第29話 試験
――イェレミアスside――
「――私が、魔法騎士団に入るためにはどうすればいいでしょうか?」
その少女は私達の前に現れて、第一声そう言った。
「女の子……?」
私の部下の一人がその少女を見てそう呟く。
そうですね、姿を見れば見た目が可愛い女の子です。
しかし――あの気配の殺し方は、ただの女の子ではありません。
私達がフェリクスの死体を掘り起こしている時には、すでに私達の姿を確認できるところまで来ていました。
ここは戦場ではないので、私も少し油断してましたが……あの少女がいつここにいたのか明確には私ですらわかりません。
そこまで気配を消せるなんて……本当にこの村の青年、少女は私を驚かしてくれます。
しかし彼女が言った言葉……魔法騎士団、ですか。
「初めまして、私はイェレミアス・アスタラと申します。貴女のお名前は?」
まずは名前を聞かないと話が出来ません。
彼女は私の対応に少し面を喰らったのか、戸惑いながらも自己紹介してくれる。
「あの……ティナ、です」
「ティナさんですか。素敵な名前ですね」
私がそう言っても彼女は全く緊張をほぐしてくれません。
前に同僚に言われましたが、私の褒め言葉は感情がこもっていないと言われたことがあります。
私は本気で思っているのですが……どうしてでしょう?
確か顔の表情が変わらないからと言われましたが……よくわかりません。
エリック殿の母上殿は喜んでくださったのですが……あれは私がよかったのではなく、母上殿がとても良い対応をしてくださったということでしょうかね。
おっと……少し違うことを考えてしまいました。
「ティナさん、貴女は魔法騎士団に入りたいのですか?」
「はい!」
私が改めて問いかけると、ティナさんは即答で力強く返事をしてくる。
良い返事です。
そんなに入りたい気持ちがあれば……すぐにでも騎士団見習いにはなれるでしょう。
しかし――。
「貴女はなぜ、騎士団に入りたいのですか?」
私がそう問いかけると……彼女はまたも力強く、覚悟を決めた目で私と視線を交わしながら、
「エリックの、隣に立ちたいからです!」
迷わずにそう言った。
彼女の覚悟に……私は驚きました。
ただエリック殿のことが好きなのではないのでしょう。
その言葉、態度だけしか私は見ていませんが、彼女がエリック殿を護りたいという覚悟が見えます。
こんな少女が……この危険な男、フェリクスを一人で倒したエリック殿を護りたいと、そう言えるのが素直に賞賛に値すると私は感じました。
「……ティナさん、ご年齢は?」
「今年で十八歳です」
ふむ、ティナさんのご年齢なら魔法騎士団の……見習いにはすぐになれるでしょう。
しかし……。
「ティナさん、貴女のご年齢なら魔法騎士団の見習いになれます。最低でもそこで二年ほど訓練してから、魔法騎士団の所属できます」
「……エリックも、騎士団見習いですか?」
「いえ、エリック殿は団長の私の推薦で、特例で訓練期間はなくすぐに騎士団に入ってもらいます」
今この場にエリック殿はいなく、返事ももらっていないにも関わらず、私達の会話ではもう入ることが決まっているように話していますが……。
彼がどう返事をするか、私とティナさんの見解は同じのようですね。
「それじゃあダメです、遅すぎます。私はエリックの隣に立ちたいので、すぐに魔法騎士団に入りたいんです」
彼女は私の言葉を聞いて、すぐにそう言った。
ふむ……なんとしてでもエリック殿の隣に立ちたいということですね。
「おい、お前……女だからって調子に乗るなよ」
ティナさんの言い様に私の部下が話に割り込んでそう言ってくる。
「そうだぞ。魔法騎士団は魔法が使えないと見習いにすらなれないんだ。お前がそう簡単になれるわけないだろ」
もう一人も続けてそう言った。
しかし……彼らもまだまだですね。
彼女は貴方達が気づかないほど上手く気配を殺せるのに……騎士団を選ばないのですよ?
彼女の気配を殺す技術は貴方達より上で、騎士団の中でも勝てる人はほとんどいないでしょう。
それなのに、魔法騎士団を選ぶということは――それより魔法の方が自信があるということです。
しかし……そうですね、物は試しです。
「試験をしましょう」
私がいきなりそう言うと、三人は呆然としているが私は気にせず続ける。
「彼らに勝てたら、魔法騎士団の団長に私の方から推薦しておきましょう。絶対に入れるかわかりませんが、少しは手助けになれると思います」
「本当ですか!?」
私の言葉にティナさんはすぐに食いついてきた。
「団長!?」
「何をお考えになっているのですか!?」
部下達も食いついてきたが、その食いつきの意味は真逆の意味でしょう。
「彼らを倒せるぐらいなら、魔法騎士団に入れると思いますよ。ティナさん、やりますか?」
「やります!」
ティナさんは目を輝かせてそう言う。
やはりこう見ると可愛らしい少女ですが……その実力はどうでしょうか。
「貴方達もやりなさい。団長命令です」
「……了解致しました」
一人がそう言うと、もう一人も渋々了承した。
まあ彼らからすると、私が何を考えてるのか全くわからないことでしょう。
ティナさんと部下達が少し離れたところで構え、私がその真ん中に立つ。
しかし、部下の一人だけが構えているのを見て、ティナさんが首を傾げている。
「あの……お二人一緒に戦わないのですか?」
その言葉に部下達は少し驚いていていたが、すぐに怒った顔になった。
「貴方達、二人で戦いなさい」
「だ、団長!?」
私もティナさんと同じことを言う。
二人は驚愕してこっちを見たが早くしなさいと言うように睨んだら、もう一人も戦闘の構えをした。
さて……どうなるでしょうか。
「あまり大きな怪我をさせないように」
私がそう言うと、部下達が大きく頷く。
さすがに相手が少女ということもあり、それは言われなくてもわかっている……という意味での頷きだったのでしょう。
しかし……私が言った相手は貴方達でありませんよ。
「では……このコインが落ちたら始めてください」
私は懐にあったお金のコインを出して、指で弾く。
そのコインは空中を綺麗に舞って――地面に落ちた。
――瞬間、私の目の前は白く染まった。
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