第22話 村のその後
俺はフェリクスを倒した後……約二日も寝ていたようだった。
起きて家のリビングに行くと、親父や母さん、ティナが俺の姿を見て驚いて、そして泣いて抱きついてきた。
親父が涙を流す姿なんて前世でも見たことがなかったので、やはりそこまで心配されて申し訳ない気持ちにもなるが、とても嬉しくて俺まで泣きそうになってしまった。
俺が二日も寝ていたのは傷などを負ったというのもあるが、一番は魔力切れであった。
魔力が切れると気絶し、八割ほど魔力が回復しないと眠りから覚めないのだ。
俺は魔力が切れると二日も寝てしまうらしい……まだまだ魔法に関しては成長しないといけない。
俺と同じく、ティナも魔力切れで気絶したらしいが……わずか半日で起きたらしい。
俺より何倍も魔力量があるのに、回復するのは俺より早いなんて……ティナに魔法を教えたのは俺なのに、なんだこの差は。
そして今、俺たちは森に来ている。
この前の戦いの片付けをしないといけないのだ。
フェリクスと戦ったことしか俺の頭は覚えてなかったが、その前に何百体という魔物と戦っていたんだった。
その死体が、村の周りに散乱している。
こんなに多くの魔物を殺したのは俺も初めてだからどうすればいいか迷うが、とりあえず村の皆んなが俺が寝ている間にも死体を片付けてくれているらしい。
俺が行った時は、すでに二日もかけて片付けをしたらしいので死体の山のように積み上がっていた。
俺と親父が全部やったのに、村の皆んなに片付けをさせて申し訳なく思ったが、皆んなは親父と俺のおかげで助かったから気にしなくていいと言ってくれた。
やはり俺は、この村を助けて良かったと心の底から感じた。
そして積み上がった魔物はどうすればいいかと話し合った結果……一部を除いて焼き払うことにした。
親父や狩人の人達が狩った魔物は、街の方で剥ぎ取った皮などの素材を売ると良い値段になることがある。
そのお金で村に必要な物を買ったりするのだ。
今回の魔物の群れも、結構良い素材になりそうな魔物が多くいるが……ちょっと多すぎる。
俺や親父、狩人の人達と相談してどの魔物を残すか決めて、それらを除いて数百体の魔物は焼き払うことになった。
魔物の死体を燃やすのはティナにお願いした。
死体に火をつけるのだけなら俺でも出来るが、死体を焼くときにめちゃくちゃ臭い死臭が出てしまう。
それを放ったらかしにすると、村にその臭いが広まってちょっと大変なことになる。
だから、火魔法で燃やして風魔法でその臭いを村に広げないように魔法を行使できるのはティナしかいない。
俺も頑張ってそのくらいは余裕で出来るようになりたいな……。
目の前で死体を燃やし風魔法を操り死臭を村に流さないようにしながら、俺と楽しそうに話すティナを見てそう思った。
そして――魔物の群れの襲撃、フェリクスを倒して一週間ほどが過ぎた。
村はあんなに大きな出来事があったにも関わらず、特に何事もなくいつも通り過ごしている。
俺が魔法で作った村の全方位を囲む壁も、取り壊さないで利用することになった。
魔物が夜に食べ物を求めて村の畑などを襲ってくることもこれで激減することだろう。
俺もいつも通り朝に鍛錬をして、そして昼になったら最近はティナの方の家のお手伝いとして畑を耕している。
「ふぅ……」
「お疲れエリック。はい、これお水」
「ありがとうティナ」
ティナから冷たい水の入ったコップを受け取り、飲み干す。
ちなみにこれもティナが水魔法で出した水だ。
そういえばティナからこの前、もう『ティナ姉』と呼ばなくていいと言われた。
なぜか聞いたら、ティナって呼ばれた方が嬉しいからだとか……。
まあ俺は前世ではティナって呼んでたし、密かに心の中でもティナって呼んでたから違和感なく変えることは出来たが……。
よくわからない理由だったが、まあいいだろう。
突然話は変わるが、俺は今とても焦っているというか……困っている。
前世では、一週間前の魔物の襲撃とフェリクスのせいで俺以外の全員が死んだ。
それを助けられたのは良かった。
しかし――村を助けたことによって、俺はこれからどうするべきか悩んでいる。
前世の時は親父や母さん、ティナが死んで俺だけ生き残り、茫然自失となっていたところに――親友に助けられたのだ。
確か、俺の村が滅んでから一ヶ月後ぐらいに、少し遠くの街で会ったんだよな。
街の裏路地にある貧民街のようなところで俺がくたばってたところに現れて、飯を恵んでくれたのだ。
そいつもその街の貧民街に最近来たらしく、同い年ぐらいの俺が倒れているのを見て放って置けなかったらしい。
その後話を聞くと、俺と同い年だった。
そしてなぜ貧民街に来たかという話題になり、俺が村が滅んで行く場所が無く当てもなくここに来たと伝えると、そいつも話してくれた。
住んでいた王国が滅び、俺と同じようにここに来たと言っていた。
互いの境遇が近いこともあり、すぐに仲良くなった。
そいつの名前は――クリスト。
俺はクリストと親友になって、一緒に旅をしたことによって生き延びることが出来た。
あの時あいつと会っていなかったら、多分俺は死んでいた。
早くあいつにもこっちの世界で会いたい……。
だが……俺は思った。
あいつが貧民街にいた理由。
それはクリストがいた国が、滅んだからだ。
俺の村が滅び、あいつの国が滅んだから俺たちは出会った……。
そしてあいつの国が滅んだ理由。
クリストの国の名前を俺は聞いていなかったが、俺の村が滅んだ後にすぐに堕ちた国なんて限られているだろう。
例えば――ベゴニア王国。
そう……多分、いや、確実にクリストが住んでいたという国はベゴニア王国だろう。
そしてクリストも命からがら逃げてきて、俺と出会ったのだ。
つまり――俺は親友、そして愛する人。大事な二人と会う機会を失ったということになる。
イレーネと会えなくなって落ち込んでいたところに、その次はクリストとも会えなくなるとは思えなかった……。
もしかしたらクリストがベゴニア王国ではなく、違う国に住んでいてそこが滅んだなら、一ヶ月後ぐらいに俺とクリストが出会った街に行けば会えるかもしれない。
まあ、一番はあいつが住んでいる国が滅びない方がいいので、ベゴニア王国に住んでいた方が滅ぶ理由がなくなり、いいのかもしれない。
だが……この村にいると、情報を手に入れることが出来ない。
俺はやはりこの村を出て行って、旅に出た方がいいと思ってきた。
情報を手に入れるためには、この村を出て街に……それこそ、ベゴニア王国とかに行った方がいいのかもしれない。
どうしようか……。
今、この村は魔物の死体の処理などが終わり、ようやく落ち着いてきている状況だ。
ここで俺が村を出て行くと言ったら、どれだけ大騒ぎするかもわからない。
それに……一番の心残りはティナだ。
ティナはいつも俺といる。
俺もティナのことは、本当の家族みたいに感じている。
おそらくティナもそうだろう。
しかし、俺が出て行くとなるとティナはどうなるのだろうか……。
そんなことを考えながら、俺は畑を耕していた。
そして今日――。
この村に、新たな来訪者が来て、俺の人生は前世と大きく変わることになった――。
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