そうして話は今に至る
「って言う事があったんですよ」
私は、前世で神と出会った話をミリエルさんにしていた。
いやだって、ミリエルさんが聞きたがったから。
そして今、丁度、前世での幽霊時代に神と遭遇し、助言を受けて不審者の地縛霊を殴り落とした(地獄に)話を終えたところである。
だけど何故だろう。
ミリエルさんが聞きたいって言ったはずなのに、なんか頭を抱えていらっしゃるぞ?
「濃い……っ! 濃すぎるのよ!」
「そうかな? まあ、そういう経緯を経て今現在、こうしてこの世界にミシェル・グロリアスとして生まれ変わった訳だけど」
「……って、ちょっと待って! 今なんか大事な経緯抜かした!? 大事なところ抜かしたでしょ!?」
「はて?」
「いやだから、さっきの話だと不審者を殴って地獄に堕としたってとこまでだったじゃない! その直前の会話じゃ転生するしないについて、しないって言いきってた訳でしょ? それがいきなりなんで不審者殴ったら転生したって話になってるのよ。間が抜けてるじゃない、間が! 絶対そこで何か神様とやり取りしてるでしょ!? 転生の話に承諾するくだりはどこに行ったのよ!」
「あまり重要じゃないんで省きました」
「いや省かないでよ! 話が唐突に飛んで、こっちが追いかけられないわよ! 脈絡もっと大事にして! 乗り気じゃなかったのに転生する気になった、重大な心変わりの描写があるでしょう!?」
「えー……特には?」
「特には!?」
「ああ、そういえば転生に当たっていくらか説明がありまして」
「説明。聞きましょう」
「なんか前世の世界の、あの乙女ゲームのせいでこの世界は崩壊の危機らしいですよ」
「突然横殴りの勢いで衝撃の情報ぶちかますの止めて!? それなんか凄い重要そうなヤツ!! 崩壊の危機とか普通に聞き捨てならないんだけど!?」
どういう事よ、と私に詰め寄るミリエルさん。
どういう事も、そういう事だよ。
「なんか神様曰く、この世界とあの乙女ゲームは『本体』と『呪いの藁人形』くらいの関係だそうで」
「あの、だから、何度も言うけど、いきなりぶっ飛んだ情報ぶち込んでくるの止めて?」
「奇跡の一致率、というかゲームの製作サイドの誰かに透視能力か何か特殊能力持ちがいて、次元を超えて別世界の情報を読み取った、くらいに考えないと辻褄が合わないって神様が言ってたんだけどね? ミリエルさんもご存じの通り、この世界のあらゆる情報や歴史・文化・人物なんかがゲームの設定と一致するんですって」
「……うん、そこまではわかるわ。偶然の一致なんかじゃあり得ない、この世界はあのゲームの世界なんだって確信していたもの。………………私に訪れる展開だけが、なんかバグってたけど」
「そのバグは私が原因ですわね。まあ、そうです。この世界のあらゆる情報を踏襲し、模造された世界。この世界をコピーしたと言っても過言じゃない訳で」
ゲームには出てこなかったし、ファンブックとかにも書いてはなかったそうだけど、なんと世界の名前まで同じなのだとか。模造された世界に、本来の、本物の世界と同じ名前が与えられた。
すると、あら不思議。
「……なんか、コピーともいえる世界に、こっちの世界そのものが寄せてきたそうなんですよね。歴史やらを」
「は? なんでそうなるの? 今の話を聞くと、この世界こそがオリジナル! って感じだったんだけど?」
「そう、オリジナルはオリジナルなんだよ。だけど自分をコピーした世界が『未来に訪れる展開』としてシナリオを刻んだ結果……シナリオは複数あるけど、共通の設定や出来事ってあるじゃないですか。世界がそれに寄せてきたそうな」
「だからなんで世界の方がゲームに寄せてくるの!? ……ハッだから『本体』と『藁人形』の関係!?」
そう、つまりはそういう事なんだよ。
対象の髪の毛を入れて、名前を付けた藁人形に釘を刺したら、呪われた本人の同じ部位が破壊されるのと同じように。
模倣したデータの世界につけられた設定や歴史に、模倣された世界が影響を受ける。
結構、世界ってのもあやふやで危うい物なんだなと思った。っていうかゲームに影響受けるなよ。
私達の世界には実際の歴史をテーマに作られたゲームもあるだろうに……この世界が惰弱なだけなのか、あるいは前世のゲームがやたら影響力強かったって話なのか。
まあ、世界云々の壮大な話は私には知った事じゃない。
だけど、まあ、同情はする。
あんなファンシーきゅるるんっとしたパッケージのゲームに、世界規模で影響されるとか恐怖でしかねーよ。
しかも、その結果。
「まあ、そんな訳で。あのゲームに世界の方が寄せてしまった結果、邪神復活の未来が確定してしまった訳です。ざっと今から一年以内に」
「さらっとなんてことを! ……ああ、でも、ゲームの全ルート共通の設定や歴史に寄ってるんだっけ? 邪神はラスボスだもん。確かに、全ルートで漏れなく復活してるわね……」
「本来、そうそう簡単に揺らぐ封印でもないし、滅多な事じゃ復活する筈なかったらしいんだけどねー。神様も頭抱えてたわ。ハハハ」
「なんてこと。罪深いわ、あのゲームの製作会社……」
「しかもゲームに登場する重要人物が何人か実際には存在しない人物だったせいで、ゲームの設定を踏襲しようとする流れに歪みが生じて、なんかよくわからん原理によって世界消滅の危機にまで行きかけたとか」
「知らないところで、なんかエライ目に遭いかけてるんですけど!? 世界規模で!」
神様もそりゃ頭抱えるわって感じだよね。
自分の作った世界が、自分の知らないところで、なんだかよくわからないファンシーなパッケージのゲームによって消滅の危機とか。
私だったら絶対嫌だわ、と。
うっかりそこで神様に同情してしまった前世の私。
おまけに日本人の仕業で、という部分に私が感じなくてもいい罪悪感まで芽生えてしまった。私には責任一切ないのにな! 全くの他人事だったのにね!
神様への同情と、義侠心。
それが私が転生を受け入れた原因の三割ってところである。
残り七割? ああ、それね。
話を聞いている内に赤太郎その他諸々の王子達が存在する上、放って置いたらゲームキャラ通りの人物になるし、同じことをやらかすって聞いたもんだからさ。うん。
殴りたくなったんだ。
私の、この拳で。
「神様曰く、歴史は世界規模の大筋さえ整っていれば融通が利くって話だった。そんで歴史の辻褄合わせ要員あーんど、ゲームに登場して重要な因子として活躍する筈なのに実際には生まれない人員補充の為、世界が滅茶苦茶になるそもそもの原因……あのゲームを作り上げた人間がいる前世の私達の国へヘッドハンティングに」
「ヘッドハンティング」
「なお、その単語を聞くと私の脳内には首狩り族的なイメージが連想されます」
「意味が全然違うわよ!? 直訳すれば確かにそれっぽいけれども!」
実際に責任取らせる為、ゲーム会社の人間を転生させようって神様も最初は考えたらしい。
でもね、実際にどういう人間か見に行ってさ……
魂の薄汚れっぷり、その汚れ方に「あ、こいつぁ駄目だ」と一目で悟ったそうな。
こいつを転生させても、問題しか起こらねえだろうと。
そこで責任の解釈を範囲拡大して、同じ民族全体にまで責任追及の範囲を広げたらしい。とても迷惑な話である。
求める人材の、最低限備えてほしい条件は次の通りだったらしい。
一、別の世界でも問題なくなじめる順応性を持った、若い魂。
二、例のゲームのプレイ経験があり、ある程度内容を把握している事。
三、どんな事態に遭遇しても、自力で切り開ける力と臨機応変な精神。
四、転生後の世界に悪影響を与える事はないだろう、邪悪さと無縁な健全さ。
以上の条件に、何故かヒットしてしまったのが、前世の私……水森 栄だったのだとさ。
一旦、断ったけれども。
その後、最終的に話を受けたので、神様もさぞ胸をなでおろしたことだろう。あの物体に胸があるのかは知らんが。
なお、ゲームにいたのに実際には存在しない『重要なキャラ』の筆頭はミリエル様である。
私も最初神様にヒロインやらない?って勧められたけど、断固拒否して今がある。
断って良かった、あんな提案。
誰になら生まれ変わっても良いか確認された時、一か八かでゲームに名前や姿が出ない人が良いって要望を伝えたところ、ゲームのサブキャラ数名と大きな接点はあるものの、本来は死産する筈だった『ミシェル・グロリアス』としての転生が叶った。注文付けてよかった。
神様的にはゲームキャラへの転生者を必要数揃えるのが第一らしいけど、融通は利くらしい。
特に私に求めている役割が、魂が持つ『守護霊特性』が『対復活した邪神戦』の時に何らかの具合で良い様に作用しないかな~っていう割と緩い理由だったらしいから尚更にな。
なんか路上で偶然、守護霊として高い適性を持つ死んだばかりの幽霊を見つけて、是が非でも転生者としてお迎えしたくなったんだそうな。ちなみにその時点では、まさか転生させてあげるよ☆って提案にお断りされるとは思いもよらなかったらしい。最後は半ば意地で私を勧誘していたそうな。
「……ん? ちょっと待って? 実際の歴史が、ゲームの共通シナリオと大筋合致するようにしないといけないのよね? ………………全ルートで共通して魔法学園に通っていた私は!?」
「あ、そこは大陸規模の歴史的事件がちょいちょい拾えていれば良いそうなんで、ヒロイン編入はなくても良かろうと改変するよう手を回しました。なんか邪神が復活するってとこと、人が力を合わせて再封印したって部分を踏んでりゃ良いらしいよ」
「何てことしてくれてんのよぅ!?」
「私だって赤太郎の無自覚な鼻っ柱が気に入らなかったんです! 現実として目の前にしたからには、圧し折ってやらにゃ気が済みません!」
「それで私の人生設計、大きな狂いが生じてるんですけど!?」
「大丈夫、今のチーズ販売にひたむきに情熱を捧げる、村興し実行委員としてミリエルさんも十分に幸せそうでしたよ。正直、輝いてました」
「え? マジで? って、そんな陳腐な誉め言葉じゃ騙されないからね!? ていうか実際にあんたと会ったことがなかった私までここまでシナリオ狂いまくりって事は……赤以外の王子様達とか、一体どうなってるの!?」
「ん? 聞きたい?」
「え?」
「他の奴らも軒並み殴って一度は沈めましたよ。後は、まあ……全く変わらない青汁なんかもいますが、青次郎・黄三郎・桃介なんかは……」
「待って! 王子達の現在を聞いたはずなのに、聞いたことも無い人名ばかりが出てくるの! 超和風! っていうか青汁ってなんだよ、それ名前ですらないわよ!!」
「すみません、本名で呼ぶのは片腹痛くって……ああ、それで王子共ですけど、青次郎は私と目が合う度に挙動不審。性格も前よりちょっと小心者になったと評判ですよ。黄三郎は校内屈指のヘタレとして名を馳せています。それで、桃介は……彼は使い魔の妖精が、背後で行動の是非判定してくるのに怯える毎日ですね。青汁は相変わらずです」
「本当にどうなってるの……!? 何となくどれが誰の事かわかるけど、本当、青汁って何!? というかそれぞれの現在にツッコミどころしかないんだけど、私は一体どこから反応すればいいのよ……!!」
何故か、話せば話すほどミリエルさんが頭を抱えて机に突っ伏していく。
そろそろ、机にめり込みそうだ。
さて?
夏休み前に行われた学術試験で、全コース共通分野では軒並み青次郎を退けて、私が学年首席になったって話はどのタイミングでしたものかな?
夏休み前に行われた期末テスト結果
【共通筆記科目・一学年成績上位者】
1.ミシェル・グロリアス (魔法騎士コース)
2.ナイジェル・リーチェ (魔法騎士コース) 順位↑
3.ディース・バッハ・ブルー (実践魔法コース) 順位↓
【魔法騎士コース・一学年成績上位者】
1.ミシェル・グロリアス
2.ナイジェル・リーチェ
3.オリバー・バークレー




