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『山賊と暗殺者』

投稿が予定より一日遅れてしまいました。申し訳ございません。



 先生は言いました。

 合宿期間中は、基本班行動だってさー!

 連帯責任、その言葉が重く圧し掛かるね?


 一学級、基本四十人。

 五人一組の班を作れば全部で八班。

 特に組合せの指定もなく、自由に班分けして良いって事だったけれど、合宿期間中の班だ。

 一緒に訓練をこなしていくからには、なるべく実力の近しい相手が良い。

 私達のクラスは、一年生最初の親睦会(乱闘ごっこ)の際に組んだ班で行動する事が多い。

 今回の合宿も、私達は自然と親睦会の時の班構成に分かれていた。

 私の班もまた、親睦会の時の面子で結成されている。

 なんだかんだ、実力が近いし気心知れてるしで、班行動の時は何となくこの面子になるんだよね。


 班を構成するのは、私、ミシェル・グロリアスと!

 みんなのフォローが絶妙に上手い班長のオリバー!

 成長期ではあるものの、身体が完成していないが故にパワー不足が否めない面子の中、圧倒的な腕力で不足を補いつつも気遣いの回るエドガー!

 必要がない事は言わないけど、必要なことも時に言わないから気が付いたら一人でなんかサクサク仕事をこなしていたりする職人気質なマティアス!

 そしてお調子者で騒がしく、賑やかし要員みたいな気配を漂わせつつも実はクラスで一番器用で技巧に長けたフランツ!

 大体、この五人で固定メンバーだ。

 班名はずばり、『チーム下克上』。なお、命名は私である。

 だけどクラスの皆には、『強襲班』って呼ばれてるんだよな。何故か。


 ……うん? ナイジェル君?

 奴なら戦い方の傾向から戦術面の方針まで、何から何まで私達とは異なるんで別班を率いてるよ。

 そう、ナイジェル君は班を率いてるんだよ。

 これもまあ、親睦会の頃から、そうだよね。

 ナイジェル君って、ほら、わかりやすく目立って活躍する派手な面々の陰に潜み、人の目を逸らして暗躍するタイプだから。

 彼が率いるのは、これまたナイジェル君の無茶ぶり感ある指令を確実に果たす能力を持った面々だ。

 うちのクラスで一番薄暗い経歴を持つ陽気な元暗殺者ノキア。

 高貴なる血筋に生まれ、うっかり密林で育ったガチの野生児セディ。

 どう考えても天職:奇術師(マジシャン)なトリッキー野郎シモン。

 シモンやフランツとは別の意味で器用値が高い芸術肌なラインハルト。

 面子からして、尖ってやがる……どう考えても正攻法より搦手の方が得意だろ。

 そして実際、班対抗の模擬戦とかでかち合うと搦手で攻めて来る。

 ナイジェル君が司令塔って時点で、一瞬の油断も許されない。

 ある意味で最も手強いメンバーなんだよなー……。

 彼らの班名は『チーム千客万来』。

 でもみんな『チーム裏街道』って呼んでる。


 他にも赤太郎や、赤太郎の面倒を王家に頼まれてそうな血統とお行儀のよろしい面々で構成された、正攻法一直線な『赤獅子』とか。

 教科書通りの常道に囚われがちだったのに、クラス内で模擬戦やらなんやらを繰り返す内になんだか心身ともに逞しくなって、奇策で責められても簡単には蹂躙されなくなってきた委員長達の『銀時計』とか。

 私達のクラスだけでも、入学直後に比べたら班ごとの特色が確立されてきた。

 なんというか、うん、バラエティ豊かだよね?

 これに加えて更に、他のクラスや学年も合同で訓練するって言うんだから……個性的で尖った班は事前にチェックしておきたいところだ。

 ナイジェル君、情報売ってくれるかな……でも合宿中は班別行動だしな。

 私達がナイジェル君にとって利となるなら、共同戦線張って情報も共有してくれるんだけど。

 もしも対立なんてしようものなら、これ以上に厄介なことも無い。

 うん……ナイジェル君達とはなるべく敵対しないようにしよう。

 どっかの班をカモにする必要がある時は、真っ先に赤太郎の『赤獅子(あかにゃんこ)』襲っとけば間違いはないだろう。

 赤太郎、ヤツは知らない。

 入学してすぐ、意気揚々と大志を抱いて名付けた班名が、裏でこっそり『あかにゃんこ』とか『あかねこ』と呼ばれていることを……。

 これもヤツの人徳のなせる業である。




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 午前中の体力づくり、基礎訓練を終えたら、午後はコース別に分かれての訓練だ。

 私達魔法騎士コースは、魔法関係を優先して磨く他コースとは違って身体能力や物理攻撃面の技能向上も重要な課題になっている。いや、魔法騎士目指してるんで魔法も重要なんだけどね?

 能力を強化する上で一人一人、それぞれに課題となる弱点があるのは他のコースも同じだろうけど。

 その課題が、魔法面に限らないという意味では、他のコースよりやること多いかもしれない。

 私達を直接指導してくれるのは、魔法騎士コースの諸先生方。

 ……ぷらす、師父。

 師父、学園にはダンス講師として来てるはずなんだけどな?

 私と師弟の契りを結んだよしみで、直接の指導に加わってくださる。

 能力面を鑑みれば、大変ありがたい事ですな?

 そして軍関係のトップに君臨する将軍閣下も、こっちである。

 他のコースも見て回りはするけれども、魔法騎士コースを重点的に指導してくださるそうな。

 参ったね、私達のコースばっかり優遇されてるって他のコース生に妬まれちゃうね?

 一瞬そんなことを思ったが、安心してほしい。実際に妬まれる事はない。

 むしろ厄介な特大級の脳筋を引き受けてくれるものとして、他のコース生には歓迎されているようだ。

 指導の厚さ的に魔法騎士コースの比重が他より多くない……?


 後から知った話だけど。

 当然ながら将軍の地位にある方は、長く職務を離れられる程に暇ではない。

 合宿期間中、ずっとはいられないんだそうだ。

 だから合宿の前半だけ参加して、後半は王宮に帰るんだと。

 そのタイミングで、将軍と入れ替わりに王宮の魔法師団長がやって来るらしい。

 もちろん、将軍と同じく特別講師としてのご参加である。

 魔法師団長が重点的に指導するのは、魔法を専門とするコースの奴等。

 主に実践魔法コースだな。

 魔法騎士コースと同じく、他のコースにも特別講師はやって来る。

 普段はお目にかかる機会すらない王国上層部の猛者に直接指導してもらえる。

 それだけを見ても、地獄の強化合宿は得難い機会って言えるんじゃないかな。


 

 まあ、そんな訳で。

 コース別の訓練メニューなんだけど。

 私達にまず配られたのは、重量感ある装備品……いわゆる重りだった。

 いや、午前中の基礎訓練中も他コースとの差をつける為に重り着用してたんだけど。

 先生方は言う訳だ。

 コース別の訓練では、この上さらに重量を増やせと。

 周囲の生徒達に配られていく、鎖帷子に似た重り。

 私に渡されたのは、亀の甲羅だった。

 ちゃんと背負えるように紐付きだよ、やったね!


「いやなんでだよ!!」

「フランツ、速攻でのツッコミ有難う」


 何の疑問も持たずに大きな甲羅を背負った私。

 そんな私へ、驚愕と疑問に満ちた視線を殺到させる周囲の生徒達。

 一部、先生も何人か遠い目をしていた。


「俺らみんな鎖帷子! ミシェルは亀の甲羅! なんでだよ!!」

「これはちょっと……一人だけ特別扱い、というのとも違いますわよね」

「むしろ嫌がらせなんじゃ……?」

「だけどこの甲羅、物凄くしっくりくるよ。素敵なジャストフィット具合で」

「ミシェル、その甲羅の重さ何㎏ぐらいだ? 俺らの帷子より軽かったりするのか?」

「重さ? えーとねー……こんくらい?」

「俺達の帷子より、むしろ五㎏重い、だと……」

「やっぱ嫌がらせだろ、亀の甲羅!!」

「しかし実は亀の甲羅(これ)、私から師父へのリクエストなんだな」

「なんでだよ!!?」

 

 いや、でもさ。

 重りって言ったら亀の甲羅じゃね?


 午前中の訓練で渡された重りが、他の皆と同じだったからさ。

 てっきりリクエストは棄却されたもんだと思ってました。

 一回駄目だったと思わせといて、まさかここで出してくるとは……。

 リクエスト自体、ネタだったとは言わないでおこう。


「ミシェル……お前がそんなに亀好きだったとは」

「確かに、お前のペット亀だけどさ」

「ミシェルなりに亀を大事にしてるのはわかるよ。だけど甲羅を背負う程なの……?」


 理解できない。

 気心の知れた班員達から、そんな目で見られた。

 ついでに班員以外の生徒達からも正気を疑う目で見られた。

 でも私、気にしない!

 だって一回、やってみたかったんだもん。

 亀の甲羅を背負って修行、見るからに楽しそうじゃね?


 私一人、異質な姿を晒しつつ。

 それでも配られた重りを全員が手早く装着した頃。

 魔法騎士コースの先生から一人、私達の前に進み出てくる。

 どうやら午後のメニューについて説明をする気のようで。

 なんだか、露骨に私を見ないな。あの先生。


「ええと、皆さん。準備は出来ているようですね。それではこれからやることを説明します」


 先生は仰った。

 本日は訓練初日。

 今までは各学年ごと、クラスごとで訓練を積んできたが、合宿期間中は学年やクラスの垣根を取り払い、魔法騎士コース全体で合同訓練を行っていくと。

 しかし今まで合同の訓練はしてこなかった為、互いの実力を知らない筈だと。

 特に学年を隔てた相手とは、どれだけ差があるのか。

 これからともに訓練を積んでいく為にも、互いの実力をある程度知っておいた方が良い。

 相手に合わせるには、相手を知らなければならない。

 そして相手を自分のいる高みへ引っ張り上げるには、やはり相手が今どの位置にいるのか知らなければ。

 だからこそ。


「本日は本格的な訓練を始める前段階として、互いへの理解を深める為に簡単なルールのゲームを行います。初日であるからこそ、今日だけのサービスメニューだと思ってください」


 ……どうやら今日は交流と理解を深める為の、お遊びを行う模様。

 そうして先生が口にしたのは、『山賊と暗殺者』という聞いたことも無いゲーム名だった。

 曰く、王国の騎士団ではお馴染みの、訓練を兼ねたゲームとのことだが……

 一般に名前を知られていないあたりに、なんかマニアックな気配がすんだけど。

 というか騎士団限定で知られているゲームって時点で色々怪しい。

 何をやらされちゃうんだろう。

 魔法騎士コースは先生が説明している間、黙って拝聴が基本ルールだというのに、それでも不安が増したのか若干さわさわしてしまっている。

 さわさわしつつ、先生の説明をしっかりと聞き取っていた。


 しかしあの先生、最後まで頑なに私を見ようとしなかったな。

  


先生の口から出てきた謎のゲーム『山賊と暗殺者』

その基本ルールの原型とは?


a.鬼ごっこ

b.かくれんぼ

c.だるまさんが転んだ

d.すごろく

e.チャトランガ

f.かごめ

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― 新着の感想 ―
[一言] G、筋トレしながらの実写版クソ映画耐久マラソン上映会
[一言] a.鬼ごっこ 基本ルールは単純だけど、微妙に地方独自ルールとか、手加減のためのルール作り可能とか、アレンジしやすそうなので。 亀の甲羅をせおうミシェルを頑なに見ない先生、実は新たな転生…
[一言] 発想が小学生男子 全部を混ぜたハイブリット競技かな(原型がのこる気配がない)
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