【第65話:決断の時】
放課後。俺は田中美香さんがくれた手紙の約束を果たすため、裏庭に向かった。
そこにはショートカットの可愛い女の子が、とても緊張した面持ちで佇んでいた。
「あ、秋月君」
「ごめん。待たせたね。今朝手紙をくれたのは田中さんで間違いないかな?」
「うん、わたし。ホント急に呼び出したりしてごめんね。大事な話があるんだ」
「うん、なに?」
田中さんはごくりと唾を飲み込んだ。かなり緊張している様子だ。
どうしたんだろう。
ショートカットの可愛い女子は大きく息を吸ってから、思い切ったように話し出した。
「わたし、秋月くんのことが好きです。わたしと付き合ってほしいです」
「……え?」
驚いた。一瞬耳を疑った。まさか。
俺みたいな地味男子を田中さんのような可愛い女子が、特に接点もないのに好きになるなんて。
からかわれてるのか?
罰ゲームの嘘告とか?
「ホントに急にごめんなさい。あんまり関わりなかったのに、突然こんなこと言われたら戸惑うよね。だけど秋月君って優しそうだし、いいなあって前から思ってたんだ」
「ありがとう。でも俺って地味だし、ほとんど目立たないし。正直ちょっと信じられない」
「ううん。秋月君って派手なタイプじゃないけどさ。イケてると思うよ」
「ごめん。いや違うな、ありがとう」
「だって最近じゃ、浜風さんや京乃さんとも仲が良いし。この前の男子総選挙でも3位だったじゃん。イケてる証拠だよ」
なるほど。人気女子が仲良くしてて、得票もしたって事実が、俺を実力以上に良く見せているのか。
権威バイアスというのがある。優秀な人や権威ある人が良いと思うものは、他の人も良いと妄信してしまう心理現象。
まあそうだとしても、好きだと言ってもらえることは素直に嬉しい。とても嬉しい。
だけど──
「ありがとう田中さん。とても嬉しいよ。だけどごめん。付き合うことはできない」
俺は頭を下げた。
今までの俺だったら、こんなにはっきりと断れなかった気がする。
好きだと言われたらやっぱり嬉しいし、女子と付き合う経験をすべきだってアドバイスももらってた。
だからどうしたらいいか迷って、なかなか答えを出せなかった気がする。
だけど京乃さん、浜風さんの二人から告白されて、その答えを模索している俺には、田中さんと付き合うという選択肢はない。
もしも俺が付き合うとしたら、あの二人以外には考えられない。
「もしかして秋月くん、好きな人がいる?」
「うん」
俺は即答した。田中さんに誤解を与えないように、力強い口調で答えた。
「そっか。……それってもしかして浜風さん? それとも京乃さん?」
自分の中で、京乃さんを好きなのか、浜風さんを好きなのか、まだ答えは出ていない。
「それは言えない。ごめん」
「ん……わかった。困らせてごめん」
田中さんは頭を下げると、俺の顔を見ないようにして踵を返した。
そして少し早足で、正門の方に駆けて行った。
申し訳ないことをした。女の子の気持ちを傷つけることをして、さすがに心が痛む。
だけど仕方ない。思わせぶりな態度をするより、しっかりと断った方がいい。
──ああ、そういうことか。
やはり俺は、断わる相手には誠意をもってきちんと断わらないといけないんだ。改めてそう思った。
そのためにはしっかりと自分の気持ちを決めないといけない。
「ああっ、つい勢いで、一週間で答えを出すなんて言っちゃったけど……失敗だったか。ちゃんと答えを出せるのか?」
でも時間をかければ正解が見つかるというものでもない気がする。
時間制限があった方が一生懸命考えるし、答えが見つかりやすい気もする。
それよりなにより、答えを出せるかではなくて、答えを出さなきゃいけないんだ。
彼女達二人のために。
***
一週間が経って、とうとう土曜日を迎えた。
この一週間、必死に考えた。
京乃さんと付き合いたいのか、浜風さんと付き合いたいのか。
俺の気持ちは、本当に恋心なのか。
こんな気持ちで付き合って大丈夫なのか。
俺なんかと付き合ったとして、彼女達はホントに幸せなのか。
ついネガティブな気持ちも湧いてくる。
それでも真剣に考え抜いた。
理屈で考えるだけでなく、自分の心に問いかけた。
そして……俺なりに答えを出した。
その答えは──
「雄飛君、準備はいいかしら?」
放課後、神ヶ崎と正門の横で待ち合わせをした。
「ああ、いいよ。ちゃんと答えは決まった」
「それは、どちらかの告白を受け入れるということ? それとも両方とも断わる?」
「俺は──」
さすがの神ヶ崎も、息を飲んで緊張した様子で俺の言葉を待っている。
「考えに考えた結果、告白を受け入れることに決めた」
──そう。ようやく自分の本心に辿り着いた。
俺は、あの子が、好きだ。
「そう。それがどちらなのかは、今は言わないで」
「ああ、わかった」
「じゃあ今から、もう一度手順を説明するわね」
京乃さんと浜風さんは、すでにそれぞれの『待ち合わせ場所』で待っているらしい。
その場所は──
京乃さんは、大きな芝生広場が人気の公園。
そして浜風さんが、カラオケルームの前で待ってるらしい。
どちらも学校から徒歩10分くらいで行ける。
……えっと、なぜカラオケルーム?
相変わらず、ハーフ美少女の行動は謎だ。
「雄飛君は今から、付き合いたい方が待つ場所に向かってよ。そしてそこにいる相手に、しっかりとあなたの気持ちを話してほしいの」
「わかった」
「断わる方の相手には、移動中に電話を入れてよ。伝える言葉は『ごめん』とひと言でいいわ」
「ホントにそれでいいのか?」
「ええ。逆に、今はそれだけにしてほしいの。断られた方も、なにをどう言ったらいいのか困るから」
俺が長々と言い訳するよりも、確かにその方がダメージも少ない。
「改めてちゃんと話をするのは、お互いに落ち着いてからにしましょう」
「わかったよ。余計なことは言わない」
「ありがとう」
神ヶ崎は頭を下げた。
いよいよだ。緊張する。
「こちらそこ、ありがとうな神ヶ崎」
俺も頭を下げて、正門から表に出た。そして目的地に向かう。
俺が向かう先は──
〈つづく〉




