王家の力(白)
先週に続き、またもや予定より投稿が遅れてしまいました……
お待ちくださっていた皆様、申し訳ありません。
突如、牧場のど真ん中で立ち昇った白い光。
あの根元には、三匹のがらがらd……精霊山羊とバスク氏がいたはずだけど——!?
一体、何が起こったのか。
その場に居合わせた全員(牛·山羊頭含)が固唾を呑んで状況に注視した。
果たして鬼が出るのか蛇が出るか。
目を焼くほどの目映い光が褪せたとき。
そこにいたのは鬼と化したバスク氏(※比喩表現)だった。
全身に鈍く白金の光を纏い、険しくも厳しい眼光で中空を睨み据えている。
その雰囲気、まさに鬼気迫る
えぇー? 超意外ー。
ちょっとの時間しか接してないけど、温厚そうな少年だと思ったんだけどな。さっきまで山羊に振り回されてるだけの、普通の少年だったじゃん。
というか、おいどうしたペーター。
お前、光ってんぞ。
「もしやこれが、王家の力(白)……」
……と、言って良いのかどうか知らんが、何となくそれっぽいことを呟いてみる。
そんな私のその場の雰囲気に乗った呟きに、過剰に反応したのはミリエルさんだ。
彼女はガバッと効果音が付きそうな勢いで私の方へ振り返り、目を見開いた驚愕の表情。唇を震わせながら、嘆きに満ちた声を上げる。
「そんな……そんな、私の覚醒イベント乗っ取られた!?」
「そこかよ」
おーっと? 何やら驚きの感想を聞いてしまったぞー?
っていうか、もうとっくの昔に潰えた筈の覚醒イベント、まだワンチャンあるって思ってたの?
耐え難い思いを込めるように、片手で自身の口を覆うヒロイン、ミリエルさん十五歳。
そこに幼馴染への心配はあるかい?
ご覧よ君の幼馴染、今はまるで人が違ってしまったy……人っていうか、出身惑星が違ってしまったかのようじゃないか。全身に光を纏って厳しい顔をしているところなんか、某宇宙の戦闘民族のようだぞ? 髪は逆立ってないけど。
まあ、纏っている光は金じゃなくて白金って違いもあるけれども。
そしてその足元に、侍る山羊。
おや? 山羊の様子が……動揺も顕わに挙動不審だぞ?
中身にいる精霊の反応なんだろうけれども、気まずそうにおどおどキョドキョドしているような。
それもそのはず。
バスク氏のあまりにもびっくり仰天、あからさまなパワーアップの様子は、精霊山羊たちの存在によって引き起こされていた。引鉄を引いたのは、まさに精霊たち自身。
……彼らが、バスク氏の可愛がっている山羊の身体を乗っ取ったりしなければ。
そう、バスク氏のあの様子。
ミリエルさんが予想していた通り……可愛がっている仔山羊を利用された事への怒りが原因だ。
それはきっと、とても凄まじい怒り。
本来であれば三日後(誕生日)以降に目覚める筈の、血筋に宿る能力の獲得を早める程の。
果たして、力を得たバスク氏は言った。
「調子に乗るのは、いい加減にしろよ」
それは少年ながらに精一杯の、感情を押し殺した低い声。
何故かミリエルさんが気まずそうに視線を逸した。流れる冷や汗。
「ヤバい、バスクったら本格的に怒ってるわ。怒るとあのひっくい声で淡々と理詰めのお説教してくるのよね……反省するまで許してもらえないわ」
ミリエルさん……? さてはお前、経験者だな?
しかしミリエルさんの言うバスク氏の怒った様子? なんというか、十代の少年って感じしねーな? まるで前世で、近所に住んでたOLのおねーさんが酒の入った時に語ってた、冷血ハイスペック上司さん(後の旦那さん)のようだ……。
だけど、どうしたことか。
ミリエルさんの語る、怒った時のバスク氏と今日のバスク氏はちょっと様相が違う。まあ、光ってる時点で色々違うだろうけど。
理詰めでお説教?
いいや、そんなもんじゃない。
彼がまずやったのは……実力行使だ!
徐ろに掲げられた、バスク氏の右手。
五本の指が、金色に光って——!?
あ、あれは、まさか!
ゴッドフィn……あ、違いましたね。残念!
光り輝く様がなんとも彷彿とさせてくれるアレな感じだったら、ちょっと期待したんだけどな。光り輝く五本の指が一番近くにいた山羊(※右の柱担当)の顔面を覆ったところまでは、本当にわくわくしたんだけれども。
しかしバスク氏はそのまま山羊の面を鷲掴みにするのではなく、顔の前できゅっと何かを掴むような仕草。そのまま何かを握り込むような手の形を保ったまま、くいぃーっと手元を引っ張るような動作を見せると……?
「いつまで、うちの山羊の中にいるんだ。いい加減に、か・え・せ……!」
………………。
…………あの、なんか出てきたんですけど。
……結構な大きさの有る、そこそこ存在感の主張強めな、発光するブツが。
バスク氏の手の動きに合わせて、本当に引っ張られるみたいにして出てきたんですけれども。
サイズが段違いだったから、一瞬何かと思ったけれども。
おやおやー? 発光物のあの発光具合には、なんか本当に見覚えがある。
それは身近なところで、日常的に目n……
……あ、ああ、うん。そうそう。
私の顔を覗き込む、三つの光。バスク氏が掴んでいるモノに、とてもよく似ている。
そう、そうだ、そうだった。
丁度こんな形状で、こんな光り具合の——……って精霊じゃね?
『わー、数百年ぶりに見る光景ー。しろい王家のひと、精霊をひっぱりだしてるー』
「おっと思わぬところで確定情報が。どういうことですか、実況のマゼンタ様」
『しろい王家のひと、精霊をひっぱりだしてるー?』
「あ、そうそう。そこの部分について詳しく」
『?』
一体何をどうやって、どんな作用でそんなことが出来るのか。
バスク氏はどうやら山羊に入り込んでいた、その中身。
山羊の身体を乗っ取っていた精霊を確実に掴んで、引きずり出したようだ。
っつうかマジで、どうやった。精霊様を物理的に触るなんて私だって無理だぞ。
だけど精霊であるマゼンタ様がそうだって言うんだから、そうなんだろう。
実際に何が起きているのか、詳しい説明をしてもらいたかったんだけど……既に言った言葉以上の説明や解説は、マゼンタ様の中にないらしい。私の質問に、きょとんとした雰囲気で光を明滅させるのみ。こりゃ人間だったら首を傾げてんな。
そんなマゼンタ様の代わりに、私の疑問に答えてくれたのは別の精霊だった。
誰かっていうか、シアン様だ。
『精霊とのかかわりに長けた、白王家の力じゃの。否、あの力があるからこそ精霊の友として名を挙げたとも言えるのぅ』
「どういうことですか、解説のシアン様。もっと詳しく!」
『生まれつき白王家の直系男子に備わっている力じゃ。あまりに影響力が強い故、何千年か前の白王家の者が子々孫々に渡り、分別のつく年頃となるまで力を振るえぬよう封じた力でもある。あれは、そう、我ら精霊にとっては抗いがたいものがあるでの』
「どうしよう、詳しくとお願いしたけど迂遠な回答いただいている感が凄い。シアン様、率直に言ってみよう! ずばり、白王家の力とは!?」
『言霊、ともまた違うやもしれぬが、精霊に相対した時限定で本気の感情を込めた声音にのみ宿る強制力。それに加えて精霊への強い干渉力(物理)じゃな』
「干渉力、物理なの!? え、物理的に、干渉って……それは精霊に触れるという?」
いま、実際に、見たままの光景ではあるのですけれども。
ホワイト王家の方々は、なんか精霊に触れるらしいよ。物理的に。
精霊が触れる。
それってつまり、殴れるって事だね……?
精霊を殴って止める事が出来る。
加えて、本気の感情が込められている場合って限定的な条件はあるものの、精霊にとって簡単には抗えない強制力のある声でもって言う事を聞かせられる。
それが、白王家のちから。
自由気ままで時に気まぐれな、精霊様達。
自分の頼みたいことを、曲解なく実現してもらうには精霊様との信頼関係や友好度がモノを言う。だってあくまでも、精霊様側の好意で付き合ってもらっているんだから。まあ、精霊様側にもメリットはあるんだけれども。
そんな精霊魔法に置いて、魔法使い側に精霊への確実な抑止力や命令権があったら——?
ああ、うん。
そりゃ精霊魔法使い第一人者にもなるわ。
彼らが精霊使いの王と呼ばれるのも納得の異能だ。
そんな力に絶賛覚醒中の、バスク少年十五歳3日前。
彼は自分が何をやっているのか理解しているのか、どうなのか。
わかっていてやっているのか、脈々と繋いできた血に備わった本能のなせる業なのか。
自分の行動に疑問を持つ様子もなく、次々と可愛がっている山羊の中から精霊を引きずり出していく。精霊が抜けた山羊は、当然ながら山羊だ。ただの山羊だが、今まで得体の知れない精神生命体に身体を乗っ取られて訳の分からない行動(いろんな意味で)を取らされていたというのに……解放されて自由を取り戻したなら、ダッシュで逃げてもおかしくないと思うんだよ? しかし飼い主への信頼が余程強いのか……我に返ってハッとして、実に山羊らしい困惑の様子を見せるものの、バスク氏の顔を見るなり落ち着きを取り戻す。そうして、大人しくバスク氏の周りでぺたんと腹ばいになって見せる。
山羊よ、山羊たちよ。
君ら、それで良いのか?
君達の御主人、今、只人に非ざる感じで超光りまくってんだが——?
山羊って、結構、肝が据わっているらしい。
逆に私の方が困惑しているくらいだ。
落ち着いた様子の山羊をちらりと横目に、見つつ。
バスク氏は摑み取りした精霊達に厳しい目を向ける。それはとってもイライラした感じに。
余程、腹に据えかねたのか。
イライラ故の、衝動的なものか。
バスク氏は精霊達を、手近な別のもの——つい先ごろ、まさに突撃される直前で眼前に光の柱を見せつけられる羽目になり、驚きで立ち竦んだ異形。
山羊頭の魔物に、山羊から引きずり出した精霊を叩きつけた。
私の気のせいで、ないならば。
叩きつけられた瞬間、しゅるんっと。
……精霊たちが、山羊頭の中に突っ込まれた気がした。
山羊頭の魔物へ、精霊様を二体。
更に、ついでとばかりに牛頭の魔物へも精霊様を一体。
力技(言葉通りの意味で)でそれぞれへ精霊様をぶち込み、次いでバスク氏の一言。
「暫く、そこで反省していろ!」
バスク氏、バスク氏、私は君にこう言いたい。
なんでそうなる——? と。
次回か、次々回か。
近々チーズの売人によるミシェル嬢の前世への詰m……尋もn……聞き取り! 質問! そんな感じの回を予定しております。
これにかこつけて、ミシェル嬢の前世について何か質問したい方はいますでしょうか。
お話の内容やミシェル嬢のキャラ的に答えるのが難しい質問は無理ですが、ある程度でしたらチーズの売人による代理質問という形でミシェル嬢に答えさせてみようかと思います。
※質問のご要望が複数ありましたら厳選して五つくらいを採用予定です。
なお、チーズの売人がミシェル嬢に質問予定の一例。
・前世の享年
・前世の人格について
・恋愛への興味
・前世での初恋(好きな二次元キャラは?)
・今後(今生)の目的
・邪神をどうするつもりなのか




