山羊VS山羊
投稿が、予定より一日遅れてしまいました……。
待っていてくださった方々、申し訳ありません。
ただいま、小林の職場はゴールデンウィークの皺寄せ繁忙真っただ中。
小林も漏れなく忙殺されております。
忙しさのピークは来週の為、来週の投稿はお休みさせていただきたく存じます。
避難誘導係、何してんの!?
思わず怠慢だと責めたくなる事態だ。
非戦闘員の避難を進めているのに、非戦闘員が増えるとか。
一体どうなってるんだと、思わず頭を抱えそうになる。
しかものこのことやって来たのが、知らない顔でもないっていう。
なんでやって来ちゃったんだ、隠しキャラ。
敢えてわざわざ危険な場所に来る理由がわからずに困惑するが、それ以上に困惑を見せたのが何故かやって来ちゃったアラバスター・ホワイトご本人だ。
焦った様子で現れたかと思うと、絶賛取り込み中の現場を目撃するや、ピタリと動きを止めた。
改めて、現場の様子を見てみよう!
逃げ惑う民衆(牧場関係者)。
生物の本能が成せる業なのか、勝手に距離を取って一つ所に固まる放牧中の牛。
異様な姿を見せつけるように、巨体を躍動させていきり立つ、山羊頭人身のバケモノ(ビキニ着用)。
その周囲を囲って群がる、もとい武器を手に襲い掛かる魔法学園の同胞数名。
蹲っていたのが、トドメを刺される前に再起動を果たしたらしく、いつの間にか立ち上がっている牛頭人身の魔物と、やはり戦う魔法騎士コースの生徒達。
それを傍観する師父とカロン兄様と、お茶を片手にナイジェル君。
そして両手に亀を持って傍観する私。
……改めて言葉にすると酷いな! この場の混沌ぶりが!
しかもなんか私がそのカオスな現場に、よりシュールな景色を提供しちゃっている気がする!
そんなヤバイ光景を前に目を離せなくなっちゃったのか。
山羊頭をガン見したまま、震える声を絞り出すアラバスター・ホワイト。
だけどその声は、尻すぼみに消えていった。
「や、山羊が暴れているって、いうから……てっきり、う、うちの山羊、かと……」
なるほど。それは明らかな情報不足だ。
どうやらアラバスターは「山羊が暴れている」とだけ聞いて、普通、一般的な、家畜として飼育されている、ただの山羊が暴れているものと思ったらしい。
しかし実際に暴れていたのは、山羊に似て非なるナニかである。
まさか山羊頭の怪物が暴れている、とは思いもしなかった……と。
そりゃ思わねーよな、普通。
見事に情報に踊らされていらっしゃる。
そうか、これが情報伝達のミスによる事故ってヤツか……。
でもまあ、一応、ないとは思う……が念の為に聞いておくか。
「あの山羊は、あなたのお宅の山羊ですか……?」
「ち、違うぞ!? っていうかアレ、山羊じゃないだろ! 山羊に似て非なるナニかだろ?! どう見ても魔物! 人間の手に負える生物じゃないし! 何より手に負いたくない!」
「でも首輪つけてるし……」
「首輪付いてるってだけで、うちの山羊だと決めつけられないから。大体、うちの山羊につけてるのは、首輪じゃなくて鈴だし」
まあ、そもそもあの首輪つけたのは、うちのサブマリンっぽいんだがな! 回り回って私に責任が発生しそうだから断定はしないけども!
よくわからない現場に、事情もよく分からぬまま人が集まり、意味のわからん闘争に突入したのが目の前の現場である。
そんな場に居合わせていながら、他人事よろしく騒ぎすぎたのが駄目だったのか。
ふいに、山羊のギョロッとした目が。
こっちを向いた。
私の手元の亀を目に留め、見ぃつけた……と言わんばかりに弧を描いて細まる目元。
山羊がしっかりと私……の手元のサブマリンをガン見したまま、確かに笑った。気持ち悪い笑顔だった。
やっべ、捕捉された。
みんなが斬りかかっていったどさくさに紛れて、山羊や牛の視覚から外れて気配を薄くしていたのに……。
仲間達の攻撃を無視する形で掲げられた山羊の腕。
ぎゅるっと動いたそこから、大きめの腕輪がすっ飛んでこちらに……って、もしチャクラムかアレ!?
うっそマジで!? アレって実用性の怪しいロマン武器の一種だと思ってた!
驚く私(正確には手元のサブマリン)めがけて、まっしぐら! 円環型の刃が襲い掛かる。
だけど私がマズいと回避するよりも、先に動いた者がいた。
……三名、程。
『――おのれ、我が友を狙うとは慮外者めが』
音としては聞こえない、人とは異なる理で発せられる声が言う。
真っ先に動いたのは、成り行きを私と一緒に見守っていたシアン様。
彼の精霊様が真っ先に、ざっぱーんと水流を迸らせる。
続いて動いたのは、私の手に捕まれたままもぞもぞしていた当家の亀さんだ。
初動こそ精霊様に一歩遅れたが、それでも亀とは思えぬ脅威の速度で。
きゅっぽん!
私の手の中から頭を引っこ抜いて脱走しおった————!!
そのまま亀は、自らチャクラムに、自ら当たりに行った。
やめろサブマリン、いくら何でも捨て身が過ぎる————! そんな自己犠牲、私は望んでないよ!?
驚き、慌てる私。
だけど同時に、『アレがチャクラムごときで怪我するタマか?』と思ってしまう私もいた。素直にペットの心配しないなんて、悪い飼い主ね! 私ったら!
そしてサブマリンが特攻かけてる、その間に。
サブマリンの実力を知らない奴が一人、更なる介入を試みていた。
それは上空、自前の翼で空飛んでる奴だ。空から全体を俯瞰して、状況の把握を第一にしていたが為に私へと迫るチャクラムにも反応していた。
幸か不幸か、血縁上の親父さんから色濃く人外の血を引いているからか、ヤツの——アドラスの反応速度はちょっと凄い。
「――危ない、ミシェル!」
そんな半竜が、私のピンチがやって来た! と完全善意で、行動していた。その手に握った愛用の青龍刀を、私へと迫るチャクラムめがけて投げつける形で。
図らずも、三者三様、三つの力が私へ襲い掛かろうとしていたチャクラムに加わる形となってしまった。三つの力が一つになれば……予想外のハプニングをも、時として誘引してしまうものですね?
なお、ハプニングは、私の真横へ向けて発生した。
多分、それぞれ……それぞれ? 少なくともサブマリン以外は、自分達がチャクラムを弾いた結果、被害の出ない方向へ軌道が逸れるよう考えてくれたんだと思う。サブマリン以外は。
しかしそれぞれが予期せぬ形で、三者それぞれの介入が発生した。
結果。
「ぬぉぉぉおおおおおおっ!?」
大きく弾かれ、たわんだ、後。
何故か当初の軌道から弾きだされたチャクラムは、見当違いの方向へと。
より正確に言うなら、アラバスター・ホワイトめがけて、まっすぐ飛んで行ってしまった。
ホワイト少年の口から、悲鳴が飛び出すのも無理からぬこと。
ある意味、私へと飛んでくるより酷いことになっとる!!
私なら最悪、自分でもなんとか対処できる。だけどホワイト少年は一般人! 武力の武の字もない真っ当な、一般的な男の子のはずなのだ。少なくとも、スペック的には。
そんな少年が、予測なく、いきなり飛び道具を避けられるだろうか。
避けられるはず、ねーよな。
それは例え、乙女ゲームの隠しキャラ兼ラスボスという肩書を、本人が知らぬ間に背負っていたとしても。
これはヤバいのでは。
焦りに顔も引き攣ってしまう。
ホワイト少年が下手したら死んでしまうかもしれないんだから。その最悪の事態を遠ざける為、私にできる事は——!?
焦りばかりが募って、実際に動き出すには遅れてしまう。
そうしている間にも、チャクラムはアラバスター・ホワイトに迫っている。
それはまさしく、一瞬の出来事で。
鋭い円状の刃が、それこそホワイト少年に触れるかどうか、そんなタイミングだった。
「め゛ぇぇえええええええっ」
私とアラバスター・ホワイトとが立っている間を、電光石火。
ナニかが走り抜けていったんだ。
弾き出された結果、本来の速度と威力を失いながらもホワイト少年めがけて飛来しようとしていた、山羊のチャクラム。
真横から、そこにぶち当たりにいったモノがいた。
私は、至近距離からソレを見ていた。
私達に攻撃してきた、頭が山羊とかいうバケモノじゃない。
徹頭徹尾、山羊そのもの。
正真正銘の山羊が、チャクラムへと頭から突っ込んでいた。
「え、えぇ!?」
アラバスター・ホワイトも、それを至近距離で見て戸惑い交じりに声を漏らす。
チャクラムなんて、刃の塊だ。
真っ当なイキモノが突っ込んでいって、無事で済むはずがない。
なのに私の目の前に、チャクラムを吹っ飛ばしてなお、健在に。
四つの足でしっかりと立つ、健康そうな図体の山羊がいる。
頭から突っ込んでましたよね?
普通なら、斬れて大怪我負ってるもんじゃないっすかね?
疑問は、私だけでなくホワイト少年も同一のものを持ったようだ。
「め、メリッサ? メリッサなのかっ? 今は放牧中の筈なのに、なんで此処に……っ」
そして山羊は、どうやらホワイト少年ん家の飼い山羊だったらしい。
……あんな山羊育ててるって、どうなってんのホワイト家。
いや待て、しかしホワイト少年自身も戸惑ってるな?
果たしておかしいのは、山羊か、ホワイト家か。
困惑しながらも、山羊を凝視してしまう。
余程皆様の予想だにしない光景だったのだろう。
いつの間にか、戦闘が止まっていた。
決着がついたとかじゃなくて、全員の視線が山羊(※ホワイト家所属:メリッサ)の方へ釘付けだ。みんなが山羊に意識を取られた為、結果として戦闘がストップしている状況だった。
私達を襲ってきた魔物の牛も、チャクラムを放った山羊も、例外なく山羊のメリッサを見ていた。
そして幾許もしない内に、状況に動きがあった。
他でもない、山羊のメリッサが光るという動きが。
そう、山羊のメリッサは光っていた。
内側からあふれ出るように、透明な光を四方八方へと。
同時に、ふわりと蹄が地を離れる……虚空へと、明らかに浮き上がっていた。
確定、おかしいのはホワイト家の山羊飼い技術じゃなくて、山羊の方だわ。
よくわからない光景を前に、居合わせた全員の意識はますますメリッサが独占している。
山羊のメリッサだけは己が光る事にも浮く事にも違和感など無いのか、悠然とした態度で。
ゆっくりと首をもたげると、言葉もない様子でぱかーんと口を開けていたアラバスター・ホワイトへと慈愛と叡智の滲む眼差しを向けて——やがて、ゆっくりと首を垂れた。
それはまるで、王に傅く家臣のように。
「えっ?」
素っ頓狂な声を上げるホワイト少年は、ただただこの場の誰よりも困惑している様子だった。
何が起きているのかわかりません、そう言わんばかりにきょろきょろとあっちこっちへ視線を飛ばし、心底困り果てた様子で眉尻を下げて肩を落としていた。
安心してほしい。
何が起きているのかわかってないのは、ホワイト少年、君だけじゃない。
できればこの状況に説明が欲しい所なんだけど……何が起きているのか、この場の誰一人として理解できていなさそうなのが、またなんとも言えない感じだった。
求、誰か事情通の解説者。
場に乱入してきたメリッサ(※山羊)の正体は——!?
a.精霊
b.怪物
c.魔物
d.天使
e.改造山羊
f.超能力山羊




