42.撤退
「じゃあ、ナンシーさん指示を」
リリーナが今回の分隊長であるナンシーに指示を仰ぐ。
「あ、うん…
………えっと…リリーちゃん、こんな状況で悪いんだけど。いや、こんな状況だからこそ!リリーちゃんに指揮して欲しい!」
「え?私ですか?」
「うん、正直ね、私にリリーちゃん以上の指揮をできるとは思えない。9年生とか関係なく、実力でね。リリーちゃんの指揮の方が生存率が上がると思うの!みんなもそう思わない?」
ナンシーは本気でそう思っていた。先程までの状況なら9年生として分隊長を務めるのになんの問題もなかった。
先程のレイン中佐の話を聞く限り、状況は悪い。本当に命がかかっているこの状況では学年など関係なかった。ナンシーは自身のプライドなど捨てる選択をできる程客観的に状況をみていた。
「私、ナンシーはかなり優秀だと思うよ。状況判断なら首席のアーベルよりも的確だと思うから、だからいつもナンシーが指揮することに異論はないの」
そこでナンシーを見ていたアグノラがリリーナをみる。
「でもね、リリーナ。君がいるなら話は別。私もリリーナが指揮することに賛成」
「え?アグノラさんまで?」
「リリーちゃんの指揮に異論がある人はいる?」
ナンシーが全員をみるが、8年生からも反対意見が出てこない。
「……これが全員の意見なの、リリーちゃんお願い出来る?上級生とか関係ない!私達はリリーちゃんに従うわ」
リリーナは逡巡するが、ここまで言われると否定する理由がなかった。
「……先輩たちいいのであれば。分かりました。
「ありがとう!」
「こうなった以上、ビシビシ行きますよ!」
ナンシーは笑顔で返す。対抗戦を経て、この場に反対意見のあるものはいない。ましてや、リリーナの人となりを知った今なら命を預けられると思っていた。
リリーナとしても先輩が問題ないのなら別に良かった。前世からチームリーダーとして指揮していたので、慣れているのだ。
シア達、同級生はリリーナが1番だと思ってはいても9年生の手前言うのは憚れた。言ってくれてとても有難く、ナンシーの評価はむしろ上がっていた。
「それじゃあ、これより移動を開始する。全員私に追従して」
「「はいッ」」
リリーナの指示で南下していく。リリーナ達のいた場所は14区で、クウィントンの北側に位置する。つまり、ルンドバードが攻めてきている場所に近い位置だ。先程のヘリも指揮能力低下の為に、1機だけ軍支部へ先行して向かっていた所を目撃したのだ。
まだルンドバード軍はアルステリア軍本隊と交戦しているため、この時点ではクウィントンにいる敵は戦闘ヘリ1機のみであった。
しかし、彼女達はどの程度攻め込まれているか、知る由もない。警戒しながら移動するしかなかった。いつでも建物などの物陰に隠れられるように位置取りして進むしかなかった。
……はずだった。
「敵機は既に北東を回って北に抜けて行きました。ここに敵はいません。急ぎましょう」
リリーナの目が紅く輝き、直ぐに元に戻る。レッドアイの瞬間発動だ。敵がいないのが分かっているために、道路を普通に走っていた。
「……あの後、映像見直したけどさ、えぐいね」
「ハハッ!なんだそれ?ハハッ」
「これが、リリーナちゃん」
「味方でよかった…………」
これには8、9年生も苦笑いしていた。学年対抗訓練でコテンパンにされた要因でもある能力が今、行使されている。自らが敵として体感していることもあり、味方としてはこれ以上なく信頼できた。
「リリちゃんは能力使えるんだね」
「これは多分なんだけど、体の外に作用する能力が使えないんだと思う」
「なるほど、魔力による事象があのオーロラに阻まれている。だから身体から魔力が外に出るタイプは発動しないのか!?」
ナンシーが直ぐに理解する。流石の9年生成績優秀者であった。
「ああ!リリーと私はあくまでも自分への魔力効果ってことか」
「そう、魔法関係はもちろんだけど、アグノラさんのギフトも道具への付与になるから出来ないんだと思う」
「流石に毒を自分に付与出来ないもんなぁ」
「ミシェル、この道であってる?」
「うん、この道を道なりに行けば南門まで繋がってるよ」
「よし、今のうちに飛ばします!」
リリーナはペースを上げる。たまに振り返りながらレッドアイを使用して安全を確認して、走る。
クウィントンはノーステリア程ではないが広い街だ。
車両が使えない今はどうしても時間がかかる。それでも南門にほど近い位置まで走ってきた。南門まだ先であり大きくもないため見えないが、避難している市民達を数人見かける。彼ら避難民は老人が多く、数人の子供もいた。
既に大部分は街から出ており、追いついた市民達は最後尾となる人々だった。
他の兵士達や他の学生達は見当たらない。
「市民に追いつきました、最後尾でしょうか。警戒しつつ避難誘導します。ただし、小型無線が届く範囲から離れないようにしてください」
「「「了解!」」」
「はぁはぁはぁ、みんな早すぎ…………はぁはぁ」
今回のトラック担当の輜重兵であるロニーは何となく流れでリリーナ達についてきていた。本来は正規軍人であるロニーが指揮を執るべきなのだが、慌てふためいていたせいで、彼女達には戦力と見なされていなかった。
彼はまだ2年目の兵士であり、軍学校出身ではない一般兵士である。比較的安全な後方、学生と同じ仕事を振られているのはそのためであった。
ロニーからすれば彼女達が異常なのだ。
__
この子達、足早くない?この状況で落ち着き過ぎじゃない?噂には聞いてたけどほんとに軍学校やばい。
あとあのリリーナって子、なんで下級生なのに指揮してるの?様になってるけども……
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ロニーは色々思うことはあるが、この短時間で見せつけられたため、何も言わない。それが生存率を上げるとわかっていた。
「リリー、ミシェル!孤児院の子達が向こうから来てる!」
カンナが指差した方向には、昨日会ったクウィントン孤児院のみんなが走って避難してきている。どうしてもまだ幼い子供達がいるため、速度は出せないようだった。
「みんな!」
「ミシェル!!」「ミシェルねぇー」
ミシェルと子供達が抱きしめ合う。一先ずは互いの無事を喜んだ。ミシェルはずっと気掛かりだったため、ホッとして、既に涙ぐんでいる。
「すみませんが今は時間があまりありません。ここからは一緒に避難しましょう。護衛します!」
少し落ち着いた所を見計らって、リリーナもシーラに話かける。リリーナは冷静に務めているが、ここまでで既に30分以上経過していた。
「はい、お願いします」
シーラもハッとして頷く。ぞろぞろと進むがやはり子供達の速度は知れていた。それでも避難の列に沿って進む。
リリーナは定期的に振り返りレッドアイを使用する。
「わぁー!カッコいい!」
「リリーねぇ目あかかった!」
「おぉー」
子供達はそれを見てはしゃぎ始める。初めて見るモニカさえ驚いたので子供達も無理もない。
「こらこら、スコット、クリス、いいから進みなさい」
ミシェルが注意するがベッキーも含めてみんなが憧れの表情でリリーナを見ていた。
そんなリリーナだが、遠くを見ており、対応する余裕はなかった。務めて冷静に作戦を考える。
「ナンシーさんとアグノラさん、カンナ、シアは私についてきて下さい。後は大至急、市民の避難を急がせて、敵がきた……」
「っ!?それってやばいじゃん!?」
「いえ、まだ1機だけです。私達で迎撃します!」
「わ、わかった……」
「ロニーさん、その銃をお借りしたいです」
「……」
ロニーは即答出来ない。それはそうだ、唯一の武器を直ぐに手放せるものではない。しかし、リリーナ達はハンドガンしか持っていなかった。
「あ!もし嫌であればついて来てください。どちらにしますか?」
「……………」
リリーナの目はロニーをしっかりと捉えていた。この2択以外の選択肢を選ばせるつもりもなかった。
この状況で唯一の武器を渡し、何も武器がなくなることは心細いとかそんなレベルではない。パニックになってもおかしくないだろう。
貸すのは勇気が必要だった。しかし、自ら迎撃に行くのはさらに勇気が必要だ。
ロニーは悩む。
「時間がありません。直ぐに決めてください。3、2、1」
「分かった!渡すから!」
ロニーは銃を貸す選択をとる。リリーナは銃受け取りながら微笑む。
「良かったです。これが最良ですよ」
ふふっと笑ったリリーナは手馴れた手付きでその銃、アサルトライフル【レックス】を装備する。
ロニーは身長が自分よりも低く、まだまだ子供のはずのリリーナがネームドの様な歴戦の兵士に見えた。
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