに倒されていた。


 今度はイェレさんが私をどう倒したのかわからない。

 いつの間にか倒されて、いつでも私を殺せると言わんばかりに剣を振りかぶっているイェレさんの姿。


 さっきまで数メートルは離れていたのに……。


「貴方の魔法の威力は魔法騎士団に到達してるように思われます……しかし、その魔法を放出する速度などは少し技術不足です。詠唱破棄というものを覚えるのもいいかもしれませんね。そこまで詳しくない私が言えるのはここまでです、あとは魔法騎士団で教わってください」


 ……すごい。

 私は倒されて、負けた悔しみより尊敬のような念が心の内を占めていた。


 私の中では一番強いのはエリックだった。

 イェレさんがエリックより強いとはまだわからないけど、それでもこの村を少し離れた王都にもこんなに強い人がいるなんて……!


 私は王都に行って魔法騎士団に入れば……もっと強くなれる!

 そして、エリックの隣に立てるほど強くなるんだ……!



 そんなことを心の中で思っていたら……声が聞こえた。



「ティナから――離れろぉぉぉ!!」



 次の瞬間、私の目の前にいたイェレさんは――消えた。


 

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