【第64話:これはラブレター?】
「はぁ~疲れたな」
その日の夜。夕食も風呂も済ませて自分の部屋でベッドに寝転んだ。
後頭部に手枕を組んで、天井をぼんやりと眺める。
今日、浜風さんと京乃さんが告白してくれたシーンが脳裏に甦る。
二人ともとても可愛かった。
あんなに可愛くて性格の良い女子から、俺が好きだって言われる人生なんて、まったく想像もしていなかった。しかも同時に二人から。
今、俺が一番思ってること。
──あまりに幸運すぎて、俺は今夜寝たらそのまま死んじゃうんじゃないだろうか。
もちろんそんなことはないのだろうけど、マジで不安もある。
それくらいあり得ないことが起こっているのだ。
しかし実際には、俺は生きていて明日がやってくることを考えると、ちゃんと二人の気持ちにどう答えるのかを考えないといけない。
「とは言ってもなぁ……」
京乃さんも浜風さんも、俺にとって大切な同僚であり、友達だ。
なんなら、理想のカフェを共に作ろうとする同志、とさえ言える仲間。
その二人のどちらかを選ぶなんて、とても難しい選択だ。
それでもあの二人は『選ばれなかった方の気持ちとかは考えなくていいから、素直に俺の気持ちに従って選んでほしい』とまで言ってくれている。
だから俺は、ちゃんと自分の気持ちに向かい合って選択をしなきゃいけない。
どちらを選ぶのか、それともどちらも選ばないのか。選択肢は3つだ。
俺は、京乃さんと浜風さんの二人とも好きだ。大好きだ。
だけど異性として、恋愛の対象として好きなのかどうかなんて、今まで意識をしてこなかった。
──というか、カフェで働く仲間であり、学校では手の届かない高嶺の花である彼女達に、恋心なんて抱くべきではないと考えていた。
だから俺は彼女達への恋心を抱かないように、無意識のうちに自制していた気がする。
だけど昨日、浜風さんや京乃さんから嫌われたんじゃないかって思った時に、とても胸が苦しかった。
今になって考えると、もしかするとあれは、彼女達への恋心の現れだったのかもしれない。
──だとすると俺は京乃さんと浜風さん、どちらに本物の恋心を抱いているんだろう?
自分の気持ちを自分で探る。天井を眺めながら、そんな思考を繰り返す。
しかしことはそう簡単ではない。自分のホントの気持ちを見つけ出すのがこんなに難しいだなんて、今まで思ったこともなかった。
「勢いで、一週間で答えを出すなんて言っちゃったけど、失敗だったかなぁ」
でも時間をかければ正解が見つかるというものでもない気がする。
時間制限があった方が一生懸命考えるし、答えが見つかりやすい気もする。
色々と考えていると、彼女達をまだ遠目に見ていた頃や、カフェのバイトとして最初に出会った時のことなんかも思い出した。
まだそんなに日が経ったわけでもないのに、遠い日のできごとのように感じて懐かしい。
そしてそれらの想い出一つ一つが、既に俺にとってかけがえのない大切なものになっている。
そんなことに気づいた。
答えが出ないままぐるぐると色んなことを考えているうちに、ついうとうとと眠りに落ちた。
***
翌日。月曜日。
登校して下駄箱を開けると、淡い水色の封筒が入っていた。
なんだこれ。まるでラブレターみたいだ。
あはは、ラブコメじゃあるまいし、俺にラブレターなんて来ないよな。
いや、もしかして浜風さんあたりが面白がって入れたとか?
なんて思いつつ、封筒の中身を見た。便箋が入っている。
『秋月 雄飛さま。
突然ごめんなさい。同じクラスの田中美香です。
放課後、秋月君とお話がしたいです。
ホームルームが終わったら校舎裏の中庭で待っています。
勝手なお願いで申し訳ないです。
よろしくお願いします!』
これは……同じクラスの田中さんが差出人か。
えっと……マジでラブレターみたいな文面にも見える。
でも違うかもしれない。
誰かのいたずらかもしれない。
「おっはよぉ~雄飛君!」
「ふわぅっ!」
突然後ろから浜風さんの声が響いて、飛び上がった。
いや今のはびっくりしすぎて、マジで20センチくらい飛び上がった。
「どうしたの? 大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
浜風さんは急に声のトーンを下げて、俺だけに聞こえる声で囁いた。
「ごめん。昨日あんなことがあったから、あたしから声を掛けられたら、そりゃ驚くよね」
ちょっと寂しそうな口調だ。
「いや違う。そうじゃない。全然違う理由でぼーっとしてたから驚いたんだ。浜風さんが声をかけてくれるのは、全然構わないから。気にしないでいいから」
「そう? ホントに?」
「ああ、ホント。嘘偽りなし!」
「そっか。よかった」
ホッとした顔の浜風さん。よかった。
「で、全然違う理由でぼーっとしてたって、なにがあったん?」
いや、そこ、ツッコまないでくれ!
ラブレターをもらったかもしれないなんて、口が裂けても言えませんっ!!
「まあ、気にすんな。次のテストの範囲予想で悩んでたんだ」
「ふへぇぇっ……まだ期末テストまで1ヶ月もあるのに、雄飛君って真面目だね」
「おお、そうだよ。俺は真面目だ」
「だよね。知ってた。あはは」
「そこ笑うとこじゃないから」
浜風さんは、ホントに今までどおりの感じで明るく接してくれてる。
自分の気持ちが俺に受け入れられるか、不安な気持ちもあるだろうに。
ああ、浜風さんって、マジでいい子だよな。
俺達は雑談を交わしながら教室に向かった。
***
教室に入ると、田中美香さんが友達と二人で立ち話をしているのが目に入った。
TOP3美女ほどではないが、田中さんも可愛いくて割と人気のある女子だ。
特に彼女の姿を探したわけじゃないけど、視界に入るとやはり意識して目を向けてしまう。
田中さんもこちらに視線を向けて目が合った。
もしかしたら俺が登校するのを意識していたのかもしれない。
彼女は俺に向かって軽く会釈した。
この感じからすると、さっきの手紙はいたずらではなくて田中さん本人が書いたものだ。
そう直感した俺は、目礼で返した。
手紙を見たよという意図は伝わったようで、田中さんは軽く微笑んで友達との会話に戻った。
そこでようやく気付いた。
──あ、やばい。
今の動きが浜風さんにバレたかも。
背筋を冷や汗が流れた。浜風さんに目を向けた。
──あれ?
浜風さんはもう横にはいなかった。
「おっはよー!」
「おお、鈴々、おはよ」
足立君達『いつメン』のところに駆け寄っていた。
どうやら田中さんのことは、まったく気づかれていないようで、助かった。
***
放課後を迎えた。
俺は田中美香さんがくれた手紙の約束を果たすため、裏庭に向かった。




